音がつなぐ信頼 東京都品川区アシダ音響の音質本位と堅牢性を支える次世代への事業承継
(※本記事は「関東経済産業局 公式note」に2026年6月2日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

経営者の情熱を発信する“Project CHAIN”第67弾。
今回は東京都品川区に本社を置くアシダ音響株式会社代表取締役社長の柳川 久(やながわ ひさし)さんに話を伺いました。(柳川社長をご紹介下さいました独立行政法人 中小企業基盤整備機構 関東本部の皆さま、ありがとうございました。)
同社は、1942年創業。ヘッドホンやイヤホン、マイクロホン、スピーカーなどの音響製品の設計・開発・製造・販売を行っています。創業当初から一貫して大切にしてきたのが「音質本位」と「堅牢性」という、ものづくりの姿勢です。用途に応じた最適な音づくりと高い耐久性を兼ね備えた製品は、幅広い分野で多くの方々から支持されています。柳川社長の経営に対する信念に迫ります。
用途に応じた音づくり -口コミが積み上げる信頼
―事業内容について教えてください。
当社ではヘッドホン、イヤホン、マイクロホン、スピーカーなどの音響製品を設計・開発・製造・販売を行っています。一口に音響機器といっても、用途によって求められる「良い音」はまったく異なります。例えば、音楽用途では広い周波数帯域の音が求められます。一方、通信用途では長時間の使用でも聞き疲れしにくい音が重要になるなど、用途に応じた最適な音を設計しています。
―近年、製品の認知がさらに広がっている背景には何がありますか。
SNSや個人サイトでの口コミをきっかけに、当社の製品を知ってくださる方が増えています。企業が一方的に情報を発信するのではなく、実際に使った方の声が広がっていく。その発信力の強さを、この10年ほどで強く実感しています。
多数の柱でしなやかに ―変化に強い経営
―柳川社長は三代目ですが、長い歴史の中で、守るものと変えるものをどのように取捨選択されてきましたか。
音質本位であること、そして堅牢性が高いものを作ること。この二つは絶対変えてはならない価値と考えています。デザイン性を過度に重視することで壊れやすくなったり、音質が損なわれたりすれば、当社のブランドイメージは崩れてしまいます。この点は、社員にも繰り返し伝え、徹底してきました。
―一方で、事業展開は時代に応じて柔軟に広げられていますね。
スピーカーを「音の出口」、マイクロホンを「音の入口」と捉え、この二つの切り口で事業を行う点は変えていません。ただし、できるだけ多角的にさまざまな業界に関わることは意識しています。
電機、放送、医療、交通など、幅広い業界に製品を供給することで、特定の業界が厳しい状況になっても、ほかの業界で支えられる。そうした複数の柱を持つ事業構造が、結果として変化に強い経営につながっていると感じます。近年、ECサイトを立ち上げたことも、そうした取り組みの一つです。
社員のワークライフバランスも向上 ―自社ブランドの確立
―もともとはOEMが中心だったそうですが、自社ブランドを立ち上げた背景を教えてください。
OEMの場合、取引先により製品の発売日が決まっています。当社の都合でスケジュールを動かすことは難しく、状況によっては残業が増えることもありました。自社ブランドであれば、自分たちのスケジュールで物事を進めることができ、その結果、社員のワークライフバランス向上にもつながりました。
―自社製品づくりで意識していることは何でしょうか。
お客様にとって、華美な包材が本当に必要なのか、以前から疑問に感じていました。製品そのものを求める方にとっては、余分なものを省き、その分を製品の本質に集中させたほうが価値になると考えたのです。
OEM時代にさまざまなメーカーと仕事をする中で培った経験が、自社ブランドづくりに活きています。
学び続ける経営 ―後継者として、そして次世代へ
―会社を引き継ぐことは、いつ頃から意識していましたか。
幼いころから、何となく自分がこの会社を継ぐのだろうという気はしていました。先代である父も大学卒業後すぐに入社したのではなく、社外で働いてから会社を引き継いでいました。私自身も一度は他社で経験を積んだうえで入社しました。
―事業承継にあたり、どのような準備をされましたか。
中小企業大学校の第28期経営後継者研修を受講しました。法務や経理、財務などほとんど知識のないところからのスタートでしたが、実例を交えた授業は実際の経営にも役立ちました。また、約10か月にわたる寮生活を通じて、全国から集まった同じ想いを持つ仲間と築いたネットワークも大きな財産になっています。
今後も中小企業応援士として、何かお役に立てることがあれば、ぜひ協力していきたいです。
社員の幸せを考える ―敬意と対話が育む“アシダ音響らしさ”
―社員の皆さんとの関係性で心掛けていることはありますか。
年長者を敬い、後輩を尊重することです。33歳で社長に就任したこともあり、コミュニケーションにはとくに気を配ってきました。社員、取引先、お客様など、すべての関係者と丁寧かつ誠実に向き合いながら、社員一人ひとりが安心して働ける経営・環境づくりにも取り組んでいます。
―今後の目標を教えてください。
あと16年ほどで、当社は100周年を迎えます。私の代で終わらせるのではなく、次の世代に、父から受け取ったときよりも良い状態でバトンを渡したいと考えています。
一方で、後継者には「継ぐ自由」と同時に「継がない自由」もあると思います。永続は重要ですが、「刀折れて矢尽きるまで」とは考えていません。経営には引き際を見極めることも重要です。「社員に責任を果たせる状態で判断する」。父のこの言葉は今も強く心に残っています。
―柳川社長にとって「アシダ音響らしさ」とは何でしょうか。
コーポレートカラーでもある「グレー」です。白黒をはっきりつけすぎない、いわば「グレー」な部分を許容できる余白があるところだと思います。余白があるからこそ、相手を尊重でき、新しいことにも挑戦できるのだと考えます。
人と出会い、新しいものに興味を持ち、学び続ける。この姿勢をこれからも大切にしていきたいと思います。
―この度は、貴重なお話をありがとうございました!
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- 関東経済産業局 公式note