総務省 高性能AI時代の自治体サイバー対策

総務省自治行政局 住民制度課 サイバーセキュリティ対策室 サイバーセキュリティ専門官の米井雄一郎氏が登壇。高性能AIが攻防の様相を変えるいま、自治体が取るべき対策を語った。

総務省 自治行政局住民制度課
サイバーセキュリティ対策室
サイバーセキュリティ専門官
米井雄一郎氏

AIが攻撃側の生産性を高める
トップの判断で組織を動かす

2013年にアクセンチュアに入社し、KPMGコンサルティング、電通を経て、2022年に経験者選考採用(課長補佐級・総合職相当)で総務省に入省した米井雄一郎氏。入省後、重要無線通信の確保や重要インフラ防護、サイバー安全保障政策などを手掛けてきた。

「高度な攻撃の準備が、AIによって速く、安く、大量にできるようになりつつあります。サイバーセキュリティは情報システム部門だけの技術課題ではなく、行政サービスの継続、住民情報の保護、組織への信頼に直結する経営課題です。何を優先して守り、どこまでリスクを許容し、人員と予算をどう配分するのか。首長やCISOを含む幹部が平時から判断し、有事を想定した訓練を重ねることが重要です」。米井氏は冒頭、サイバーセキュリティをめぐる判断の起点は経営層にあると強調した。

インターネット上の探索活動を含むサイバー攻撃関連通信も高水準にある。情報通信研究機構(NICT)によれば、2025年にダークネットで観測されたサイバー攻撃関連通信は、1IPアドレス当たり年間約250万パケット。約13秒に1回に相当する観測量で、AIによる自動探索が加われば、外部公開した機器やサービスは絶えず狙われるという前提が要る。

基本対策こそ最大の備え
AI利用のルールを組み込む

高性能AIは、公開資産の探索や脆弱性分析、攻撃コードや巧妙なフィッシングメールの作成にも悪用され得る。脆弱性の発見から悪用までの時間は一段と短くなる。「情報漏えいや住民情報の改ざん、行政サービスの停止といったリスクが、これまでより速く現実化します。防御側にも、脅威を把握し影響を見極めて対応する力が求められます」。

一方で、高度なAI製品の活用に先立ち、基本的な対策を着実に実施することが重要だ。「多要素認証、不要なアカウントの削除、管理者権限の絞り込み、バックアップの確保、復旧プロセスの実証。AIが攻撃を加速させるからこそ、基本の徹底が最大の備えになります」。

パッチ適用でも、優先順位や事前検証、適用期限、緊急時の判断手順を定めて作業方針を確立し、難しい場合はアクセス制限や監視強化で補う。総務省は情報セキュリティポリシー策定の参考としてガイドラインを示す。

令和8年3月27日の改定では、改正地方自治法への対応に加え、機器の廃棄・データ消去、外部記録媒体の管理などが見直された。重要なのは例文の転記ではなく、各自治体が規模や業務に応じて運用へ落とし込むことだ。

また、AIを業務で利用する場合には、入力してよい情報、提供事業者による入力情報の学習利用の有無、出力内容の確認方法や利用状況の記録・保存方法を定め、利活用とリスク管理を一体で設計する必要がある。

ネットワークの境界だけに頼らず、利用者や端末、アクセス状況を継続的に確認するゼロトラストの考え方も欠かせない。「セキュリティはDXを止めるブレーキではありません。安定した行政サービスを提供し続けるための、道路や信号、ガードレールなのです」。

総務省は2026年8月4日、全国の都道府県知事及び市区町村長に対し、サイバーセキュリティ対策の強化を求める総務大臣書簡を発出。トップ自らが強いリーダーシップを発揮し、国の支援策も活用しながら、必要な予算・人員を確保して取組を進めるよう要請している。