大村秀章・愛知県知事が語る 目指すはイノベーションNo1都市

自動車関連産業を中心に、航空宇宙やロボットなどの「モノづくり」で世界レベルの競争力を持つ愛知県。自動運転実証実験の総実走距離は既に3,500kmを超えるなど、産官学が一体となり、モノづくりの強みと最新のテクノロジーを融合したイノベーション創出に邁進している。

大村 秀章(愛知県知事)

――日本を代表する「モノづくり」県として、これまでの取り組みと今後の成長戦略についてお聞かせください。

愛知県の産業構造は、古くから自動車に代表される製造業の占める比率が高いことで知られています。製造品出荷額等は1977年以来、40年連続で全国1位を維持しており、日本一の「モノづくり県」を標榜しています。GDPの推移を見ても、2010年に約34兆円だったGDPを2015年度には約40兆円にまで伸ばし、大阪を抜いて全国第2位に。その約4割を製造業が占めています。

ところが世界に目を向けてみると、1997年から2017年の20年間で、日本のGDPは横ばい状態。米国が2.3倍、中国が13倍であることに照らすと、いかに日本が活力を失っているかを痛感せざるをえません。いまこそ、地方が立ち上がり、東京一極集中に歯止めをかけ、日本の力を取り戻す核となるべきタイミング。本県が先頭に立って、次世代自動車、ロボットなど新しい時代の産業の振興を図り、最大の強みであるモノづくり産業の競争力をさらに高めて行きたいですね。

まず自動車産業においては、2016年度から県自らが先導する形で自動運転の実証実験を積み重ねてきました。これまでに終了した25か所の実証路線の総延長は約63km、総実走距離は3,500kmを超え、国内での先行事例であるとともに、類例を見ない規模となっています。

特に、昨年12月には、幸田町において、全国で初めて一般公道における遠隔型自動運転の実証実験を成功させたのを皮切りに、春日井市、名古屋市においても実施し、まさに自動運転社会の到来を、ここ愛知から全国に発信する契機となりました。今年度はこれまでの取り組みをさらに進め、複数台の遠隔型自動運転車両を同時に走行させる実証実験や大容量、超高速、低遅延を特徴とする第5世代移動通信システム(5G)の実験無線局を活用した実証実験を行うなど、自動運転の社会実装を見据えた最先端の実証実験にチャレンジします。

また、愛知県を中心とする中部地域は、日本の航空機・部品の5割以上を生産しており、日本政府から国際戦略総合特区の指定を受けている航空宇宙産業の集積エリアでもあります。今年6月5日に、フランス・ツールーズを圏都とするオクシタニ-地域圏政府との相互協力に関する覚書を締結。これを契機に、シアトルのあるアメリカ、ワシントン州に続き、世界の航空宇宙産業の2大集積地との連携を強め、産学行政が協力しあって県内企業の海外販路開拓を支援していくとともに、航空機製造業者の育成にも取り組み、当地域における航空機産業の製造基盤を強化していく計画です。

そして、自動車、航空宇宙産業に次ぐ第3の柱として期待しているのが大学や企業で盛んに研究開発が行われているロボット産業です。生産年齢人口の減少に伴い、物流、医療・介護災害対応など様々な分野でのロボットのニーズは高まってくるでしょう。そこで、愛知県がロボット産業の拠点となれるよう、2014年11月に、あいちロボット産業クラスター推進協議会を設立し、ロボットの開発側と利用側との連携により、新たな技術・製品の創出を促進しているところです。また、サービスロボットの社会実装に向けた研究開発や実証実験を支援していきます。2020年には、中部国際空港島にオープンする愛知県国際展示場を会場に「World Robot Summit」の開催が計画されており、日本一の集積を誇る愛知のロボット産業を世界に向けてPRする場になればと思っています。

図 日本のGDP(主な都府県の比較)

出典:国民経済計算(内閣府、各都府県HP)

――2027年に予定されている「リニア中央新幹線」開業も起爆剤になりそうですね。

リニア中央新幹線開業のインパクトを最大限に生かしていくためには、広域的視点のもとで愛知の発展を目指していくことが不可欠でしょう。2027年のリニア中央新幹線の開業により誕生する首都圏から中京圏に及ぶ大交流圏は、人口約5000万人、GDPは約250兆円とインドを超える規模となります。そこで本県では、名古屋市を中心とした概ね80km~100km圏を"中京大都市圏"と位置付け、国内外から人・モノ・カネ・情報が集まり、活発な活動が展開される大都市圏に成長させていきたいと考えています。具体的には、名古屋駅のスーパーターミナル化や40分交通圏の拡大、幹線道路の整備、中部国際空港の二本目滑走路を始めとした機能強化や、名古屋港を始めとした港湾の国際物流機能の強化等々です。

さきほど自動車産業の話でご紹介した自動運転の実証実験もそうですが、インフラ整備を進めていくには、国、県、名古屋市、鉄道事業者等の関係者、地域の関連団体等との協議・調整が欠かせませんし、それこそが県行政の担うべき仕事だと思います。コストのかかるものも多く、市町村の予算では対応できません。たとえば、40分交通圏の拡大に向けた鉄道ネットワークの充実・強化については、2015年3月に策定した「リニアを見据えた鉄道ネットワークの充実・強化に関する方策案」に基づき、名鉄三河線の速達化について、鉄道事業者などと協議・調整を進めるとともに、中部国際空港のアクセス向上や東海道新幹線駅の利活用の促進に向けた検討を進め、名古屋市が行う名古屋駅の「わかりやすい乗換空間」の形成等に関する検討調査の支援等にも積極的に参画していきます。さらに、国際展示場やジブリパークの整備、武将観光や山車文化といった地域資源の磨き上げ、トリエンナーレやMICEなどの大規模イベントの開催によって、地域の魅力を発信していきたいと考えています。

その結果、中京大都市圏の立地環境の優位性が高まり、国内外から人・企業が集まることで、県内で育った人材と国内外から集まった人材が切磋琢磨しながら、革新的な技術を次々と生み出していくサイクルを創り出していくことが重要です。世界最強・最先端のモノづくり力の強化に取り組むことで、国内外から人・モノ・カネ・情報を呼び込み、産業の革新・創造拠点となることを目指しています。

愛知県では、全国で初めて一般公道における遠隔型自動運転の実証実験を成功させている

新しい観光施設の整備や既存の地域資源を磨き上げ、地域の魅力を発信することにも注力している

――テクノロジーの進歩によって、モノづくり産業にもイノベーションが求められています。

主力産業である自動車産業は100年に一度の大変革期を迎え、またIoTやビッグデータといったデジタル技術の加速度的な進展により、自動車からハンドルが消えるかもしれないというくらい、この地域の産業構造を大きく変化させようとしています。こうした歴史の転換期にあっても愛知県が競争力を維持していくには、本県の強みであるモノづくりとAIなどの先端技術を融合させ、変化し続けるニーズや高まる人間の欲求に対して、きめ細やかに応え、イノベーションを生み出し続ける"循環"が必要だと考え、今年4月に「スタートアップ・エコシステム」の拠点形成を図るプロジェクトを立ち上げました。

エコシステムは、もともと「生態系」を意味する科学用語ですが、ビジネス用語としては、「社会循環の中で効率的に収益を上げる構造」や「複数の企業、人物、モノが有機的に結び付き、循環して共存共栄していく仕組み」という意味でも使われています。そこで、この地域にイノベーションを絶え間なく創出していくために、起業希望者に対して、企業、弁護士等の専門家、地域資源などを有機的に結び付け、地域内で循環させながら、スタートアップ企業の創出を戦略的にバックアップしていく仕組みをつくろうというわけです。さらに、起業家の卵となる人材の発掘と養成を目的に、週末の3日間を利用してアイデアを集中的に練り上げ、起業に向けたスタートを全力でサポートするワークショップ形式の「あいちスタートアップキャンプ」も今年度から実施しています。

そして、創業を果たしたスタートアップ企業のビジネスプランに対しては、「あいちアクセラレーター2018」を実施し、①メンターといわれる専門家による短期集中支援②他のスタートアップ企業や既存産業・金融機関・支援機関等とのネットワークづくり③資金獲得や事業提携に向けたマッチング機会と場の提供といった支援を通年で行うことで成長を促します。

スタートアップ企業がグローバル市場に挑戦する企業へと大きく羽ばたけるように、そして、愛知の圧倒的な産業集積という魅力を広く発信して、国内外から優れたスタートアップ企業を呼び込んで県内のモノづくり企業と連携してもらえるように、双方向型のオープンイノベーションを誘発していきたいと考えています。そこで、東京事務所や海外情報センター、ジェトロとの連携による誘致活動を推進するとともに、ホームページ等で海外ベンチャーに向けても情報を発信し、誘致のためのインセンティブや機能強化の検討も進めていくつもりです。

――国際的な産業都市として世界から認められるには、環境への配慮も忘れてはならないポイントです。

本県には、世界トップレベルの環境技術を有する企業も多く、環境に配慮したモノづくり・製品づくりを担うなど、環境面においてもトップランナーを目指し、「環境首都あいち」の実現に向けてさまざまな取り組みをしています。なかでも、日常生活や経済活動、自然生態系に深刻な影響を及ぼす地球温暖化対策は喫緊の課題です。2015年12月に「パリ協定」が採択され、わが国でも「地球温暖化対策計画」が定められたことを受け、今年2月に「あいち地球温暖化防止戦略2030」を策定し、2030年度の県内の温室効果ガスの総排出量を2013年度比で26%削減するという高い目標を掲げるとともに、この10月には「愛知県地球温暖化対策推進条例」を制定しました。

県民の皆さまに向けた具体策としては、太陽光発電によるエネルギーをHEMS(家庭用エネルギー管理システム)と蓄電池等により効率的に利用し、自家消費を促す「スマートハウス」の普及を促進するため、市町村と協力して設備の一体的導入を補助しています。また、夏季や冬季に、家庭でのエアコン使用に代えて、公共施設や商業施設などにお出かけいただき、涼しさや暖かさを分かちあう「あいちクール&ウォームシェア」を呼びかけたりしています。

一方で事業者向けには、温室効果ガス排出量の多い事業者に対して義務づけている「地球温暖化対策計画書制度」について、事業者の排出量削減の取り組みを一層促進するため、県が届出の内容の評価や、適切な削減対策の助言を行えるよう、制度の見直しを行っています。

ほかにも、製造・輸送・利用に伴う二酸化炭素の排出が少ない水素を「低炭素水素」として認証する「低炭素水素認証制度」を制定しました。今年4月には、トヨタ自動車元町工場において下水処理場で発生したバイオガスなどを利用して水素を製造し、燃料電池フォークリフトに供給する新たなプロジェクトを県内第一号の低炭素水素製造計画として認定したところです。

さらに、水素を燃料とした燃料電池自動車(FCV)の普及のため、そのインフラである水素ステーションの整備促進に取り組んでおり、整備中のものも含め、20か所という全国一の設置数を誇っています。

また、産学行政が連携する「知の拠点あいち重点研究プロジェクト」のひとつとして、低コストな水素利用の実現等の観点から「近未来水素エネルギー社会形成技術開発プロジェクト」を実施しているほか、新あいち創造研究開発補助金の支援分野に環境・エネルギー分野を設定して研究開発・実証研究のための経費を助成するなど、県内企業に対する支援策は供給側・利用側双方から厚みを増しております。加えて、次世代自動車フォーラム、展示会出展、工業高校生(自動車科)専門講座、あいち水素社会体験バスツアーなど、先進的な取り組みや最新技術の動向をお披露目する場を設けることで、意識醸成を図っています。

さまざまな取り組みをご紹介しましたが、いずれの分野においても、県、事業者、県民の皆様など、すべての主体が、それぞれの責務を明確にしながら自主的かつ積極的に動き、互いに連携・協力し、県総ぐるみで目標達成を目指していきたいと思います。

©県庁水素社会普及啓発ゾーンにおいて、移動式水素ステーションを運用
燃料電池自動車(FCV)のインフラとなる水素ステーションの整備促進に取り組んでおり、その設置数は全国一

 

大村 秀章(おおむら・ひであき)
愛知県知事