デジタル新時代、変わる行政 NTT東日本「自治体DX会議」

2021年1月18日にオンラインで配信した「自治体DX会議」では、コロナ禍における行政DXの潮流と最新事例が自治体職員向けに発信された。行政の研究者、変革に取り組む行政職員、現場最前線でソリューションを提供するNTT東日本が登壇し、議論を深めた。

DXの時代に求められる
行政職員の姿とは

第一部では、まず横浜市政策局共創推進室 共創推進課 課長補佐 兼 事業構想大学院大学 客員教授の河村氏より、「これからの公民共創~VUCA・DXの時代に必要なオープンイノベーション~」と題して、公民共創で重視することやオープンイノベーションについて語られた。

河村 昌美 事業構想大学院大学 客員教授

現在は、新型コロナウイルス感染症によって、社会全体のデジタル化に一刻の猶予もないと言われているが、行政単独ではこうしたデジタル化に対応することは難しく、公と民の共創が非常に重要だと河村氏は語る。

そしてその公民共創を進めるにあたって、河村氏が最も重要視している点は、「対話と共感」であるという。イノベーションを創造するためには、立場が違う行政と民間企業が互いの組織に対する共感を持って会話し、サービスの受益者である住民への共感と対話を常に行うことが重要であると、横浜市の事例をもとに語った。

次に、元大阪市職員で、早稲田大学政治経済学術院の稲継教授より、「未来の行政職員のあり方 デジタル活用が行政にもたらすもの」と題して、デジタル化する社会の中で自治体職員のめざすべき姿について語られた。

稲継 裕昭 早稲田大学 政治経済学術院 教授

いま、行政のDX化が求められているなか、経済産業省では組織のDXの成熟度をチェックできるDX推進指標を取りまとめている。そこでは技術に関わる部分よりも、デジタルを活用する人や組織の文化、ガバナンスの体制に依拠するものが多いという。

稲継教授は、未来の行政職員のあり方として特に重要なことは、まず、デジタル化やDXの行政文化を醸成すること、そこに紐づいて、AIやRPAに任せられる業務は任せ、人間にしかできない業務に注力していくことが重要だと語った。一つの例として、元サン ジョンを掲げ、まちづくりの計画としフランシスコ市長のギャビン・ニューサム氏の著書で、稲継教授が監訳をした2016年の書籍「未来政府」を挙げ、市長自らシリコンバレーのさまざまな創業者にインタビューを行い、行政が上から市民を押し付けるのではなく、行政がデジタルを活用して市民に近づく事例をいくつか示した。

 

続いて第二部では、まちづくりとDXに先進的に取り組む自治体として、横瀬町まち経営課 勝間田氏と、仙台市まちづくり政策局情報政策部 利氏、さらに各地の行政DXの知見を持つNTT東日本 地方創生推進部 長谷部氏を迎えて、事業構想大学院大学 河村教授とともに産官学のそれぞれの立場から議論を深めた。

まちの未来を変える
『よこらぼ』の取り組み

まず前半では、「前例踏襲型」に捉われない新たな取り組みを行っている横瀬町のまち経営課 勝間田氏に、その詳細を聞いた。

勝間田 幸太 横瀬町 まち経営課 主査

横瀬町は埼玉県の秩父地域の山間にある人口8,100余り(2021年1月末現在)の小さな町だ。町役場では、このまま何もせずにいくと2060年に住民が2600人まで減少すると予想を立て、町の未来を変えるための取り組みとして、2020年4月から第6次横瀬町総合振興計画をスタート。『日本一住みよい町、日本一誇れる町』という将来ビジョンを掲げ、まちづくりの計画として、さまざまな人の多様性を尊重した『Colorful Town』に取り組んでいる。

その中で新しいチャレンジとして2016年に立ち上げたのが、横瀬町の官民連携によるプロジェクトプラットフォーム、通称『よこらぼ』だ。設立してから4年間で148件の提案、82件のプロジェクトを実際に採択して、毎月約2件の新規プロジェクトを提案者と行政が共同で実施している。

その内容は、新規技術の開発や実証に関するもの、教育・子育てに関するもの、シェアリング・エコノミーに関するものなどさまざまだ。DXに関連する事例では、スマートフォンで町のコミュニティバスの運行状況や位置を見える化する『見えバス』や、スマートフォンから気軽に小児科医師に相談できる『小児科オンライン』、高齢者が外出時に携帯する緊急連絡ステッカーとアプリを連動させた『みまもりあい』など、町民に寄り添った多種多様なプロジェクトが生まれている。

横瀬町 見えバスプロジェクト

横瀬町 小児科オンラインプロジェクト

これまでの成果の積み上げによって、案件が案件を、人が人を呼ぶ好循環ができており、開発した企業はサービスを速やかに実証につなげられ、利用者にとっては利便性が向上するなど、双方がwin-winのプロジェクトになっているという。

公と民の化学変化を起こすために

横瀬町は『よこらぼ』の取り組みをどのように捉えているか、勝間田氏に聞いた。

「もちろん件数やユニークなプロジェクトが多いことは喜ばしいことですが、それよりも、町(行政側)が従来は気づいていなかった課題や、把握していなかったニーズなどに気づけることがとても重要なことだと感じています。『よこらぼ』は特定の課題やテーマを設定せずに、とにかく提案者様のやりたいことを提案いただくという、オープンなスタンスで行っておりますので、その特徴がうまく機能していると感じています」

東日本エリア各地での自治体DXにさまざまな知見を持つNTT東日本長谷部氏からは、「公民の共創や産官学の連携が大事だと言われている昨今ですが、『よこらぼ』はまさに公民の化学変化を起こす素晴らしい取り組みだと思います。NTT東日本でも、社会課題解決に向け、地域の皆さまがICTをより身近に活用いただけるよう、実証実験の環境として『スマートイノベーションラボ』や『ローカル5Gオープンラボ』を稼働させています。実証実験をやりたいというニーズがある場合に、まずこのラボで実証し、効果が見込まれれば実装に向けて進めていく、という仕組みをご提供できればと考えています」とコメントがあった。

AI・IoT技術などの実装に向けた実証環境を提供するスマートイノベーションラボ

自身も現役の横浜市職員であり、長年公民共創の研究・実践を行ってきた河村教授は、「まさにオープンイノベーションだと感じます。DXの時代において、官と民それぞれが得意分野である知見や環境やフィールドを少しずつ提供して実証サイクルを回していくことで、想像もしない効果を出したり、コストを軽減したりすることが可能です」と語る。

最後に、「公民連携やオープンイノベーションを進めていくために、NTT東日本のようなICT企業に、どのような期待がありますか」との長谷部氏からの問いかけに対し、勝間田氏から「まずは横瀬町をフィールドとして活用いただけるのが、町にとっては一番うれしいことで、横瀬町でチャレンジしたいという想いのある方はどなたでもご提案いただきたいと思っております。また、町全体でDXを推進していくために、幅広い世代の住民の皆さまに、テクノロジーに触れる機会をつくっていきたいと思っていますので、そのような連携を今後ぜひさせていただきたいです」と締めくくった。

仙台市が考えるDXとは

続いて後半では、RPAやAIを先進的に活用しDX計画の策定に取り組む、仙台市のまちづくり政策局情報政策部利氏より、具体的な取り組みと構想を聞いた。

利 大作 仙台市 まちづくり政策局情報政策部 部長

仙台市では、昨今のICTを取り巻く環境で、RPA・クラウド・AI・IoTの活用や、情報セキュリティ対策などが求められるなかで、より市民サービスの向上を図るために「仙台市ICT利活用方針」を定め、2016年から2020年までの5年間、次のようなICT利活用に取り組んできた。


1. AI議事録作成システム
2. サーバー型RPA・グループウェア制作ソフト
3. 区局間のWeb会議システム
4. 住民・事業者向け手続きナビゲーションシステム

仙台市 AI議事録作成システム

仙台市 区局間のWeb会議システム

市では、このようなデジタル化推進への取り組みを加速するため、2021年6月に、『(仮称)仙台市DX推進計画』の策定をする予定だ。しかし、現在のコロナ禍においていち早く市民サービスや業務の改革を行うため、特に必要性の高い3つの項目については、「デジタル化ファストチャレンジ」の柱として取りまとめ、計画策定に先駆けて取り組みを進めている。

まず一つ目の柱は、「窓口手続きのデジタル化」として、7100種類ある書類の押印や添付書類の見直し、キャッシュレス決済の導入、スマートフォンでの証明書の交付手続き申請などを可能にする。二つ目の柱は、「デジタルでつながる市役所」として、役所と工事業者との現場確認や、市民からの子育て相談窓口のオンライン化に対応する。三つ目の柱は、「デジタル化で市役所業務を改善」として、Web会議システムなどを活用し、会議や研修による移動時間や費用を削減し、RPA・AIの活用でさらなる業務効率化を行い、市民サービスの質の向上を図っていく。

『(仮称)仙台市DX推進計画』の策定にあたっては、一部の業務の効率化だけで終わらないよう、市長をトップとして、全庁一丸となってスピード感を持って進める体制を構築し、職員一人一人が主体的に業務の見直しとデジタル化に取り組む。めざす姿は、人(市民)、町(地域・経済)、市役所の全体が「スマート」に変貌することだ。

コロナ禍への対応できるところから

仙台市が次々とデジタル化に向けた取り組みを推進する背景を利氏に聞くと、意外な回答が返ってきた。

「われわれ市の職員としては、新型コロナウイルス感染症が拡大するなかで、コロナ禍前にもっと業務がデジタル化されていればよりスムーズな運営ができていた、との思いがあります。仙台市に限らず、どの自治体でもデジタル化に取り組んでいたと思いますが、なかなか予算化につながらない、または人手が足りないというのが現実的な部分ではないかと思います。だからこそ、このコロナ禍をきっかけに、第三波、第四波への対応のためにも、スピード感を持ってできる部分から順次行っていくことを強く意識しています」

長谷部 周彦 NTT東日本 地方創生推進部 部長

NTT東日本 長谷部氏からは、「おっしゃる通り、現在、急速にリモートワークや遠隔対応のニーズが高まっており、各自治体から弊社に対して、デジタル化、DXに向けたお問い合わせを多くいただいている状況です。例えば定額給付金の申請処理。東京都のある自治体からはいち早くご相談をいただき、給付処理の自動化、迅速化を進めたいとのことで、弊社社員も参画しRPAを活用した業務改革のお手伝いをさせていただきました。また自治体では全般的に、紙をどれだけ減らせるかということにも課題があります。岩手県のある自治体では、紙の文書を読み取って自動で処理するAI-OCRとRPAを組み合わせた実証実験を行い、ふるさと納税やアンケート集計の業務で8割程度の稼働削減を実現しました。さらに、AI-OCR、RPAを導入し紙の文書をデータ化し、テレワークと組み合わせることで、庁内で実施する作業時間を最大95%程度削減することもできました」と自治体での取り組み事例が紹介された。

河村教授は、「コロナ禍という特殊な状況において、各自治体が過去にない取り組みをスピーディに進める必要がありますが、AI-OCRなど、さまざまなICTツールがあるなかで、それを使いこなす人材や知見が不足している、というのが自治体の現状かと思います。その点、NTT東日本のような各地での事例を持つ専門家の知見を聞きながらであれば、自治体にとっても進めやすいのではないかと思います。今回の危機のようなときこそ、公と民、別々という形ではなく、タッグを組んで一緒に取り組む姿勢で臨めば、そこに地域の企業や学術機関も入って、社会課題に対する改善策を考える場を作れるのではないかと思います」と締めくくった。


*文中に記載の組織名・所属・肩書・取材内容などは、すべて2020年12月時点(動画収録時点)のものです。
*文中の事例は一例であり、すべての方に同様の効果があることを保証するものではありません。

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