「まちの人事部」が地方の働き手を見出す 岡山県奈義町

地方における人口減少が止まらず、働き手の不足が深刻な問題だと言われている。岡山県奈義町では、実際には町民が「ちょっと働きたい」というニーズを持つことに着眼し、人材育成・採用のプロの力を借りて町民と地元企業をつなげる「まちの人事部」プロジェクトを行っている。

山本容子 まちの人事部(次期部長、上段左から2番目)、遠山健一朗 奈義町まちづくり戦略室(上段左から4番目)、日下章子 はたらこらぼ社長(下段左から1番目)、一井暁子 ナギカラ代表理事(下段左から3番目)

岡山県の北東部に位置する奈義町は、名峰・那岐山(標高1255m)に抱かれた、自然豊かな町だ。世界的な建築家磯崎新によって設計された奈義町現代美術館や、江戸時代から保存継承される横仙歌舞伎をはじめ芸術や文化も息づいている。ただ、1965年に7401人あった人口は6161人(2016年10月)にまで落ち込んでいる。同町は2015年に「奈義町まち・ひと・しごと創生総合戦略」を定め、「人口減少に歯止めをかけ、町の活力と産業の力を保つ」という目標のもと各種施策に取り組んでいる。

聞き取りから顕在化した働くニーズ

「まちの人事部」が運営している事業のひとつ「しごとコンビニ」は、町民の「ちょっと働きたい」と地元企業の「ちょっと手伝ってほしい」をつなげるワークシェアリング事業だ。奈義町の地域再生推進法人に指定されている一般社団法人ナギカラを中心に、人材育成・採用支援のプロである株式会社はたらこらぼと町民スタッフらとで、休業中のガソリンスタンドをリノベーションした「しごとスタンド」を拠点に活動を行っている。

「子育て世代のお母さん方から、『好きな時間や都合の良い時間、空いた時間に働きたい』といった声を聞いたことが『しごとコンビニ』発案のきっかけでした」と、ナギカラ代表理事の一井暁子氏は語る。一方で、サービス開始に先立って企業に聞き取り調査を実施したところ「企業は町に働き手がいないと思い込んでいて、必要な人に必要な情報が届いていないことがわかりました」と語るのは、はたらこらぼ社長の日下章子氏。

企業は人手が足りていない一方で、町民は空いた時間を有効に使いたいと思っている。そこで、企業に属さずに空いた時間、都合の良い時間で働く新たな選択肢を提供し、同時に地元企業の人手不足も解決するシステムとして「しごとコンビニ」の仕組みが生まれた。

働くを楽しく、得意を仕事に

「しごとコンビニ」では仕事を人に合わせる工夫を凝らしており、その一つが仕事の分解だ。例えば、文字おこしの仕事を受託した場合、短時間でも仕事ができるように、録音データを分割して業務を発注したり、データの入力やチェック業務を分けて発注するなどして、働く人の都合や能力に合わせて働けるやり方を考えている。

町民と企業をつなぐもう一つの重要な柱がスキルアップだ。一人ひとりと定期的に面談を行ってカルテを作成し、やりたいこと、得意なこと、なりたい姿などを聞いて、登録者に合わせて研修をカスタマイズしている。はじめは町から受注した仕事でスキルを積み、その後、企業からの仕事に移行するなどステップアップも図っている。

ある女性は、子どもとの時間を大事にしながら働ける働き方を求めて「しごとコンビニ」に登録に来た。企業のサポートなどの仕事をしていくなかで、自分が趣味で描いている絵が企業側から高く評価されていることを知った。そこで自分の得意な絵を使って自ら稼げるようになりたいという思いが強まり「5年で1000万円稼ぐプロジェクト」をスタート。彼女はまちの人事部のサポートを受けながら、プロジェクトのマーケティング戦略を練っている。

最近では、「企業サポーターズ」と称して、「こんな仕事ができる」と町外の企業に営業をかけることもある。とある建築資材施工会社に対しては、SNSで文章を発信するだけでなく、製品の特長を示す実験動画を合わせて提案し、高い評価を得た。

官民連携で
町民のキャリアを育てる

2018年12月時点で「しごとコンビニ」の登録者数は145人。仕事の実施案件数は855件で、稼働者数はのべ5340人件、報酬額は2000万円を超えている。奈義町内や岡山県内はもちろん、東京などの遠方からの案件も増えつつある。

奈義町まちづくり戦略室の遠山健一朗氏は「民間の発想で仕事が生み出されている。町民にとっては仕事を通じて地域とのつながりを実感できる場にもなっています」と、その役割を高く評価する。「町には『しごとコンビニ』への業務の発注に協力いただいているだけでなく、まちの人事部自体が町からの委託事業であることで町民や企業にとっては安心感につながっていると思います」と一井氏。

主婦がギフトセットとして商品をセレクトし、イラストによる販促物も作成している。

プロのノウハウ取り込み、
自立運営へ

「はたらこらぼから得たノウハウなどを活用し町民主体で運営できる体制を整えていくことがこれからの目標」と一井氏。そこで昨年10月に新部長を公募。約100人の応募者から選ばれたのが山本容子氏だ。まちの人事部に対する国の地方創生推進交付金を活用して行われている「しごとコンビニ」だが、今後は事業としての自立が求められる。

「登録者の皆さんの仕事の選択肢を広げていく一方、奈義町の人なら安心という人材のブランドを確立したい。そのためにも、柔軟な発想とスピードをもって、さらに付加価値のある働き方を創造していきたいと思います」と山本氏。「しごとコンビニ」の取り組みは、人手不足に悩む地域のモデルとなるだけなく、全く新しい発想による「しごとづくり」「ひとづくり」「まちづくり」とも言えよう。

お問い合わせ


奈義町まちづくり戦略室
TEL:0868-36-4126
URL:http://www.town.nagi.okayama.jp/

 

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一般社団法人ナギカラ
(奈義町指定地域再生推進法人)

TEL:0868-20-1661
URL:http://nagikara.jp/

 

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