観光の「課題」をITで「話題」に変える ITを活かした次世代観光

IT技術を活用した観光地づくりは、全国の自治体が取り組むべきことだろう。福岡市は、現存しない歴史的建築物をバーチャル空間で再現するシステムを導入。眠れる歴史や文化をITでよみがえらせ、地域の新しい観光資源としている。

スマートグラスで福岡城のCG映像を鑑賞

博多湾などの美しい自然に加え、山笠に代表される勇壮な祭りや伝統文化が残り、独自の食文化も発展する福岡市。暮らしに必要な都市機能がコンパクトにまとまり、日本国内はもとより、近接する韓国や中国からもショッピングやビジネスで多くの人が訪れる。福岡市にとって観光は有望な成長産業である。

2013年には「世界No.1のおもてなし都市」をテーマに、2022年までに観光による直接消費額を1700億円増やし、外国人観光客数を2010年の約3倍の250万人に増やす目標を掲げた。クルーズ客船やMICEのいっそうの誘致、観光資源の磨きあげなど、さまざまなプロジェクトが進んでいるが、特に注目すべきは、最先端のITで観光にイノベーションを起こそうという姿勢だ。

課題をバーチャルでクリアに

福岡市がIT活用に取り組む理由のひとつは、「課題解決」である。市内には魅力的な商業施設はたくさんあるが、熊本の阿蘇山や長崎のグラバー園のように、目玉となる観光地が少ない。古くから九州の中心として栄え、豊かな歴史がある福岡だが、昨年大河ドラマで注目を浴びた福岡城には櫓(やぐら)がほとんど残っていないのだ。

「形が現存していない福岡の歴史や文化を、観光客にどう見せていくのか。そこで取り入れたのが、デジタル技術です」と福岡市観光振興課長の石和秀人氏は話す。

2013年にスタートした「鴻臚館・福岡城バーチャル時空散歩」は、平安時代に海外交易の拠点だった鴻臚館と、江戸時代に黒田氏の居城だった福岡城を、VR(仮想現実)やCGの技術でタブレット端末内に再現するシステムだ。

例えば福岡城跡に行き、観光ガイドの指示に従って専用タブレットを目の前にかざせば、そこにはバーチャルな福岡城が映し出される。そのままぐるりと回転すれば、タブレットの中の景色も同じように360度回転。天守台に登ってタブレットを見れば、江戸時代の福岡・博多の眺望が楽しめるというわけだ。

今までの写真による観光案内とは、明らかに一味違う臨場感だ。運用以来、評判も上々である。さらに次のステップとして、このCGコンテンツを活用し、近畿日本ツーリストがスマートグラスを使った「福岡城スマートグラスツアー」を準備中。眼前に広がるフルカラー映像とイヤフォンガイドで福岡城を案内する予定だ。

「歴史や文化に関心の薄い子どもや若者にも、これを機に福岡の歴史や文化に興味を持ってもらいたい。ゆくゆくは他の観光資源でも活用していきたいですね」と石和氏は話す。

(写真左)三宅宏治 福岡市経済観光文化局 観光産業課長 (写真右)石和秀人 福岡市経済観光文化局 観光振興課長

インバウンドにも対応

外国人をもてなし、リピートさせるにはWi-Fiの活用が必須と言える。福岡市はWi-Fiの整備に力を入れ、2012年から多言語対応の無料公衆無線LANサービス「Fukuoka City Wi-Fi」を提供している。主要交通拠点や大型商業施設などにアクセスポイントを設置し、自治体主体としては国内最大級のWi-Fiサービスをつくりあげた。

国家戦略特区の「グローバル創業・雇用創出特区」に指定されている福岡市は、今春、電波法の規制緩和を国に提案した。ウェアラブル端末の開発・実証を促進し、ベンチャーの市場参入を支援することが主な狙いだが、観光分野でのIoT(Internet of Things)端末利用でも、イノベーションが期待できそうだ。

ITの利活用とともに大切なことは、「福岡の一人一人が歴史や文化をよく理解し、友人や旅行者に福岡の魅力を伝えること」であると福岡市観光産業課長の三宅宏治は言う。2年前からは、来福者をもてなすため、福岡の知識を学ぶ「福岡検定」を実施している。

行政と企業、市民が一体となって観光地づくりを進める福岡市。これからの展開に期待したい。

お披露目会では髙島福岡市長が黒田長政に扮して甲冑と兜、スマートグラスを身につけて登場。多くのメディアの注目を集めた

スマートツーリズムで眠れる観光資源に光

近畿日本ツーリストは、ウェアラブル端末でリアルとバーチャルを融合させた新しい観光手法「スマートツーリズム」を推進している。スマートグラスを装着したツアーで、目の前の景色とCG映像を重ねあわせ、AR(拡張現実)が楽しめる仕組みだ。失われた文化財や町並み、歴史的事件の復元だけでなく、季節ごとの景色やイベントを再現するなど、見えない資源を観光客に伝えることができる。

全国各地でスマートツーリズムを実現すべく取り組んでいる。福岡市と協力した「福岡城スマートグラスツアー」のほか、昨年末からは江戸城天守閣と日本橋を復元した東京観光ツアーを販売。江戸時代にタイムスリップしたような感覚を楽しめるツアーは、大きな話題を呼んでいる。

近畿日本ツーリストの強みは、コンテンツ制作(魅力の掘り起こし)と、プロモーション展開(魅力の発信)の両方を手がけられること。CG映像作成やウェアラブル端末の供給だけでなく、ツアー企画や誘客、地域ブランディングまでを一気通貫で提供する。

地域の観光振興における課題に対して、グループのリソースを結集し、観光人材の育成や観光資源調査、地域プロモーション、地域イベントの開発など、さまざまなメニューを用意して解決策を提案している。

地域の観光振興における課題に対して、グループのリソースを結集し、観光人材の育成や観光資源調査、地域プロモーション、地域イベントの開発など、さまざまなメニューを用意して解決策を提案している。


 

 

  1. 近畿日本ツーリスト 地域誘客事業部
  2. TEL.03-6891-9630
  3. E-mail:jichitai@or.knt.co.jp

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