メンバーズ「超会社」経営、幸せと成長の両立で挑む2035年

「超会社」に込めた倒産危機からの反省
メンバーズは1995年、剣持忠氏(現取締役)によって設立された。創業後まもなく経営危機に直面した経験が、同社の経営思想の原点になっている。この危機を乗り越える過程で確立されたのが、「社会への貢献」「社員の幸せ」「会社の発展」の同時実現を掲げる経営指針「超会社」である。
2023年4月に代表取締役兼社長執行役員に就任した髙野氏は、この思想を単なるスローガンではなく「ビジョン策定にあたり大切にしている、経営の源流となる思想」と位置づける。「なぜこのビジョンになるのか、経営危機に直面した際に、様々な議論を経て、立ち返った先が『超会社』という思想だった」と髙野氏は振り返る。
超会社の理想像として同社が挙げるのが、北欧デンマークである。高福祉・高負担という一面的な印象を超え、近年は生産性と競争力の高さでも際立つ国だ。
「幸せを国家運営のゴールに置いているからこそ、結果として高い生産性が実現している」と髙野氏は語り、利益追求を出発点にした経営とは一線を画す姿勢を明確にする。
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「Web運用」から「DX現場支援」へ
メンバーズは、企業のWebマーケティングの運用を主力事業としてきたが、市場環境の変化に伴い、2024年から「DX現場支援」への事業構造の転換を図ってきた。FUTURE VISIONでは、「デジタル実装パートナー」へのさらなる進化を掲げる。AIの普及によって技術導入のハードルが下がり、デジタル化の波は店舗や通信インフラなど、より現場に近い領域まで広がっているという。DX現場の「デジタル実装パートナー」として、外部の専門ベンダーではなく、顧客の内側から変革を共にやり抜くことを目指す。
この転換の根底にあるのが、技術に対する同社独自の姿勢である。「AIが人を不要にするのではなく、AIによって人の力や価値をどう伸ばしていくかを考えたい」と髙野氏は力を込める。同社の事業モデルが、人材が顧客企業に伴走する「プロフェッショナルサービスモデル」である以上、人を軽視した効率化は本来目指す姿ではないという判断だ。
なお、環境の変化は想定を超えるスピードで進んでいる。髙野氏は、直近1年ほどのAI技術の進展だけでも予測が難しかったと明かし、従来型の中期経営サイクルを見直す必要性を指摘する。
年間1,000人採用と「あたかも社員®」
メンバーズの競争優位性を支えるのが、2,500名を超えるデジタル専門人材が顧客企業に深く伴走する独自のポジション「あたかも社員®」である。FUTURE VISIONでは、年間1,000人の採用目標を掲げた。かつて2020年に長期ビジョンVISION2030で掲げた「1万人採用」について、髙野氏は「数値目標を起点に戦略を描いていた面があった」と振り返り、今回は数字よりも採用競争力そのものを重視する方針へと発展させたという。
「日本社会は圧倒的な人手不足に直面しており、変革を担う人材は都市部でも地方でも足りていない」と髙野氏は指摘する。採用の軸となるのは、企業の知名度や待遇ではなく、ミッションやビジョンへの共感である。評価制度においても、売上額そのものではなく顧客の成功や社内の協力体制を重視する独自の評価軸を設けている点が特徴だ。
技術の変化が速まる中、同社が重視するのが「ラーニングアジリティ」、すなわち学び続け、必要に応じて専門領域を切り替える姿勢である。従来のマーケティングやプロダクト開発領域に加え、物流・鉄道・製造業・医療など新たな分野に特化した専門組織を設立し、社員が新領域の知見を蓄積できる体制づくりを進めている。
上場企業が証明する幸せと成長の両立
FUTURE VISIONでは、気候変動、労働人口の減少、社会の分断、AI技術の急速な進化という4つのマテリアリティを位置づけ、「インパクト創出事例1,000件」「営業利益100億円」というKGIを掲げた。
髙野氏は、約20年前に社会に貢献する経営人材になりたいと考えていた当時の思いに触れつつ、「その理想にどこまで近づけているかは、今も自分自身に問い続けている」と語る。上場企業でありながら社員の幸せや社会貢献を追求する経営を続け、成果を積み重ねてきたことに、一定の意義を見出しているという。
「社員の幸せと社会貢献を追求する経営でこそ企業は成長できるということを、実績として証明したい」。髙野氏の言葉には、経営者としての静かな決意が込められている。