マーケティングで予防医療を促進 行動変容で健診受診率を向上

全国で予防医療を促進するための事業を展開するキャンサースキャンは現在、約530の自治体と共に、健診受診率向上などに取り組んでいる。人々が自発的に望ましい行動を選択するよう促す「ナッジ」の手法を活かし、健康増進をサポートする。

健診受診率の向上など、予防医療を促進するための事業を全国展開するキャンサースキャンは2008年に設立された。現在は全国の約530自治体で、「特定健康診査受診率向上事業」や「がん検診受診率向上事業」、「糖尿病等の重症化予防事業」などを実施している。

福吉 潤(キャンサースキャン 代表取締役社長)

マーケティングの力を
予防医療に活かす

「これらの事業を構想し始めたのは、米国留学していた2006年のことです。私は当時から日本には将来、予防医療の時代が来ると思っていました。予防医療では早期の発見や治療を促すため、検診を受けてもらうといった行動変容が重要です。そこで、その行動変容を引き起こすビジネスを展開できないかと考えました」。

キャンサースキャン代表取締役社長の福吉潤氏は、起業のきっかけについてこう語る。米国留学前は一般消費財メーカーのP&Gで洗剤のマーケティングを担当していた福吉氏は、職場で培ったスキルを活かし、社会課題の解決に取り組みたいと考えていた。そしてハーバード大学経営大学院に留学し、共同経営者の石川善樹氏に出会った。石川氏は当時、同大学公衆衛生大学院で予防医療に関する研究をしていた。

「予防医療にマーケティングの力を活かせば、健康に関心がなかった人たちに検診を受けてもらう行動変容を起こせると2人で考えました。また、右肩上がりで費用が増える日本の医療システムをサステナブルにするには予防医療が重要であること、その取り組みは自治体と共に行うしかないという結論に達しました」。

全国の自治体は住民に様々ながん検診や特定健診を提供しているが、受診率アップにはどの自治体も苦労している。ただ一方で、自治体は企業と契約して行う事業では、過去の実績を重視する傾向がある。キャンサースキャンのサービスは前例がなかったこともあり、2008年の創業以降、数年間は実績が少なく、契約を増やすのが困難な状態が続いた。しかし、実績づくりが進んだ4年程前から契約数は急速に増え、現在は全国の自治体から依頼が絶えないという。

「スタートアップの場合、最初から実績がある企業はありません。実績づくりに先行投資的な時間がかかるのは、公共セクターを対象にしたサービスの特性だと思います」。

事業を通じて、自治体が持つビッグデータの存在や、その活用が住民の健康維持に役立つことも分かってきた。行動変容を起こすためにキャンサースキャンが用いているのは、「ナッジ(nudge)」の手法だ。ナッジは行動経済学の分野で、人々が強制ではなく自発的に、望ましい行動を選択するよう促す仕掛けや手法を示す。自治体が持つビッグデータを解析し、ターゲットを明確にした上で、対象となる人たちが行動に至るようなメッセージを開発する。そして、パンフレット等の形で住民に送る。

「住民が受けられる検診には様々なものがあります。検診の申込書が受けたい検診に〇を付ける方式になっていれば、多くの人は1つか2つしか選びません。しかし、これを、受けたくない検診に×をするという方式に変えるだけで『受けたくないという程ではないので、受けようか』と考える人が増えるのです」。

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