「ワンハンド」で洗たくスタイルを刷新 花王アタックのデザイン

洗剤業界で世界初※となるワンハンドタイプの採用で、新しい洗たくのスタイルを提案した「アタックZERO ワンハンドタイプ」は、洗剤の新定番になり得るポテンシャルを持つ。同商品誕生の経緯や販売後の反応について、花王ファブリックケア事業部の山本理恵氏に聞いた。

文・矢島進二 日本デザイン振興会 理事

 

洗たく用洗剤「アタック」は1987年の発売以来、花王の"顔"となり、ブランドとしてもビジネスの柱としても同社を牽引してきた商品の一つだ。

初代アタックはバイオ酵素の強力な洗浄力によってスプーン一杯で洗たくを可能にし、洗剤容量を従来の1/4(発売当時)に低減、世の中に新しい洗たく習慣を根づかせた。2009年には省エネや節水など環境に配慮した「アタックNeo」を販売。濃縮洗剤によって容器もコンパクトに変化した。アタックは暮らしを変え、新しい価値提案をするブランドとして育ち、現在に至るまでトップシェアを守り続けている。

そして、次の革新は新技術とデザインから生み出された。2019年に発売し、2020年度グッドデザイン・ベスト100を受賞したのが「アタックZERO ワンハンドタイプ」だ。

片手で計量できる「アタックZERO ワンハンドタイプ」は新しい洗たくのスタイルを提案した

技術×マーケティング×デザイン

花王といえば昔からマーケティングに長けた企業として有名だが、20世紀に飛躍的に発展したマーケティングも時々のビジネス事情に沿うように変遷している。市場の成熟化や社会的課題の顕在化、SNSの発達等を背景に、リサーチ主導では新しい価値の創出はできず、マーケティングにおいてもデザインやクリエイティビティの必要性が叫ばれるようになった。

「アタックZERO」は、花王が2018年に発表した、高い水溶性を有しながら油になじみやすい性質を併せ持つユニークな界面活性剤「バイオIOS」の採用第一号製品だ。バイオIOSは社運を掛けた技術であり、そのアドバンテージを可視化する革新的で戦略性の高い容器デザインが求められた。

液体洗剤は容器のキャップを使って計量するものが一般的だが、片手がふさがった状態では計量ができない、視力が落ちると目盛りが見えづらい、普段洗たくをしない人には投入量がわかりづらい、キャップを使わず目分量で投入されると適正量で洗たくできていないなど、いくつもの課題があった。

その課題解決として考え出されたのが「ワンハンドタイプ」と呼ぶ、片手で押すだけで、簡単に洗剤を投入できるプッシュスタイルの容器だ。片手のみで力の強弱に関わらず誰もがワンプッシュで正確に5gが投入できる設計により、シニア層や障害をもつ人でも使いやすい。またタオル掛けなどに引っ掛けられる形状や、液垂れがしない構造、レバー天面をフラットにし詰替え時に倒立させても直立するなど、細やかな配慮が各所に施されている。

日常の暮らしの中にある"ちょっとした不満"を解消し、ストレスを軽減することにデザインは貢献できることを同商品は示している。現代のデザインは、加飾のような付加価値ではなく、ものごとの本質的価値を高め、より良い状況を生み出すためにあるのだ。

容器の開発は、花王内にある包装技術研究所が5年を費やした。開発当初は少人数でスタートし、その後10人規模になり、原型ができた後に、プロダクトデザイナーやパッケージデザイナー、さらにマーケティングや商品企画の担当等がチームに加わる。

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