大分県知事が語る「おんせん県」の新戦略 仕事をつくり、人を呼ぶ
大分県版第4次産業革命への挑戦など、人を呼び込む魅力ある仕事づくりを進め、「日本一のおんせん県」として、新たな観光施策にも力を注ぐ広瀬勝貞知事。活力ある地域づくりに向けた戦略や県の将来ビジョンについて、話を聞いた。
先端技術のフロンティアに挑戦
――大分県は、第4次産業革命の施策として「OITA4.0」を推進しています。
広瀬 少子高齢化、人口減少社会を迎える中で、国・地方をあげて「地方創生」が言われています。私も「人を大事にし、人を育てる」、「仕事をつくり、仕事を呼ぶ」、「地域を守り、地域を活性化する」の3つを政策の柱として掲げて取り組んでいます。
そんな中、現代はまさに先端技術の時代であり、IoT、AI、アバター、ドローンといった先端技術が、世の中の有り様まで変えようとしています。もちろん社会が抱える様々な課題を解決することも期待されています。
大分県もインダストリー4.0を受けて、産業の発展、地域課題の解決、地域の活性化のために先端技術を使っていこうと「OITA4.0」を打ち出し、取組を進めてきました。例えば、昨年の秋には、県内中小企業4社が協力して2年がかりで制作した地球環境観測衛星「てんこう」の打上げに成功しました。中小企業にとって、宇宙ビジネスのフロンティアへの挑戦は企業の技術力の発展につながり、若い人の採用にも大きな力を発揮したと聞いています。
また、ドローンにも大きな期待を寄せています。県の産業科学技術センターの中に「Ds-Labo」という世界最大級の磁気シールドルームなどを備えたドローン研究開発拠点を整備するとともに、民間企業が開発したドローンを活用して、地域課題となっている日用生活品の定期配送や林業資材の輸送の実証事業にも力を入れています。今後、実業化に繋がっていくことを期待しています。
これら先端技術のフロンティアに挑戦する県内企業の活躍をしっかりと支えながら、防災・減災や農林水産業、土木といった様々な分野の高度化を図り、大分県を未来に希望の持てる活力のある地域にしていきます。
仕事をつくり、人材を呼び込む
――産業の発展を支える人材の確保や活躍を後押しする環境整備、人を呼び込む魅力ある仕事づくりに向けた施策について、お聞かせください。
広瀬 「仕事づくり」が地方創生の大きな柱の一つと申し上げましたが、産業の発展のためには、先ずは、県内企業の99%を占めている中小企業・小規模事業者に活躍していただくことが重要です。商工業を取り巻く急速な環境変化の中、地域の商工会議所や商工会と連携し、商品の開発から生産・販売、経営面などを伴走型できめ細かに支援しています。
2つ目は、創業に対する支援です。県では、「スタートアップ1500」として2015年度から3年間で1500件の創業を生み出すことを目指して種々応援した結果、実績は1635企業となりました。また、創業間もない企業のチャレンジを応援するビジネスグランプリなどの取組に加え、別府市にある立命館アジア太平洋大学(APU)では、出口治明学長が自ら塾長となり、「APU起業部」を昨年7月に立ち上げ、将来、起業を目指す学生を支援するなど、行政以外にも創業支援の動きが広がっています。
3つ目は、本県がかねてより積極的に進めている企業誘致です。企業を誘致することで、地場の中小企業の活躍の場が拡がり、雇用機会の拡大や地域の活性化にも繋がります。昨年度の企業誘致件数は過去最多の59件となり、新規雇用者数も1522人となりました。2003年度から2018年度までの16年間で435件の企業を誘致し、2万84人の新規雇用を生み出しました。
昨年度は自動車関連企業の投資が堅調であったことに加え、初の外資系企業の誘致などIT関連企業の進出が好調でした。今後も企業誘致を取り巻く環境変化に留意しながら、自動車や半導体関連などを中心とした製造業の誘致を引き続き進めるとともに、県内に幅広く立地が可能なIT関連企業の誘致に向け、サテライトオフィスの整備に努めるなど、大分県版第4次産業革命を支える多様な業種の企業誘致に取り組み、魅力ある仕事づくりを進めたいと考えています。
このように、人を呼び込む魅力ある仕事づくりと併せ、産業の発展には人材確保と育成が必要不可欠です。大分県では大学進学等をきっかけに県外へ流出する学生に対し、ウェブマガジン「オオイタカテテ!」を通じ、大分の魅力や活躍する県内企業、実際に大分で働く若者たちを紹介し、Uターンと県内就職を働きかけています。ちなみに「カテテ!」とは、大分の方言で、「仲間にいれて」ということを意味します。
また、女性やシニア層の就業意欲の高い方に対しても、在宅ワーカー入門セミナーや合同企業説明会を開催するなど、積極的に支援を行っています。ここで人材確保に繋がった環境整備の事例を一つご紹介します。
大分県北東部に位置する離島、姫島村では人口が減少する中、「姫島ITアイランド構想」を掲げ、IT分野の企業や人材を呼び込むため、サテライトオフィスやコワーキングスペース等の整備を進めています。その結果、島としては43年ぶりにIT企業2社が進出し、計8名の雇用創出に結びつきました。その半数となる4名が姫島村出身者で、IT技術者の貴重なUターン人材として活躍いただいています。
一方で、外国人材の活用にも今後しっかり取り組む必要があると考えています。大分県は世界93の国と地域から約3600人の留学生を受け入れており、人口10万人当たりの留学生数が全国第2位です。このように多くの留学生が大分県に来ていただいていますので、是非、就職・定住の場として住み続けてもらいたいと願っています。留学生と協働することで、企業の海外展開支援やインバウンド観光にも期待ができると思います。
今後は、出入国管理及び難民認定法の改正により、県内でも外国人労働者が増える見込みです。県と市町村が足並みをそろえ、企業等が必要とする外国人材の適正な受入れ、日本人と外国人が安心して安全に暮らせる地域社会を実現したいと考えています。
温泉だけでない魅力を発信
――「おんせん県」の強みを活かした観光施策の展開や、食・文化等の観光資源を活かしたツーリズムの推進について、お聞かせください。
広瀬 大分県では、「日本一のおんせん県おおいた ♨ 味力も満載」のキャッチフレーズのもと、温泉はもとより、自然の豊かさや豊富な食材、そして人の優しさやおもてなしなど、大分の魅力を創り、国内外に発信してきました。これまで企画部門で行ってきた、ツーリズムの取組を商工部門に移し、観光PRやまちづくりによって人を呼び込むことに加え、観光産業の成長を支援し、収益力を高め、持続的・自律的に振興が図れるような体制づくりを進めています。
まず、取組を進める上で情報発信は重要です。大分県は温泉だけでなく、美しい自然やおいしい食べ物がたくさんあるのですが、知る人ぞ知るといった状況でもっと全国に、そして世界に情報発信をしないといけないと考えています。
今やデジタルマーケティングの時代です。観光施策においても、観光客が求める大分の魅力をウェブサイトやSNSなどを活用してしっかり発信しながら、データの収集・分析を進めることで、きめ細やかな情報提供を行うことが大切です。これまでの情報発信の考え方、やり方を抜本的に変えなければならないと思っています。
加えて、ツーリズムの推進には県内の観光業の振興も重要です。今年8月には「ANAインターコンチネンタル別府リゾート&スパ」がオープンするなど、大分でも外資系、県外資本の宿泊施設の進出が相次いで予定されており、「おんせん県おおいた」のブランドは一層高まりつつあります。これらの動きに合わせて、県内の観光宿泊業者にも頑張ってもらえるようサービスの充実や生産性向上のほか、集客力アップ、さらにはキャッシュレス化などの支援に取り組んでいます。
ラグビーW杯は絶好の機会
――インバウンド施策やラグビーワールドカップ2019を契機とした新たな取組について、お聞かせください。
広瀬 ラグビーワールドカップ2019では、過去の大会における動向や現時点で把握しているチケット販売状況から、外国人、とりわけ欧米・大洋州からの訪日観光客が多く見込まれています。大分県で開催される5試合についても、欧米や大洋州の強豪国が試合をすることから、その地域を中心に多くの観光客が来県することが期待され、日本一の温泉に代表される本県の豊かな天然自然をアピールしていく絶好の機会と考えています。
まず、観戦に訪れる外国人客には、滞在中に一足伸ばしていただくため、大分県の魅力的な観光地を精力的に情報発信します。今、多くの旅行者は、旅前(たびまえ)に現地の情報を調べる際、ウェブを活用しているので、海外での発信力が高いキーパーソンを本県に招請し、大分ならではの観光スポットを巡ってもらい、その情報を広く発信していただき、さらなる誘客につなげていきたいと考えています。
先般、ニュージーランドから招請した著名写真家には、久住や国東半島の美しい自然をウェブで情報発信していただいたところ、直後の3日間で1000件を超える反響が寄せられたところです。
また、観戦前後の滞在期間中には、大分らしいおもてなしが提供できるよう、地域を挙げて受入準備を進めています。外国人に人気の農泊体験ができる受入農家の拡充や、ブリ、アジや椎茸など大分特産の食材を使った大分版フィッシュ&チップスも開発しており、旅の思い出あふれるおもてなしができればと思っています。
加えて、このような取組を今後の誘客につなげる工夫も必要です。観戦客自らが本県滞在中に、旅中(たびなか)で発信するツイッターやインスタグラムのつぶやき等を分析し、ネガティブなものも含めて、観光関係者に情報提供することにより、海外からのさらなる誘客に向けて、観光・宿泊施設や公共交通などの環境整備に活かしていきたいと考えています。
地方創生の取組を加速前進
――「健康寿命日本一」や「子育て満足度日本一」などに向けた政策の展開や、そうした取組を通じて目指す県の将来像、中長期ビジョンについて、お聞かせください。
広瀬 大分県は古来より、海外から渡来する人や新しい技術、文化、思想を積極的に受け入れ、改良して、常に新しいものを創り出すなど、多様性の気風に満ちた土地柄でありました。本県の将来は、地方にあってもこの多様性を、今後も発揮できる社会であり続けられるかにかかっていると思います。
子供たちがふるさとで家族や近所の大人や友達とふれあいながら育ち、若者は常に新しいことにチャレンジすることが許され、お年寄りの豊富な知恵がそれを支え、尊敬される、そういう地域社会であって欲しいと願っています。
このような多様性を持ち、地域が持続していくためには、一定数の人がその地域で生活することが必要であり、少子高齢化・人口減少に対する地方創生の取組を加速前進していかなければなりません。
そのため、私が就任して以来「安心・活力・発展プラン」を策定し、様々な取組を進めてきました。例えば「子育て満足度日本一」の実現を目指した取組では、出会いから結婚・妊娠出産・育児までの切れ目ない支援を通じて、県民の子育ての希望が実現できるよう取組を進めています。
また、高齢化社会を見据えた「健康長寿・生涯現役社会の構築」に向けては、県民参加型の健康づくりや高齢者の生きがいづくり、介護予防、医療・介護サービスの提供体制の充実、認知症施策の強化、さらには地域包括ケアシステムの構築などにより、健康寿命日本一の実現にも取り組んでいるところです。
このように「県民中心の県政」を基本姿勢とし、「安心・活力・発展」の大分県づくりを基軸に、「人」が留まり、あるいはUIJターンなど新たな「人」を呼び込む魅力ある「仕事」づくりや、「人」と「仕事」の組み合わせによる魅力的で活力ある地域づくりを進め、大分県版地方創生を実現していきます。
あわせてIoTやAI、ドローン等の先端技術に挑戦し、地域課題の解決や生活の利便性向上を図っていきます。さらには、南海トラフ巨大地震等の大規模自然災害に備え、県土の強靱化も図っていきます。
- 広瀬 勝貞(ひろせ・かつさだ)
- 大分県知事