2018年3月号

地域×デザイン2018

移住の町、神山は第2フェーズに 移住者が続々と新ビジネス創出

廣瀬 圭治(キネトスコープ代表)

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徳島県の「神山」は若者移住、サテライトオフィス誘致などの成功により地域創生の筆頭として有名だ。今、神山では移住者が次々と新しい挑戦を始めている。大阪から移住したクリエイターの廣瀬圭治さんはその代表格だ。

文・矢島進二 日本デザイン振興会 text by Shinji Yajima

 

廣瀬圭治 キネトスコープ代表

廣瀬圭治さんは1972年岐阜で生まれ、兵庫や大阪で多感期を過ごす。クラブカルチャーに浸り、フライヤーの製作でグラフィックデザインを、VJで映像のスキルを会得した後、大学のインハウスデザイナーとなり、学内のデザイン統合などに従事。その後、ウェブ制作会社で独立。最初の屋号は「シズク」で、2年後に現在のキネトスコープに変更。現在はブランディングや街づくりのコンサルティングなどに業務範囲を広げている。

神山杉を使って多数の商品を開発。透明感と暖かみを感じる木目が印象的な「鶴シリーズ」

当たり前の豊かさを求め

2012年に東京ミッドタウン・デザインハブで開催されたイベントで、廣瀬さんは神山にサテライトを持つIT企業代表と知り合い、神山の名を初めて耳にして興味を抱き、翌月すぐに現地を訪問。

釣りをはじめアウトドアが大好きな廣瀬さんは神山の豊かな自然に魅せられ、また神山のキーパーソンでもあるNPOグリーンバレーの大南信也さんなどから話を聞き、若い頃に抱えていた想いが甦ったそうだ。

「10代からバイクで全国を放浪し、お金がなくなるとアルバイトをして、次の町にあてもなく移動する生活を続けていました。色々な体験の中で特に印象深かったのは、一次産業に従事する人との交わりと、そこで『あたり前の豊かさ』を実体験したことです。将来はそうしたことを追求する仕事に就こうと心に刻みました」

また「大阪と東京にも近いエリアで、裏に川と畑がある工場跡地を借り、秘密結社的なクリエイティブ集団をつくる」といった夢想を描いていたことも。

まずは神山にサテライトを設け、大阪との二拠点生活をイメージしていたところ、大南さんから「良い古民家が見つかりました。最優先で紹介したいのですが、引っ越してきませんか? なるべく早く回答ください」と連絡が入り、家族とともに移住を決意。明治時代に建てられた築150年の古民家で、母屋を住まいに、離れを事務所とショールームに使用している。

住居および事務所とショールームは築150年の古民家を改修して利用

小泉進次郎さんが訪問し、しずくのファンとなり、その後も注文がくるという

デザインの力で意識を変える

廣瀬さんは移住後に、緑豊かな自然と認識していた森林の多くは、実は杉の人工林であり、水量が30年前の3割に減少していることを知る。

そこで「自分の子どもたちはここが田舎になる。親として、そしてデザイナーとして役に立てることはないのか。神山の将来に繋がることを手掛けたい」と考えてスタートしたのが「神山しずくプロジェクト」だ。神山産の杉を使ったコップやタンブラー、プレートなどの食器ブランドで、ロクロ挽きで生地を形成し、横縞で赤白のコントラストのある柾目模様が特徴だ。また五層の漆仕上げのシリーズもある。

単なる地域ブランドや土産商品のように聞こえるが、廣瀬さんは「そうではない」と否定する。

「森林維持を諦めかけている神山の人たちの意識を、『デザインの力』で変えたい。このままでは森や水が危ないことを周知するきっかけづくりが、このプロジェクトの本当の目的です。価値がゼロと言われる杉に新たな価値を見出し、小さな経済の歯車をつくり、循環自体をデザインしたいのです。これは50年後の未来に向けたアクションなのです」と朗らかに、そして熱く語る。

しかし、プロダクトをデザインした経験はなく、作り手の探し方さえわからない状態。色々なところで試作を頼むがイメージに合わない。木工協会に相談しても無理だと突き返され、八方塞りになる。

そんなとき偶然、アウトロー的な職人がいることを聞きつけ、訪問すると類まれな技術をもつ人であることを知る。最初は相手にされず断られながらも何度も通い続け、何とか試作品をつくってもらい、初めてイメージに近いものを手にする。

ただ、45年の経験をもつ職人でも杉を扱ったことはなく、試行錯誤はその後も続くことに。根っからの職人気質のチャレンジ精神と、廣瀬さんの想いへの共感によって、丸1年かかってついに完成に漕ぎ着く。

2017年10月、専用工房「しずくラボ」開設時に揃ったプロジェクトメンバー

ロクロ手挽きを40年以上手がける宮竹木工所の宮竹さん。しずく製品は全て彼の手づくりによる

神山の自然を未来にわたって守る等身大の行動が、しずくプロジェクトだ

工房と後継者問題を正面突破

次の課題は専用の工房と職人の後継者だ。ここでも廣瀬さんはいち早く手を打った。自動車整備廃工場を探し出し、昨年10月にラボを開設して必要な機械を順次入手。そして、ロクロ挽きの木工を極めたいという30歳代の男性と巡り会い、意気投合し、現在は職人から直接指導を受けている。

しずく製品は年間約600個の生産で、2017年度グッドデザイン賞の受賞の効果もあり、販売は好調に伸びている。また、しずくで培った商品開発とブランド構築の一体化は本業に効果をだしている。

しずく製品は既にミラノ万博に出展したほかオランダでも展示会を開いており、来年以降は海外展開を本格始動するという。

廣瀬さん自身も活動の幅を広げ、県全体のデザイン振興施策にも従事している。デザインの必要性を経営者に説く講座事業や、企業とデザイナーとのマッチング事業などで、県内を走りまわっている。

移住して5年、もはや神山だけでなく、徳島のデザイン界のキーパーソンになっている廣瀬さん。また県は体験型施設「ターンテーブル」を渋谷に2月に開設するが、廣瀬さんは初期の調査事業と基本となるブランド構築を担った。食器だけでなく新作のランプシェードも納め、東京でのしずく製品のショーケースにもなる。

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