薬草栽培から製薬、販売まで一気通貫 伝統薬の「新しい」作り方

2004年に創業した伊勢くすり本舗は、無農薬での薬草販売から製薬、販売までを一気通貫で手掛ける。薬草ファームを中核とした壮大な地方創生プロジェクトに取り組み、地域と伝統薬業界に新風を吹き込んでいる。ヘルスケア×地方創生の可能性とは。

伊勢くすり本舗の販売する健胃清涼剤「萬金丹」

550年の伝統と革新

伊勢くすり本舗は、1570年創業の加藤延寿軒と称した製薬所をルーツに持つ、三重県鈴鹿市の伝統薬会社だ。600年続く伝統薬『萬金丹』をはじめ、昔ながらの知恵を現代の健康に活かした薬作りに取り組んでいる。

同社のユニークな点は、薬の製造販売だけでなく、無農薬での薬用植物栽培も行っていること。「薬草栽培から薬作り、そして販売までを一気通貫で手掛けている製薬会社は、日本ではもうほとんどありません」と伊勢くすり本舗代表取締役の加藤宏明氏は胸を張る。

加藤 宏明 伊勢くすり本舗代表取締役

現在、同社は地元農家や高等専門学校など産学官と連携し、薬草作りを活かした壮大な地方創生プロジェクトを推進している。

原点に立ち戻り、薬草栽培に着手

加藤氏は子どもの頃から家業の製薬会社を継ぐことを志していた。大学では薬学部に進んで知識や経験を積み、アメリカと中国に留学して医療について見識を深めた。その後、総合商社を経て家業に参画。しかし経営不振で会社は行き詰まり、2004年に大手化粧品会社に買収されてしまう。一念発起した加藤氏は自ら伊勢くすり本舗を創業、伝統薬の復活に取り組んできた。

これまで、伊勢参りのお土産として古くから伝わる健胃清涼剤『萬金丹』や(指定医薬部外品)、や和漢便秘薬『伊勢おはらい丸』(第2類医薬品)、和漢植物3種を配合した黒糖風味の飴『萬金飴』などのヒット商品を世に送り出してきた。その傍らで、家業のたどった過去を見つめ直しながら、新規事業の検討も進めてきた。

「日本には『正露丸』や『百草丸』など今も有名な伝統薬がありますが、一方で小さな伝統薬会社はどんどん廃業しています。伝統薬衰退の最大の理由は、消費者の目線に立たなかったこと、情報提供をきちんとしてこなかったことだと思います。例えば、伝統薬の原料である薬草の多くは中国産で、どのように栽培されたかがわからず、消費者に安心を届けられていなかったのです」

もともと加藤氏の家業では薬草園を保有し、昭和初期には芍薬(シャクヤク)の栽培を行っていた。「そこで、伊勢くすり本舗も原点に立ち返り、薬草栽培を始めようと考えました」。もちろん、ただ薬草を栽培しても、価格の安い中国産薬草には到底敵わない。加藤氏が構想したのは、シャクヤクの"全て"を利用して付加価値を生むことだった。「根は伝統薬原料に、花は化粧品や雑貨に、畑は観光事業に活用し、これら全てで事業が成り立つ仕組みをつくりました」

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