香りの可能性から新規事業を模索 独自技術で新たな価値と感動を創出

1903年の創業以来、120年以上にわたり独自の香料技術を武器に成長を続けてきた長谷川香料。2024年に新しく策定したコーポレート・ステートメントのもと、香料事業の枠を超えた新たな価値創造に挑む。代表取締役会長(CEO)の海野隆雄氏に、非連続な成長でさらなる進化を目指す同社の挑戦を聞く。

海野 隆雄 長谷川香料 代表取締役会長(CEO)

香料分野で培った高い技術力
顧客の未来戦略に貢献する提案を

研究開発では、形や色が見えない香りを香料として製品化、顧客が求めるソリューションとして提示している

食品や飲料に美味しそうな匂いや風味をつけ、日用品や化粧品に清潔感や心地よさを演出する香りを付与する香料。創業から120年以上、技術立社を社是に、総合香料メーカーとして活動してきたのが長谷川香料だ。調合香料、乳化香料、粉末香料、天然抽出物、フルーツ加工品、天然色素等の研究開発から製造、販売を手掛け、フレーバー(食品用香料)とフレグランス(香粧品用香料)の2つの領域をコアビジネスとして事業を展開してきた。高い研究開発力と積み重ねてきた独自技術、1万2000品種以上の多品種生産を可能にする生産技術力、そして同社の総合力を活かした的確なソリューションを提案する営業力が強みだ。

2024年10月に経営体制を刷新し、代表取締役会長(CEO:最高経営責任者)・海野氏と代表取締役社長(COO:最高執行責任者)・長谷川研治氏のツートップ体制で、経営と執行を分担している。それぞれが役割を担いながら連携することで経営スピードを上げ、持続的成長と社会課題解決の両立を実現し、企業価値のさらなる向上を目指していく。

2008年に同社へ入社した海野氏は、ハーバードビジネススクールでMBAを取得し、金融畑から転身した。2014年に副社長、2017年に社長に就任。2024年の経営体制刷新で現職に就いた。

「長谷川香料は非常に収益の高い会社です。しかし、プロフェッショナルな集団であるがゆえに、それぞれの部門が独自のコロニーを築き、そのなかで研鑽を続けていた。研究、生産、営業の各部門の能力は高いけれども、ベクトルが同じ方向を向いていなかった。経営は、優秀なブロックをいかに組み合わせていくかに尽きます。私が社長に就任してまず手をつけたのは、各部門の評価軸、価値観を揃えてベクトルを合わせることでした」。

海野氏が社長就任時に追求したのは3つ。1つは「変化を厭わない組織づくり」、2つ目は「経営のスピードアップ」、そして3つ目が「部門の垣根を越えた情報の共有化」だ。さらに近年は、より一層カスタマーサクセスへの貢献を目指し、営業・研究・マーケティングを統括するビジネスソリューション本部を設置。これらの部門が密に連携し、将来のマーケット動向を分析した上で、顧客の未来戦略に1歩踏み込んだ商品やソリューションの提案に力を入れている。

M&Aで世界展開
将来へ向けグローバル人財育成

現在、米国、中国、東南アジアを中心に海外に14か所の拠点を持ち、海外売上高比率は51%となり半数を超えた(2026年3月現在)。国際部門を管掌し、同社の国外における事業成長を主導してきた海野氏は、「海外事業の拡大においては、オーガニックな成長に加え、M&Aを活用してきました」と説明する。

2014年にマレーシアで現地香料会社を買収したのを皮切りに、これまで5件のM&Aを実施。直近では、米中西部から東部への販路拡大を視野に、2024年9月に米国でABELEI社を買収した。また、東南アジアにおいては2025年11月にベトナムで食品香料と食品素材の製造・販売を行うHoang Anh Flavors and Food Ingredie nts Joint Stock Companyを連結子会社化。成長著しいベトナム市場での事業拡大を目指す。

「当社では、大型のM&Aには手を出さず、ボルトオン型のM&A戦略を進めていく方針です。地域、規模、事業内容、マネジメント等の観点から候補をリストアップし、直接交渉を行う方式を採ってきました。M&AはPMIが重要となりますが、これまでの経験を通じて社内にノウハウが蓄積してきています」。

同社では将来の事業展開を見据え、グローバル人財育成プログラムを立ち上げた。海外勤務希望者を立候補で募集し、語学をはじめ、文化や歴史、ビジネススキルなどを学ぶ機会を設け、グローバル人財の育成に注力している。

「むやみに海外展開を広げては人財が補給できなくなる。今は米国・中国・東南アジアに注力し、人財に余力ができれば、その他のマーケットにも出ていきたいと考えています」。

高い技術力と人財力を活かし
香料の周辺領域へ挑む

2024年に新しく策定したコーポレート・ステートメントには「香りにとどまらず、幅広い技術をもって新たな価値と感動を生み出す」と謳う。

「香料ビジネスは、国内が約2700億円、世界全体で約5兆円のマーケット。AIのように爆発的に伸びている市場ではなく、売り上げ成長率が地域によってバラつきのある業界です。海外市場を取ることで、これまで成長してきましたが、香料だけでは飛躍的な成長を遂げるのは難しいと考えています」。

新たな香り創り(創香)から最終商品の応用試作まで多岐にわたる研究開発を手がけ、顧客の期待を超える製品を創出する技術力と高い専門能力を持つ人財力が同社の特長といえる。研究開発費は連結売上高に対し8%と高く、研究開発に携わる人は全従業員の約20%を占める。

「香料周辺の、当社が持っている技術やアイデア、人財を活かせるような新領域へ、今後挑戦していきたい」。

その1つに、香りと睡眠に関する研究がある。同社では、大規模ヒト睡眠データに基づいた独自の創香技術によって、生活者の睡眠を香りによってサポートできないか、香りが睡眠課題の解決に貢献できないかを探っている。

創業以来、長谷川香料を支えてきたのは人財だ。現在も人的資本経営を推進し、人事制度の改革や人財教育プログラムの導入など、経営戦略と人事戦略を連動させた取り組みに力を入れる。また、エンゲージメントを高め、働きやすい職場環境の構築に努めてきた。

「いま力を入れているのは、人財をどこまで厚くできるか。一定の知識、経験、判断力を持つ人財を教育してもう一段上に引き上げていくことで、より強い会社になれると考えています」。

経営管理能力の習得や経営への参画意識を高めることを目的として社内ビジネススクールを設置し、自ら学ぼうとする人へ能力開発の機会も提供している。また、研究から経営企画、研究から営業、製造から調達など、ジョブローテーションもフレキシブルに実施している。「専門分野の知識を持ちながら経営の視点も持てる人財を育て、幅広い分野で活躍させたいと思っています」。

現在、調合香料拡大、国内収益確保、海外事業拡大の3つの基本戦略を中心に据え、事業を展開する長谷川香料。世界が抱える様々な課題の解決へ向け、香りにとどまらず、幅広い技術で新たな価値と感動を創出し、世界に貢献できる会社を目指していく。

 

海野 隆雄(うみの・たかお)
長谷川香料 代表取締役会⾧(CEO)