セルフ注文システム導入で売上40%増 沼津港カフェが賃上げ実現

(※本記事は経済産業省が運営するウェブメディア「METI Journal オンライン」に2026年3月2日付で掲載された記事を、許可を得て掲載しています)

「物価上昇を上回る賃上げの定着」が求められる中、中小企業や小規模事業者も様々な形で賃上げ原資の確保に努めている。静岡・沼津港のマーケットモールでカフェを経営する「コーラルウェイ」(静岡県沼津市)は、タッチパネル式のセルフオーダーシステムの導入で注文や会計の業務を効率化。客の回転率が高まり売り上げも増加し、アルバイト従業員の時給改善を実現した。システムの導入にあたっては、中小企業庁が設けた補助金を活用した。

タッチパネル式のセルフオーダーシステムの導入

シーラカンスの形をしたスイーツが人気のカフェ

コーラルウェイは、沼津港で土産物店や飲食店が数多く並ぶマーケットモール「沼津みなと新鮮館」で、「しーらかんすCafe」を経営している。社長の矢島伸浩さんが元々、ダイビングショップとして1991年に創業した有限会社だが、2017年に飲食専業となり、2020年から現在の場所でカフェを営んでいる。従業員は矢島さんと妻の陽佳(はるか)さん、アルバイト数人だ。

しーらかんすCafeを経営する矢島さん夫妻
しーらかんすCafeを経営する矢島さん夫妻

カフェの名前は、沼津港が面する駿河湾が「日本一深い湾」として知られることなどから、深海魚のシーラカンスにちなんだ。オリジナルのスイーツもシーラカンスをモチーフにしているのが特徴で、中でも産地にこだわった小豆餡(あん)を購入者が自ら詰める「深海もなか」は、皿の上で立たせることができることなどから縁起物としても好評だ。沼津商工会議所が認定する「沼津ブランド」の商品に選ばれており、年間約2万個を販売する主力商品という。

シーラカンスの形をした「深海もなか」(コーラルウェイのホームページから)
シーラカンスの形をした「深海もなか」(コーラルウェイのホームページから)

1日に500組が来店する日も…セルフ注文システム導入

沼津港周辺は、新鮮な海産物を楽しめる飲食店や干物の販売店もあり、特に週末は多くの観光客が訪れる。しーらかんすカフェも1日に500組ほどが来店する日もあるという。限られた人数の従業員で効率的にカフェを運営できるよう、矢島さんはコロナ禍から客足が戻りつつあった2022年の春ごろ、オペレーションの見直しを開始。インターネットなどで情報収集する中で、客自身にタッチパネルを操作してもらって注文を受け付け、会計まで機械が対応するセルフオーダーシステムに着目した。

そこで、矢島さんは、こうしたシステムを導入していた他の飲食店に出向いて体験したうえで、自身の店にも採用することを決断。東京都内のITソリューション企業「トランジット」が展開する「e-menu(イーメニュー)」というシステムを、2022年の夏に導入した。

しーらかんすカフェのシステムでは、まず、客がタッチパネルでメニューを選ぶと、QRコード付きの伝票がプリントアウトされる。その伝票を客が精算機にかざすと、現金や電子マネーなどで支払いができる。注文内容は厨房(ちゅうぼう)でも即座にプリントアウトされ、スタッフが商品の用意を始めるという流れだ。カウンター内には、メニューの表示内容などを管理するパソコンもある。

しーらかんすカフェで導入したセルフオーダーシステム。客が操作するタッチパネル・精算機(左)とカウンター内に設置された管理用の機器
しーらかんすカフェで導入したセルフオーダーシステム。客が操作するタッチパネル・精算機(左)とカウンター内に設置された管理用の機器

矢島さんによると、機材一式の導入費用は約350万円で、その一部を中小企業庁の「IT導入補助金」(現デジタル化・AI導入補助金)でまかなったという。補助金の概要などは自身でも調べ、申請手続きではトランジットのサポートも受けた。

回転率向上し売り上げ増加、時給アップに

システム導入の効果について、矢島さんは「従業員0.7人分ぐらいの働きに相当していると感じ、非常に助かっている」と話す。導入前に少なくとも1人を充てていた注文と会計の要員がほぼ不要になった。また、客の流れがスムーズになったことで回転率も向上、売り上げは約40%伸びたという。

効率化と売り上げ増で生まれた原資をもとに、アルバイト従業員の待遇改善も実現。繁忙期の賃金は静岡県の最低賃金(時間額1097円、2025年11月1日発効)を3割程度上回る金額に設定しているといい、矢島さんは「このあたりではあまり聞かない金額で、アルバイトの定着にも効果があるのではないか」と語る。さらに、矢島さん自身の仕事にも余裕が生まれ、新商品の開発に時間をより割くことができるようになったという。

もなかの新商品で2025年12月に発売した「深海もなポーネ」(右)。マスカルポーネクリームの味を楽しめる
もなかの新商品で2025年12月に発売した「深海もなポーネ」(右)。マスカルポーネクリームの味を楽しめる

矢島さんは、「セルフオーダーシステムを導入して本当によかった。これなしではもう、カフェをやっていけないほどです」と笑顔を見せる。

「IT導入補助金」は「デジタル化・AI導入補助金」にリニューアル

しーらかんすカフェが活用した中小企業庁の補助金は2026年、「デジタル化・AI導入補助金」にリニューアルされた。中小企業や小規模事業者の生産性向上を目的として、業務効率化やDX(デジタルトランスフォーメーション)などに向けたITツール(ソフトウェア、サービスなど)の導入を支援する補助金だ。

対象となるITツールは、事前に事務局の審査を受けて同補助金のホームページに公開・登録されたものになる。また、この補助金を活用したい中小企業などは、登録された支援事業者とパートナーシップを組んで申請することになるという。

<デジタル化・AI導入補助金のしくみ>

(デジタル化・AI導入補助金のホームページから)
(デジタル化・AI導入補助金のホームページから)

在庫管理システムなど事業のデジタル化を目的としたソフトウェアやシステムの導入を支援する「通常枠」や、インボイス制度に対応した会計ソフトなどの導入を支援する「インボイス枠」など、全5種類の申請枠が用意される。補助金の交付申請受け付けは、2026年3月30日に始まる予定だ。

省力化投資を補助金で支援

また、政府は、中小企業の人手不足解消に効果のある省力化投資を後押しする「中小企業省力化投資補助金」を設けている。省力化を通じて売り上げの拡大や生産性の向上を図り、賃上げにつなげることが目的だ。

補助金には、省力化に役立つ汎用(はんよう)製品をリストから選んで導入することを支援する「カタログ注文型」と、個別の事業内容に合わせた設備やシステムなどをオーダーメイドで導入する場合の支援をする「一般型」の2種類がある。カタログ注文型では、支援拡充などの制度改定が2026年3月19日に行われる。

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