脱炭素で変わる地域金融の役割 地域とともに新たな価値を創出

ESGやSDGsの普及で大きな変化の途上にある金融業界。特に地域金融機関は地域社会の持続可能性にいかに貢献するかが問われている。長年環境金融の現場に身を置き、ESG投資・SDGs金融の最前線を見てきた吉高まり氏が東北・北海道で動き出した地域金融の新たなあり方を紹介する。

地域の農産物や自然エネルギーなど、土地の資源をいかに活用して地域の持続可能性を実現するか。地域金融機関は資金循環を担う立場からどのように地域へ関与していくかが問われている

グリーンリカバリー政策と
コロナ禍の地域金融

菅首相は10月26日の所信表明演説において、新型コロナウイルス対策、デジタル対策、地方活性化とともに、2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにすることを宣言した。コロナ禍は、世界的に環境問題に対する意識を高め、経済復興政策に環境に配慮した「グリーンリカバリー」政策が各国から打ち出されている。EUでは90兆円のコロナ禍からの復興基金もその目的にグリーンとデジタルトランスフォーメーションの推進が盛り込まれており、菅首相の政策もまさにグリーンリカバリー政策と言えよう。

また、菅首相は地方銀行の再編にも言及した。コロナ対策のため、緊急融資が国・自治体から要請され、地域の中小企業・零細企業を支える役割を持つ地方銀行は真摯に対応している。しかし、安易な融資の拡大は不良債権を生み、地域金融機関の破綻や地域経済の崩壊を招く可能性がないとも言えない。地方経済において重要な役目を果たす地域金融を支えるため、国は地銀による企業への出資規制を一部緩和するなど支援をしているが、地域金融には新たに業務を広げ「稼ぐ力」を高めていくことが求められている。

ESG投資と
SDGs(持続可能な開発目標)

年金基金や生損保などの長期視点で運用するESG投資家は、投資先の財務パフォーマンスや経営・事業の戦略を精査するのに加え、企業統治(G)や、環境(E)と社会(S)の課題への対処などの非財務情報で評価をする。しかし、日本企業はこれらの情報開示が遅れていると言われ、株価にも影響が及ぶリスクがある。そこで活用されているのがSDGsである。企業は、社会課題という市場のニーズに対し本業を通じ、解決を目指すことで、SDGsの達成期限である2030年やその先に向けて成長し続け、存続することが期待されるからである。例えば、アサヒビールが販売している『クリアアサヒとれたての贅沢』は宮城県東松島市で栽培された「希望の大麦」が使用されている。この麦の栽培は一般社団法人東松島みらいとし機構とのプロジェクトで、アサヒグループホールディングスにとっては本業を通じたSDGsプロジェクトである。このような本業を通じた社会課題の解決事項を、企業はESG投資家に対してストーリーとして開示し、企業の将来価値の向上の情報を提供する。地域を支える地方金融機関は全国で500を超えるが、そのうち一部上場を果たしている銀行数は70行である。この上場している地銀も含め企業はESG投資家からの情報開示の要請に応えなければならない。これは大手上場企業だけの問題ではない。長期視点で運用するESG投資家にとって、上場企業が関わるサプライチェーンを含むすべてのステークホルダーとの関連性は重要な評価項目である。したがって、非上場の中小企業や中小金融機関は、自社のビジネスのバリューチェーンにおけるリスクとビジネス機会を認識する必要がある。これが、地域金融が本業を通じたSDGsビジネスに力を入れるべき理由の1つである。

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