郡山市 DX推進と防御を副市長が束ね「選ばれるまち」へ
自治体がデジタル技術を取り込むことで効率化が進む一方、扱う情報やシステムにはサイバー攻撃や漏えいのリスクが伴い、DX推進とセキュリティの両立は全国共通の課題だ。郡山市は推進と守りの両役を副市長が一手に束ね、「選ばれるまち」をデジタルで支える。その実践と展望を齊藤紀明副市長に聞いた。
齊藤 紀明(郡山市副市長)
デジタルで未来を拓く
開拓者精神を受け継ぐ
郡山市は、第七次総合計画の将来都市像「東北の鼓動 未来を奏でる 選ばれるまち 郡山」を、デジタルの側面から具現化している。2026年3月策定の「DX郡山推進計画2026-2029」では、「デジタルで未来を拓く持続可能な『こおりやま』」を掲げる。
「拓く」には郡山の歴史が重ねられている。明治期、初の国営事業に全国から人々が集い、不屈の精神でこの地を切り拓いた。その歩みが現在の30万都市の礎となった。安積開拓である。
「新しいものを受け入れ、自ら切り拓いていく開拓者精神は、いまも市民や職員に根づいています。DXも、県内自治体では先駆けて挑戦してきました。ただし、デジタルの導入そのものが目的ではありません。市民生活の向上や持続可能なまちづくりという目的を達成する手段であり、未来を拓く原動力と位置付けています」と齊藤副市長は力強く語る。
DX郡山推進計画では、この使命と実現したい未来に向け、4つの価値観と5つの実践手法を定め(図参照)、理念から実践までを一つの体系(MVV+A)として結ぶ。何を重視し、どう動くのかを全庁で共有することで、郡山が何を目指すのかを明確にするためだ。
図 DX郡山推進計画2026-2029の体系
出典:郡山市
副市長が推進・防御を統制
重層的なガバナンス体制
こうした全庁的な推進を支えるのが、20年以上かけて整えてきた体制だ。市は2001年に副市長を本部長とする推進体制を、2003年には副市長をCISO(最高情報セキュリティ責任者)とする情報セキュリティ会議を設置し、意思決定とガバナンスの基盤を早くから築いた。
現在、齊藤副市長はCDO(最高デジタル責任者)、CISO、DX推進本部長を兼務する。「攻めの戦略と、守りのガバナンスを一体として捉え、責任者を一元化しています。副市長は市長を支える特別職として総合的な判断を担っています。部局横断で動かすには、この役割を機能させることが、利便性と安全性を見極めた迅速な意思決定につながります」。
全庁を動かすのは、縦の連携だ。各部局にデジタルマネージャーを、各所属にデジタルリーダーを置き、マネージャーが部内の取りまとめとDX統括部門との調整を、リーダーが現場でのツール活用や業務改善を担う。そこに、デジタルや行政の知見を持つ外部専門家3名がDX推進アドバイザーとして加わり、計画やアクションプランの策定に助言する。技術の進化が加速するなか、アドバイザー制度で常に最新の知見を外から取り入れることが、変化に強い体制を保つ要となっている。
「やってみる」で全庁活用
生成AIが生む業務時間の余白
郡山市の生成AI活用は、全国の自治体の中でも早く、そして広い。2024年2月に公務員専用のChatGPT「マサルくん」を導入。同年10月には、市独自のデータを参照して回答するRAG機能を備えた「exaBase 生成AI for 自治体」を加え、職員が日常的に使える環境を整えた。利用は着実に広がり、令和7年度には延べ3,000人を超える職員が活用し、生成AIだけで1万2,776時間の業務を削減した。文書作成にとどまらず、各課の事業を点検する行政評価にも使われている。
成果の裏には、現場を巻き込む進め方があった。まず実証で使って効果を確かめ、若手職員も交えた庁内ワークショップで意見を重ねながら広げてきた。「具体的な活用イメージや効果を全庁で共有し、職員の心理的なハードルを下げる。みんなでまず使ってみて、相談しながら改善する。その積み重ねで定着させてきました」と齊藤副市長は総括する。運用は、2024年2月策定の生成AI活用ガイドラインが支える。
担い手の育成も欠かせない。市は人材育成・確保基本方針のもと、人事部門とDX統括部門が連携し、デジタル人材の育成に努めている。全職員のリテラシー底上げ(研修やツールの全庁活用)、専門人材の確保(2022年度職員採用試験よりデジタル枠を新設)、各部局のデジタルマネージャー・リーダーを核とした推進役の養成だ。
ゼロトラストを見据え
広域圏とともに「選ばれるまち」へ
全庁で活用が広がるほど、守りの重要性も増す。市は現在、ネットワークを3つに分けて守る「三層分離」を採る。住民の個人番号を扱う系統、行政専用の閉域網(LGWAN)を使う系統、インターネットの系統を互いに遮断し、外部からの侵入や情報の流出を防ぐ仕組みだ。安全を確保した専用無線ネットワーク上で在宅勤務や生成AIの利用を可能にしている。
次に見据えるのが、この三層分離からの転換である。テレワークやクラウド利用が当たり前になるにつれ、内と外を壁で隔てる従来のやり方では、利便性と安全性の両立が難しくなる。そこで国は、アクセスのたびに安全性を検証する「ゼロトラスト」への移行方針を打ち出した。郡山市も、多要素認証やメール無害化などを備えた基盤を検証し、概念実証を重ねながら、ゼロトラストへ柔軟に移行できる構成を検討している。
齊藤副市長は、DXが新たな段階に入ったと捉える。「デジタルツールの活用は、職員の事務負担を軽減し、市民への対応に充てる時間を生み出してきました。この成果を市民サービスの更なる向上へと連動させる段階に入ったと考えています」。DXは目的でなく手段であり、その先にあるのは市民サービスの向上、そして人口減少の時代に「選ばれるまち」であり続けることだ。
「人口減少の時代に自治体が存続し発展するには、人から選ばれる理由を持つことが欠かせません」。市は今年4月、椎根健雄市長が掲げる「選ばれるまち」を具現化する司令塔として「選ばれるまち推進課」を新設した。「選ばれるまち」「暮らしの充実・笑顔になれるまち」「経済の活性化」という市長の3つの基本方針を、DXという原動力で支える。
さらに、こおりやま広域圏17市町村の連携中枢都市として、RPAの製品指定や生成AI活用ガイドラインの整備を先行し、構成市町村と共有。圏域全体の底上げにつなげている。
「郡山は交通と物流の要衝として東北を支えてきました。これからも人・もの・情報の流れを生み、市民一人ひとりの挑戦や工夫が重なり合って、未来へ新たな価値を創出する都市であり続けられるよう、デジタルの力を最大限に生かします」と齊藤副市長は展望を語った。
- 齊藤 紀明(さいとう・のりあき)
- 郡山市副市長