失敗しない、地域活性×デザインプロジェクトのつくりかた

松山市「ことばのちから」や道の駅からりのプロデュースなど愛媛県を中心に、地域活性×デザインを実践する山内敏功氏。35年間、地域に関わり続けてきたデザイナーの視点とは。

言葉とメッセージに着目した松山市の「ことばのちから」(2000年~)。市民や訪れた観光客の心を動かす、まちづくりの成功事例として全国的に知られている

現在、日本の各地で「デザイン」をキーワードに掲げた地域活性化施策や、6次産業化プロジェクトが数多く行われている。しかし、可愛らしいキャラクターやスタイリッシュな地産品パッケージは、確かに注目を集めるが、大抵は一過性のもので終わってしまう。いくら外観を良くしても、地域の本質的な課題は解決しないからだ。

「問題の正しい発見と、それを解決するソフト。それがデザインです。ある意味で、デザイナーは医者に似ているかもしれません」と話すのは、ビンデザインオフィスの山内敏功代表。愛媛県を中心に、シティブランディングや地域活性を数多く成功に導いてきたデザイナーである。

山内 敏功(ビンデザインオフィス 代表取締役)

デザインは、問題発見と解決の手段

かつては東京で大手食品メーカーの商品パッケージなどを手がけ、デザイナーとして流行の最前線で活躍していた山内氏。1980年に地元・愛媛県に戻ったとき、都会と地方の「デザイン」に対する考え方のギャップに戸惑ったという。

「一言で言えば、クライアントの要望どおりに成果物をつくるのが、デザイナーの仕事だと考えられていたのです。企画段階からクライアントとデザイナーが共に議論することはなく、専門職としての『このほうが良いのでは』という提案も、『余計な口を出すな』で終わってしまいます」。クライアントと喧嘩別れすることも多かったそうだ。

思い悩む山内氏のオフィスに、ある日ふらりと産業廃棄物処理会社の経営者が訪れた。「当時はまだ、社会的に偏見を持たれている産業でした。そんな彼に『我々を“企業”にするデザインをしてください』と頼まれたのです」

その経営者は、廃棄物処理は誰かがやらなくてはいけない仕事だという誇りを持っていた。そこで山内氏は、未来の子供達を連想させるような明るいデザインでイメージを作り替えようと提案、廃棄物を運ぶトラックなどに新デザインを導入した。同社はその後、県内最大の処理事業者に成長する。

この経験は、山内氏にとってひとつの転機となった。「デザインが必要とされる場には、何かしら問題がある。その問題を対話から見つけ出し、解決することがデザイン本来の役割だと改めて気づかされました」

企業や自治体の抱える問題を解決する、山内氏のヴィジュアル・アイデンティティやブランディングへの取り組みは、やがて引く手あまたとなる。

市民は無限のアイデアを持つ

山内氏のデザインアプローチは、今ある問題を発見するためのワークショップ、現状を深く理解するためのフィールドワーク、発見した問題から解決方法やアイデアを創出するプロトタイピングを経て、最終的なデザインを決定する、という手法である。これは昨今、事業開発手法として注目を集める「デザインシンキング」と同じだが、山内氏は「デザインシンキングのことは全く知りませんでした。20年かけて自然とこのスタイルができあがったのです」と笑う。

ポイントは、徹底的に市民を巻き込み、彼らからアイデアを吸い上げること。「どれだけ優秀なデザイナーであっても、たった1人の知識や創造力なんて、たかが知れています。僕が意識しているのは、かつての近江商人に由来する『三方よし』という言葉。デザイナーとクライアントの二者ではなくて、それを利用する人(市民や地元企業)も交えて三者でワークショップをしながら問題を発見し、ともに解決していこうという姿勢です。我々デザイナーの役割は、ファシリテーターとしてアイデア創出に繋がるような場やヒントを提供することです」

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