万博やIRをインパクトに、大阪府が2020以降の日本を牽引

東京に次ぐ第2の都市として、日本を支えてきた大阪。松井一郎知事が掲げる"副首都・大阪"の構想や、大阪の発展を加速させるインパクトとなる日本万国博覧会と統合型リゾート(IR)の誘致、イノベーションの創出等により、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会以降の日本の牽引を目指している。

松井 一郎(大阪府知事)

ーーー東京とは異なる個性と新たな価値観をもった"副首都・大阪"の実現を目指されています。

松井 日本では一貫して「東京一極集中」が進み、政治・行政の面において中央集権体制が続いています。災害のリスク面だけとってもこの「東京一極集中」は、わが国の危機管理として望ましくありません。日本は地震列島ですから、首都直下型地震が現実となって東京が大打撃を被り、機能を停止した時に経済が成り立たないというのでは国として脆弱で、日本の安定的な成長を支える国際競争力をもつ二極の拠点都市を確立すべきです。そういう意味においても、東西二極の一極を担う日本の成長エンジンとして、"副首都・大阪"の存在は重要で、我々が果たすべき役割だと考えています。

大阪は「民」の力が強い土地柄で、古くより自由闊達な発想から新しいビジネスを生んできました。さらに、大阪にはつくれないものがないといわれるほど、技術力がある中小企業が東大阪、八尾などを中心に集積しています。1つの部品を作るにも様々な技術力、職人技をつなげることによって良い製品はできあがります。今後は、そういう技術水準が高い大阪の職人に、大阪が最も注力するライフサイエンス・バイオテクノロジー分野での画期的な新製品を、どんどん生み出していってもらいたい。そして、世界が注目する産業、文化、サイエンスの拠点として花開き、海外の企業や人材を惹きつけるブランド力を身につけ、健康・長寿分野のみならず、世界的な課題解決に寄与する最先端都市として、グローバルな都市間競争にも打ち勝っていけるような存在感を発揮していきたいと考えています。

万博とIR誘致をインパクトに

ーーー構想を実現させるために、どのような施策をお考えでしょうか。

松井 大阪府では、2025年日本万国博覧会の誘致を目指しています。これは、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会後のわが国の成長のインパクトであり、大阪の発展を加速させるための大変重要なプロジェクトになります。大阪には、製薬企業をはじめとするライフサイエンス分野に強い企業や100年以上続く中小の紡績・製造業も数多く点在します。今後は2025年日本万国博覧会を契機に、健康をキーワードとした大阪発信の先端的ものづくりをアピールし、そこでリサーチした結果をもとに、海外市場ニーズに合致した製品づくりを行っていきたいと考えています。

日本経済団体連合会会長の榊原定征氏に会長を務めていただいている2025日本万国博覧会誘致委員会では、2025年の大阪・関西での国際博覧会実現に向け、オールジャパン体制で誘致活動を行っております。今年6月には誘致機運を盛り上げていくために誘致ロゴマークを決めました。誘致委員のアンバサダーには、吉本興業に所属するダウンタウンさんや世界的ファッションデザイナーのコシノジュンコさんなど地名度の高い方にもお手伝いいただき、東京・大阪から海外へも情報発信していきます。

もうひとつのインパクトは、国際的なエンターテインメント機能を備えた統合型リゾート(IR)の誘致を含む国際観光拠点の形成です。大阪の役割としては年々増加する訪日外国人観光客を国内各地へつなぐ、観光ハブとしての機能を高めるとともに、MICE機能と、エンターテインメントに特化した統合型リゾート(IR)の誘致により、世界に誇れる都市空間を創造してまいります。

ーーーライフサイエンス分野でイノベーションを創出し世界をリードするためには、質の高い人材を確保し、今まで以上に産学官の力を結集する必要があります。

松井 ライフサイエンス分野で活躍する人材を育てるには、まず大学の教育レベルを向上させることです。大阪府では、大阪府立大学と大阪市立大学を統合するため、まず法人統合関連議案を今年9月に提出しました。設立団体が異なる公立大学の統合は全国で初めての試みで、統合後の学生数は約1万6千人となり、国内最大の公立大学が誕生します。目的は色々あるのですが、一番の目玉は、獣医学部と医学部の両者を備える唯一の公立大学となることです。

元々大阪府立大学は、理工系に強く、獣医学分野をはじめ学際・応用分野に優れた大学。対して、大阪市立大学は一橋大学・神戸大学と並ぶ旧三商大に数えられ、文系から理工系、医学部を含む総合大学です。統合することでそれぞれの強みを活かした「知の拠点」となることは間違いなく、健康科学や創薬、バイオテクノロジーなどの研究が一気に加速すると我々は見ています。大阪の持っているポテンシャルを1つに統合することで研究機関やイノベーション政策を強化できるのです。

また、私たちは、常に「民」の声に耳を傾け、その柔軟な発想や創造力を取り入れ、府民の皆様や企業と一体となった府政を心掛けています。その具体策として、民間企業とのワンストップ窓口として相談をお聞きする「公民戦略連携デスク」(2015年)も設置しています。

今年3月には「大阪国際がんセンター」(旧大阪府立成人病センター)が誕生しました。大阪市内、道修町界隈には、300社を超える製薬企業が集積し、江戸時代より「くすり」の町と称されるほど、日本の医薬品産業をリードする一大産業集積地となっています。同センターでは、大阪の製薬企業等と連携し、生きた状態のがん細胞を集めたり、培養したりする「がん細胞バンク」を創設します。この「がん細胞バンク」では、人間の体内にあるのと同様の性質をもつがん細胞を使い、生体外(試験管等)で実験する等の研究を進めます。こうした取組みにより、がんの原因となる遺伝子異常の内容等に応じた患者個々人に最も相応しい薬やその効き具合等を正確に確認し、新しい治療法の開発や創薬につなげていきます。

「大阪国際がんセンター」では、がんに特化した医療センターとして研究所とがん対策センターを併設し、治療だけでなく研究、予防にも重点を置き、先進的で高度ながん医療の実践とともに、「がん医療の基幹病院」として医療成績をあげていきます。目指すのは、「病院=治療」というイメージから脱することで、松竹芸能、米朝事務所及び吉本興業などのご協力を頂き、笑いががんに与える影響を明らかにするための実証研究も行っているところです。また来年3月には、「大阪国際がんセンター」隣接地に、重粒子線がん治療施設が誕生する運びです。

ーーーライフサイエンス分野には、周辺の府県も注目しています。

大阪は、北部を中心に、ライフサイエンス関連の優れた大学や研究機関が集積し、彩都や大阪市内道修町などには製薬企業が立地しています。また、再生医療の発展に欠かせないのは研究者の存在ですが、関西では京都大学に在籍するノーベル生理学・医学賞を受賞したiPS細胞研究所長の山中伸弥教授(大阪在住)をはじめ、神戸理化学研究所で網膜再生医療研究開発プロジェクトリーダである高橋政代教授、iPS細胞を培養した心臓血管外科の名医である大阪大学の澤芳樹教授が率いる研究機関など、世界最高水準の再生医療や革新的新薬の産学連携による実用化、産業化が日々進行しています。副首都・大阪が目指すのは、それらの中核を担い、健康・長寿を基軸とした新たな価値を創出することです。

2025日本万国博覧会のイメージ図 出典:経済産業省

2025日本万国博覧会の誘致ロゴマーク

リスクを恐れない挑戦と情熱が
大阪・日本に活力をもたらす

ーーー統合型リゾート(IR)誘致も産業の活性化に大きく寄与します。

統合型リゾート(IR)は、海に囲まれた広大な土地を最大限に活用した大阪の「夢洲」に、世界の幅広い層をターゲットとする世界最高水準のエンターテインメント機能を備えたものを計画予定です。同施設は、世界各地の人々と日本の周辺地域をつなぐ役割とともに、イノベーションにつながる最先端技術を広域に波及する絶好の国際スポット。世界に類を見ない新エンターテインメントを体感できる空間や、産業振興・ビジネス創出に寄与する人・モノ・情報・技術の交流拠点、メディカル、スポーツ、フードなどをテーマにしたニューツーリズムの創出へと拍車をかけます。

ーーー一昨年、観光産業の活性化に向けて、大阪観光局を発足されました。

松井 大阪観光局では、大阪観光のデーターベースを蓄積し、国内外の人々に情報発信しています。2016年に大阪を訪れた外国人観光客数は約940万人という数字を叩き出しました。2013年以来4年連続で過去最高を更新しています。

外国人観光客数は東京と肩を並べるほど増加しており、上位の4つの国と地域(中国、韓国、台湾、香港)の合計では、昨年は東京を上回り、全国1位。全体の伸び率も、私が大阪府知事に就任した2011年には160万人でしたので、5年間で約6倍です。今年には1000万人を突破する勢い(半期で530万人)。2020年には、1300万人を目標に掲げ、さらなる上積みを図ってまいりたいと思います。そのため広域観光周遊ルートの整備や京都、兵庫、奈良、和歌山、滋賀をはじめとする関西全域の観光振興にも全面的に協力していきます。

また、外国人観光客の玄関口として成田と並ぶ存在となった関西国際空港は、近年ますます増便するLCC等を利用して多くの外国人観光客が訪れ、空港から直結する難波から道頓堀、黒門市場周辺は、昼夜を問わず外国人観光客で賑わっています。こうした事例からも、空港から都心へのアクセスは重要なインフラと認識しており、大阪では2031年開通を目標に、空港から新大阪、京都までのアクセスを飛躍的に向上させる鉄道新線「なにわ筋線」を建設することで、大阪府市、JR西日本、南海電気鉄道が合意。急ピッチで実現に向け動き出しています。

また、東京・名古屋・大阪間を結ぶリニア中央新幹線や北陸新幹線(敦賀・新大阪間)の早期全線開通を実現し、広域交通ネットワークを世界の主要都市に匹敵する水準に高めていきたいと考えています。

ーーー今後の意気込みをお聞かせください。

松井 大阪は、今、大きく生まれ変わろうとしています。これは前大阪市長の橋下徹氏とタッグを組み、府市一体で新たな大都市制度の実現を目指して、成長や安全安心に関する施策を推進してきたからです。これまで大阪府市の体制がバラバラで手を付けられなかった高速道路など成長インフラの整備を進め、エンターテインメントを中心にした観光事業と、再生医療を含めた健康産業を大きな産業の柱にし、取り組みを進めています。これは、新たな大都市制度を先取りしたものです。府市がひとつになることで、単体で行えなかった政策に取り組むことができ、世界規模のイノベーションが実現可能になるのは明らかなことです。

お役所仕事というのは前例踏襲なので、失敗はしませんが、挑戦もしません。それが役所文化というものです。大阪府庁と大阪市役所は一般的な役所とは違います。私と大阪市長の合言葉は、「お役所仕事は禁止だよ」。とことんリスクのある挑戦を、情熱をもって行ってきました。

挑戦し、成功した実績の一つに、国特別史跡「大坂城跡」の西の丸庭園でオートバイのモトクロス競技の世界大会「レッドブル・エックスファイターズ大阪」を行ったことがあります。天守閣をバックに世界各国のトップ選手がコースに設けたジャンプ台から次々に空中に飛び出し、オートバイから手を離し、体を回転させるなど技の華麗さを競い合い、それらが世界各地へ大々的にネット配信されました。当時は大阪の文化財である地下遺構に与える影響が懸念されたのですが、大阪市教育委員会の地盤調査で問題がないと判断し決行すると、1万人の入場客だけでなく、SNSを通じて全世界の人々に大阪城の天守閣のビジュアルが映し出され、「OSAKA」の名前が拡散されました。

リスクを畏れず、果敢に挑戦することが大切です。この考えのもと、民間のダイナミズムを社会の中心に置いた社会づくりを行政が後押しするとともに、グローバル視点にたって、日本経済を牽引してまいります。

 

松井 一郎(まつい・いちろう)
大阪府知事