社内のデータ、AIが活用できる状態ですか? 「AI-Ready化」に注目

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年6月29日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

経済や産業活動のデジタル化が進む中、企業や団体でAIの導入が進んでいる。AIによる分析や回答の精度を上げ、有益な成果を得るためには、AIが学習するデータの質や量が重要で、企業内のデータをAIが活用できる状態に整備する「AI- Ready化」に注目が集まっている。今回は、経済産業省が推進するAI-Ready化の意義や課題などについて、日本成長戦略会議のデジタル・サイバーセキュリティワーキンググループ構成員で、AI- Ready化の推進やデータ活用プラットフォームの提供に取り組む「フライウィール」(東京都千代田区)の横山直人CEO =写真=への取材も交えて解説する。

「フライウィール」の横山直⼈CEO 

企業内データの活用が産業政策の焦点

企業がAIを導入する狙いは、生産性の向上や人手不足の解消にとどまらない。AIの高いデータ処理能力やシミュレーション能力を生かし、経営判断のスピードアップや客観性の確保、競争力を高めるイノベーションの創出といった戦略的な分野での活用も期待されている。横山CEOはAI-Ready化を、「企業内でバラバラな状態で保管されているデータを、AIがその本質的な意味を理解したうえで、安全かつ継続的に業務で活用できるようにすること」と定義する。

AIはこれまで、インターネット上の大量の公開データを学習し、性能を向上させてきた。しかし、AIの学習に適したデータは早々に枯渇するとみられるうえ、インターネットで誰もが自由に取得できるデータで企業の差別化を図り、競争優位性を保つことは難しい。一方、政府によると、全世界で流通するデータの6割は、企業が原材料などの取引や製品の設計、顧客対応などの業務を通じて生み出されたものとされ、今後は、こうした企業内データをいかに活用できるかが産業政策上の焦点になるという。

ただ、米系ITアドバイザリー企業のガートナーが2025年9月、日本国内の企業に所属する個人を対象に実施した調査によれば、自社のデータ活用に関して「全社的に十分な成果を得ている」と回答した割合は2.4%にとどまった。「あまり成果を得ていない」「まったく成果を得ていない」の合計は25.7%に上っているのが現状だ。

自社のデータ活用で得ている成果
<自社のデータ活用で得ている成果>ガートナージャパンのプレスリリースから。(n=455)(※画像クリックで拡大)

フライウィールの横山CEOは、この調査結果を踏まえ、「AIに投資しても、十分な成果を得られていない企業が少なくない」と指摘。「AIに精度の高い回答をさせ、業務に根付かせていくために、AIがデータを正しく理解できるようにするAI-Ready化に取り組むべきだ」と話す。

「フライウィール」の横山直⼈CEO 

「サイロ化」「属人化」「非構造化」という課題

企業内データの多くがAIで活用されない背景には、「サイロ化」「属人化」「大量の非構造化データ」といった、企業が抱える課題がある。サイロ化は、各部門やシステムごとにデータが独立・分断されて管理され、組織全体で共有・連携されていない状態を意味する。農場で見かける飼料用サイロになぞらえた表現だ。属人化は、担当者しか把握していない、処理することができない状態だ。非構造化データは、メールなどの文書や画像、音声、動画など、表計算ソフトの「行と列」に収まるような決まった構造を持たず整理されていないデータを指す。横山CEOによると、企業内データの約8割以上が非構造化データで、中には手書きの図面や資料も。人間は容易に理解できても、AIにとってはわかりにくいという。日本には、例えば製造業における「匠の技」のように、属人的で構造化されていない貴重なノウハウがたくさんあるが、横山CEOは「これらがAI-Ready化されるだけでも、日本の産業界にとって大きな財産で、勝機につながる」と力を込める。

データが共有されていないサイロ化のイメージ
<データが共有されていないサイロ化のイメージ>(フライウィールの資料から)

そこで、フライウィールではこれら三つの課題を解決し、AIを活用した持続的なビジネス成長を実現できるようにするデータ活用プラットフォーム「Conata(コナタ)」を開発、提供している。Conataでは、非構造化データをAIが理解できるように変換・整形し、データの保存・管理・活用基盤を整えることでAI-Ready化を進め、データ活用に適したデータプラットフォームの構築を支援。さらに、ユーザーがデータの検索や分析などをAIに指示する際に便利なアプリケーションも合わせて提供するのが特徴だ。

Conataを導入した企業の代表例は、書店やライフスタイル提案などを全国展開する「カルチュア・コンビニエンス・クラブ」(横浜市)で、自社データを活用して個店ごとの書籍の売れ行きを予測、自動発注や品揃えの最適化を実現したうえで、返品率の低下にもつながったという。

Conataによるデータ基盤の構築とソリューション例
<Conataによるデータ基盤の構築とソリューション例>フライウィールの資料から。(※画像クリックで拡大)

AI-Ready化で重要な6条件

フライウィールによると、AI-Ready化にあたっては、(1)AIが分かりやすい構造(2)適切な意味づけ(3)データの欠損や重複などを補正した高い品質(4)データへのアクセス権限や機密レベルなどガバナンス面で統一された管理(5)継続的な改善(6)柔軟なシステム拡張に対応するスケーラビリティー ──の6条件を満たすことが特に重要という。

Conata(コナタ)を説明する横山CEO
Conata(コナタ)を説明する横山CEO

フライウィールは2018年の創業で、当時の日本におけるAIへの関心は今ほど高くなかった。しかし、その後の生成AIの普及もあり、横山CEOは「経営者がAIに向き合う姿勢がここ数年で大きく変化した」と感じているという。「AIを導入しないことがリスク」として、「とにかく導入してみよう」というトライアルの時期を経て、「AIによって顧客の満足度はどのくらい高まったのか、会社の利益に結びついたのかといった、経営上の成果を具体的に意識するようになった」とみている。

「戦略17分野」で言及、サービス提供事業者育成に注力

政府は、データの連携やAI-Ready化、蓄積、分析を一貫して行うことができるデータプラットフォームを、AIの普及や経済安全保障などの観点から、重点投資対象「戦略17分野」における「主要な製品・技術等」の一つに位置づけている。AI-Ready化などのプラットフォームサービスは国内ではまだ黎明(れいめい)期にあるといい、技術開発や実証を通じ、安心できるサービスを提供できる国内事業者を育成していく構えだ。国内の関連市場規模は、IT専門調査会社のIDC によると2025年現在で7300億円程度と推定されているが、政府は2035年までに5兆円に拡大することを目指すという。

データプラットフォームの方向性
<データプラットフォームの方向性>内閣官房の資料から。(※画像クリックで拡大)

また、生成AIの開発力強化や社会実装を加速しようと、経産省と国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2024年2月から展開している国家プロジェクト「GENIAC(Generative AI Accelerator Challenge、ジーニアック)」では、2026年5月、製造業等におけるAI-Ready化に関する研究開発で、フライウィールや日立製作所など計9社の事業テーマが採択された。AI-Ready化における独立行政法人情報処理推進機構(IPA)との関わりについて、経産省商務情報政策局情報経済課は「組織を超えたデータ連携技術であるデータスペースの研究や、プラットフォームサービス事業者の掘り起こしなどで協働していきたい」としている。

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