山形県知事が語る 日本一の「美食・美酒県」が目指す理想郷
山形県は世界最先端技術の産業集積に取り組むとともに、ブランド米や日本酒など、数々の魅力的な地域資源を有する日本一の「美食・美酒県」として、県産品の海外展開や観光振興にも力を注いでいる。県の戦略とビジョンについて、吉村知事に話を聞いた。
――県内企業のイノベーション促進や産業創出の施策について、お聞かせください。
吉村 本県は、有機エレクトロニクスとバイオテクノロジーの2つの世界最先端技術を活かした産業集積に取り組んでいます。
有機エレクトロニクスにつきましては、山形大学の世界最先端の研究成果をもとに関連産業の集積を目指してきました。有機EL照明などの製品化に取り組む県内企業数が70社に達するなど、着実な広がりを見せております。
また、山形大学では、有機エレクトロニクスの国際的な研究拠点の形成を進めるとともに、優れた研究成果を事業化に結び付けるべく、昨年度、「有機材料システム事業創出センター」を新たに開所させるなど、実用化・事業化の動きを加速させています。今後は、有機エレクトロニクス各分野において、山形が世界をリードする一大拠点となり、県内企業が参入・成長できるよう、産学官金が一体となってオール山形で取り組んでまいりたいと考えております。
バイオテクノロジーにつきましては、鶴岡市の慶應義塾大学先端生命科学研究所が2001年に開所して以来、地元の鶴岡市と連携し、研究教育活動に対する支援と、研究成果を活用した地域産業の振興に取り組んでまいりました。その結果、研究所と県内企業との共同研究も増えており、中には新しい製品の開発につながった企業も出てきております。
また、研究所発のベンチャー企業も6社誕生し、新たな技術やサービスの実用化に向け、研究開発に取り組んでおります。特に、研究所発のバイオベンチャーの1社で合成クモ糸繊維の開発に取り組むスパイバー社は、昨年、人工タンパク質の量産プラントの建設を発表し、商業生産の開始に向け期待が高まっています。
このような企業の取組みを支援し、県内におけるバイオ産業の集積をさらに加速させ、世界に誇る一大拠点となるよう取り組みを進めてまいります。
県産品のブランド力を磨く
――県産品・工芸品の競争力を高める施策について、お聞かせください。
吉村 農林水産業を取り巻く環境が厳しさを増す中で、激化する産地間競争を勝ち抜くためには、海外展開も視野に入れ、県産農林水産物のブランド力を磨き上げていく必要があります。
山形のトップブランド米「つや姫」は、全国トップクラスの高価格帯を維持しています。デビュー10周年を迎え、国内外での更なる飛躍に向けた機運の盛り上げを図ってまいります。また、「つや姫」の弟君として昨年本格デビューした「雪若丸」は、高い品質と特長である"新食感"が幅広い年代に受け入れられ、県内外で好調な売行きとなっています。
米以外にも、本県は、さくらんぼの「佐藤錦」や西洋なしの「ラ・フランス」などを擁する「園芸大国」です。その維持・発展に向け、これまでにない品種の開発も重要ですので、次世代の園芸農業を支える研究拠点となる園芸試験場にて、世界最大級のさくらんぼや皮ごと食べられる赤い大粒ぶどうなど、画期的な品種開発に着手してまいります。
本県には、農産物以外にも数々の上質な産品があり、特に日本酒は、本県を代表する地域資源の一つです。2016年12月に都道府県単位で初であり、唯一の清酒の地理的表示(GI)「山形」の指定を受けております。昨年5月には、世界最大規模のワイン品評会であるインターナショナル・ワイン・チャレンジ(IWC)の「SAKE部門」が開催され、本県は、都道府県別では最多となる3部門で最高位のトロフィーを、17銘柄で金メダルを獲得しました。金メダル受賞数は5年連続で全国一です。このように、世界的にも注目されていることから、今後も日本酒を核とした県産品全体の販路開拓などに取り組む「日本一美酒県山形」推進プロジェクトを進めてまいります。
海外展開力の強化に向けて、本県では、2015年に「山形県国際戦略」を策定し、台湾、香港、中国、ASEANを重点地域と定め、これらの国・地域及び欧米を中心に、さくらんぼ、りんご、もも、ラ・フランス、米、牛肉、豚肉等の農産物や加工食品、日本酒、工業製品、工芸品等の県産品の輸出拡大を図っています。
海外での販路開拓においては、信頼できるバイヤーを見つけ、継続した取引につなげることが重要です。山形県では、2012年度に一般社団法人山形県国際経済振興機構を設立し、県産品輸出コーディネーターが各国のバイヤー等と強固なコネクションを形成することで、農産物や加工食品等の県産品の提案等を行いながら継続的に現地百貨店等での販売プロモーションを実施することで取引拡大を図っています。
「食」や「雪」の強みを活かし、
観光誘客を推進
――山形県の観光資源の魅力についてお聞かせください。
吉村 本県では、地域の特性を活かして、数々の「美食・美酒」を生み出してきました。本県には、52の酒蔵と14のワイナリーがあります。最近は研究熱心な酒蔵やワイナリーが醸造技術に磨きをかけており、「日本一美酒県山形」を世界に向けて発信しております。
自然環境の面では、蔵王や月山、鳥海山などの秀麗な山々、日本一の数を誇る滝をはじめとする豊かな自然があり、県内35市町村のすべてに温泉が湧出する「温泉王国」でもあります。そして、出羽三山に代表される精神文化、新庄まつりなどの各地に伝わる祭りなどの「歴史・文化」があります。
また、本県は雪国でもあります。雪国である本県の暮らしには、降雪による生活上の厳しさが伴う一方で、雪国だからこそ育まれてきた豊かな文化や地域の魅力、また、雪を資源として活用する発想も多くあります。雪があるから遊び、雪があるから寄り添い、雪があるから輝ける、この山形の雪の魅力をしっかりと国内外の皆様に知っていただけるよう取り組んでおります。
――「観光立県山形」の確立に向けて、どのような施策を展開されますか。
吉村 本年10月から「新潟県・庄内エリアデスティネーションキャンペーン(DC)」が開催されます。
庄内地域には、出羽三山の精神文化、庄内藩鶴岡の城下町文化、北前船寄港地酒田の湊町文化など、多様な歴史・文化的な背景があり、日本遺産にも認定されております。また、出羽三山に伝わる精進料理をはじめ、だだちゃ豆など多くの在来野菜が継承され、現代の酒田フレンチや鶴岡イタリアン、多くの素晴らしい酒蔵など、多彩な食文化は、「食の都庄内」として高い評価をいただいております。
今回のDCでは、キャッチフレーズを「日本海美食旅(ガストロノミー)」とし、地域に共通する食の魅力を中心に、自然や歴史・文化など様々な観光素材を関連させたストーリーとして発信してまいります。
DCの効果を全県に波及させることも重要と考えており、本県の強みである「食」を活かすため、「美食・美酒県やまがた」を前面に出して観光誘客を推進しております。その中で、県内各地の特徴ある食文化と地域ならではの体験等を組み合わせた受入企画や着地型旅行商品の造成を促進してまいりたいと考えております。
本県の観光施策の指針となる「おもてなし山形県観光計画」では、「観光消費額」を、2019年までに2500億円に引き上げるという目標を掲げております。2017年の観光消費額は、2013年比約17%増の約2200億円と、目標に向け順調に推移しています。
また、2017年度の観光者数は過去3番目の約4512万人となりました。雪を活用したイベントやキャンペーンの展開等による冬期間の観光誘客の底上げや、外航クルーズ船の寄港やチャーター便の運航などによるインバウンドの増加など、「観光者数の増加」に向けたこれまでの取組みの一定の成果であると考えておりますが、「消費単価」の増加に向けては、更なる取組みが必要であると認識しております。
消費単価を上げるには、本県内での滞在時間を延ばすことが重要です。これまでも、「朝摘みさくらんぼ」や「羽黒山五重塔ライトアップ」など、宿泊したからこそ体験できる現地プログラムの充実に取り組んできました。さらに、今後は、本県の強みである「温泉」と「農業」を活用した山形ならではのツーリズムや、ナイトタイムの観光資源の磨き上げなど、「コト消費」(体験消費)を提案し、滞在と周遊を促進してまいりたいと考えております。
特に、「雪」を活かした新しいツーリズムについては、昨年、東北で初めて本県で開催した「国連世界観光会議」で、その可能性を世界に向けて発信し、今年度は、本県の提唱により「雪と文化をテーマとした東北観光プロモーション会議」を開催し、さらに冬の東北を強力に発信するとともに、商品造成に向けた熱心な商談会が行われました。引き続き、「世界の冬のリゾート地」を目指して、東北一体となった取組みを推進していくこととしております。
フル規格新幹線の整備が不可欠
――県経済のさらなる発展に向けた、奥羽・羽越新幹線の必要性・重要性についてお聞かせください。
吉村 現在の日本海側の高速交通網の整備状況は、太平洋側と比べ歴然とした格差があります。政府は均衡ある国土軸を実現しなければなりません。今後、国土強靭化やインバウンドをはじめとする国内外との交流拡大、さらには地方創生を実現するためにも、日本海側におけるフル規格の奥羽・羽越新幹線の整備が必要不可欠です。
両新幹線の整備は、太平洋側と日本海側全体の循環ルートやブロック圏域の循環ルートが形成され、これにより様々な交流が拡大し、国土全体の活性化につながるものです。こうした新幹線ネットワークの整備は、今後30年以内に発生の可能性が高いとされている日本海溝沿い海域の大地震など、有事の際の迅速な復旧・復興に大きく寄与するものであり、両新幹線は、将来の我が国に必要不可欠な基盤となるものです。
フル規格新幹線の整備に向けては、在来線特急である山形新幹線の運休・遅延の約4割が発生し、奥羽新幹線整備における最大の難所となる、福島~米沢間トンネル整備の早期事業化を図ることが、奥羽新幹線の整備を一歩でも前に進める足掛かりになるものと考えております。
昨年度から、トンネル整備の早期事業化を「最重要課題」と位置付けて運動を展開しており、引き続き、フル規格新幹線の足掛かりとなるトンネル整備の1日も早い事業化に向け、県、県議会、市町村、経済界等と一丸となって、山形の総力を挙げて取り組んでいきます。
「新理想郷山形」を実現へ
――山形県が目指す将来ビジョンについて、お聞かせください。
吉村 私は、本県の将来ビジョンとして「自然と文明が調和した新理想郷山形」を掲げています。このビジョンは「豊かな自然と人間生活との調和を図りながら、常に進化を続けて山形県の価値を高め続け、県民一人ひとりが喜びと幸せを実感していきいきと生きることができる社会」の実現を目指すものです。
将来ビジョンの実現のためには、県民一人ひとりが多様な個性や能力を発揮でき、また、地域活力の向上が図られるよう、「①県民総活躍」と「②産業イノベーション」を促進するとともに、次代を担う若者の県内定着を促すための「③若者の希望実現」が必要となります。
また、こうした県民の活躍や地域経済を支える基盤として、誰もが健康でいきいきと暮らせる「④健康安心社会」の実現、国内外との交流拡大や災害時のリダンダンシー機能(交通ネットワークの多重化など)の確保のための社会資本の整備を通じた「⑤県土強靭化」を図っていくことも必要です。
私は、これら5つを県政運営の基盤として、これまで各種施策に全力を挙げて取り組んで参りました。これからも引き続き「県民視点」「対話重視」「現場主義」を基本姿勢に強力に展開し、本県の魅力や価値をさらに高め続けながら、将来ビジョンの実現につなげてまいります。
県の将来ビジョン「自然と文明が調和した新理想郷山形」
- 吉村 美栄子(よしむら みえこ)
- 山形県知事