AI時代に不可欠なデータマネジメント 経済産業省とIPAが推進する人材育成
(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年7月7日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)
政府が掲げる未来社会「Society5.0」――。「サイバー空間」と現実世界の「フィジカル空間」を高度に融合させ、経済発展と社会的課題の解決を両立する新たな社会構想だ。その実現にはAIなどの先端技術が不可欠で、データの整備や管理、利活用推進を担う「データマネジメント人材」を育成する重要性が高まっている。
経済産業省と独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は2026年春、DXで個人が身につけるべきスキルや企業の人材育成・確保の指針として公表している「デジタルスキル標準(DSS)」を改訂し、DX推進に必要な役割の類型に新たにデータマネジメントを追加。また、AIを含むデジタルに関する知識や技能を客観的に評価する情報処理技術者試験においても、2027年度をめどに「データマネジメント試験(仮称)」を新設するなどの見直し案を打ち出した。
今回は、政府の「データマネジメント人材の育成に関するタスクフォース」の主査を務めるNTTデータバリュー・エンジニア(東京都港区)の大西浩史(おおにし・こうし)社長=写真=への取材も踏まえて、政策の狙いや求められる人材像などについて解説する。

就業構造の変化で不足するAI人材
経産省が試算した「2040年の就業構造推計(改訂版)」によると、2040年の就業者数は約6300万人と2022年の約6700万人から400万人ほど減少するものの、今後、十分な国内投資や産業構造の転換が実現した場合、AIやロボットの利活用やリスキリングなどで効率化が進むため、就業者数全体では大きな不足は生じないという。
しかし、職種別では需給のミスマッチが生じると見込まれている。専門職の中でも、AIやロボットなどの利活用に関わる人材は約782万人と需要が激増する一方、供給は約443万人にとどまり、約339万人不足するという。省力化の進展で約400万人を超える余剰が見込まれる事務職とは対照的だ。
<2040年の労働需給における職種別ミスマッチ(推計)>
「ビジネスの意思決定に役立てる」 データマネジメントの重要性
AIなどの利活用に関わる人材の需要が高まる中、業種・職種によらず、能力を磨き、活躍していくことが必要だ。一般社団法人日本データマネジメント・コンソーシアム(会員376社、2026年7月時点)の理事兼事務局長でもある大西社長は、データマネジメントを「組織のデータ実態を掌握し、AIを活用したビジネス価値の創出に向けてデータの管理・活用を行い、最終的にビジネスの意思決定に役立てていくこと」と定義し、その重要性を強調する。大西社長自身、新卒で入社したNTTデータ通信(現・NTTデータ)の購買部門で価格交渉業務にあたった際、「どんなによいシステムを情報システム部門に作ってもらったにしても、業務ユーザーが適切にデータをマネジメントしないと戦略的な活用などは到底できない」と実感したからだ。

例えば、同じ取引先でも、システムに入力された企業名が英語表記だったりカタカナ表記だったり、株式会社を意味する「(株)」があったりなかったり。また、業種分類が入力者ごとに異なることもあったという。大西社長は、「多くの日本企業で、日々の業務で重要な顧客や商品、部品などにかかわる基軸データであっても、似て非なるものが散在する、整合性がとれていないといったことが起きている」と指摘する。
<注文処理のデータ入力でよくある課題>
こうした課題が生じている背景には、個別の業務部門ごとにシステムが導入された結果、データが独立・分断されて管理され、組織全体で共有・連携されていない「サイロ化」や部分最適化が進行したことがある。加えて、システム部門と営業部門、経営企画部門などニーズが異なる社内組織をデータ活用の観点から横断的にとらえる役割の整備が不十分であったことも原因として挙げられる。
大西社長は、「正確性や一貫性を欠くデータからは正しい答えを導き出せない。人間でもAIでも、ビジネスに活用できる経営資源としてデータを整備する必要がある」と話す。経産省は、データマネジメントを「データを正しく安全に活用するために不可欠なもの」と位置づけている。
「デジタルスキル標準」の改訂に反映
DXの実現に向けて個人が身につけるべきスキルや企業の人材育成・確保の指針として、経産省とIPAが公表している「デジタルスキル標準(DSS)」は2026年4月に改訂され、DX推進で必要とされる役割の類型に新たにデータマネジメントが追加された。AX(AIトランスフォーメーション)の進展やそれに伴うデータ活用の重要性などを踏まえたもので、「データの安全性や信頼性の確保」「データ利用の仕組みの設計や運用」「データ整備による価値創出の促進」などの役割を果たすことが期待されている。役割の類型はこれで6種となった。
<DX推進に必要な6つの類型>
大西社長によると、従来の5類型では、こうした役割を、データの統計的処理や高度なAIアルゴリズムを駆使して解析や予測などの分析を担うデータサイエンティストが兼ねていたケースが少なくなかった。改訂には、「データサイエンティストを本来業務の高度なデータ分析に集中しやすくする」狙いもあったという。
情報処理技術者試験でも区分新設へ
経産省とIPAはデータマネジメントの重要性を踏まえ、情報処理技術者試験についても2026年3月に公表した見直し案で、「データマネジメント試験(仮称)」を新設することなどを打ち出した。2027年度の開始を目指すという。
情報処理技術者試験は、デジタルに関係するすべての人を対象に、デジタルに関する知識や技能を客観的に評価する国内最大級の国家試験で、2025年度は情報処理安全確保支援士試験と合わせて約77万人が応募した。現行の制度でも、「応用情報技術者試験」など情報システムを構築・運用する技術者向けから、「ITパスポート試験」のようなすべてのビジネスパーソン向けまで、様々な試験区分が設けられている。
<現行制度における情報処理技術者試験の体系>
見直しは、情報処理技術者試験を「AI時代に必要となる幅広いデジタルスキルを習得・評価する試験」に進化させる狙いで行われる。データマネジメント試験を新設するほか、ITパスポート試験でもデータマネジメントの基礎に関する出題やAI時代に対応した倫理観を問う出題を行い、内容のアップデートを図るという。あわせて、高度人材向けの試験も再編する予定だ。
<情報処理技術者試験 見直し後のイメージ>
データマネジメント試験は、「ITパスポート試験の次のステップ」という位置づけになる。システム開発に直接関わらない営業職や小売店の店長などでも、売上の入力などでデータに接する人はたくさんいる。大西社長は、「日本のすべてのビジネスパーソンがデータを生成する主体として、また、データを日常業務で活用する主体として当事者意識を持ってもらえたら、日本全体のデータ・AI活用力が大幅に高まるだろう」と話し、業種や職種を問わず多くの人が受験することを期待。さらに、「試験合格を企業や組織での昇進・昇格要件の一つに加えてもよいのでは」と提案する。
「人も、AIも、データを正しく理解できるように」
大西社長は、データマネジメントの重要性にいち早く気づき、1997年に当時の社内ベンチャーでデータマネジメント事業を立ち上げ、現在のNTTデータバリュー・エンジニアへと続く道を作った。さらに2011年には自らが発起人となって日本データマネジメント・コンソーシアムを設立。研究会活動やセミナーなどを通じて、啓発・普及に取り組んでいる。

企業がAIを導入しても、整備されていない社内データをそのままAIに学習させるだけでは、有益な答えを得られない。大西社長は「AIの回答を無批判で信じるのではなく、社内のどのシステムのデータを使ったのか、信頼性のあるデータに基づいているのかといった視点を持つことが重要。人も、AIも、データを正しく理解できるようにするデータマネジメントが不可欠」と強調する。
データマネジメントの巧拙が、企業経営に大きな影響を与える時代。まずは企業や組織のトップがデータマネジメントへの理解を深めることが大切だ。
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