介護業界のイメージ向上 学び直しで取り組むべきことがクリアに
社会人の学び直しには「卒業後に何をすべきか?」という視点が欠かせない。介護領域の広報を実践しながらコミュニケーションデザイン研究科で学んだ修了生と、その研究指導を行った柴山慎一教授が、業務だけでは得難い大学院での学びについて振り返った。
知識や理論の必要性を痛感
柴山 植松さんは入学当時、大手保険会社グループの介護事業会社に勤務していましたね。どうして大学院での学び直しに取り組もうと思ったのでしょうか。
植松 私が広報の業務に携わるようになったのは2012年ぐらいからです。当時所属していた会社では、広報担当者は少なくて2人程度。そうした体制の中で、必要に迫られる都度、独学で本を読んで、業務知識を得てきました。「きちんと勉強をしたい」と思ったのは、現在所属する会社で2019年に広報部長に昇進したことがきっかけです。部下の指導や上司と話をする際に、体系的な知識や理論に基づく必要があると痛感したからです。MBAで学ぶことも検討しましたが、コミュニケーションデザイン研究科のカリキュラムが今の実務により密接に結びついていることが入学の決め手になりました。
柴山 本研究科と、よくある短期の教育プログラムとの大きな違いは学びの深さの違いにあります。大学院での2年間は、広報パーソンとしてのスキルを学ぶだけでなく、よりコンセプチュアルでベーシックな学びが得られます。広報やコミュニケーションを入り口にして経営学や社会学全般の知識が身につくため、より社会でつぶしのきく学びができる場だと思いますね。
植松さんは普段の仕事も多忙だと聞いています。実務と学業の両立を、どのようにされていましたか?
植松 2020年4月、ちょうどコロナ禍が始まった頃に入学しました。当時は、介護の現場で感染者が出る都度、対策会議をしたり、リリースを発信したりしていたので本当に忙しくて。これがオンライン授業でなかったら、全く両立できていなかったと思います。18時半まで仕事をして、そのまま会社から授業に参加することもできました。授業数を多く取れたのも、オンライン授業だからこそと思います。
柴山 履修した授業の中で印象残っているものがあれば教えて下さい。
植松 「コーポレート・コミュニケーション」の授業では、たとえばM&Aをして子会社化した後、グループの一員として融合させていく際のコミュニケーションをどうするのかなど、かなり実践的な話がありました。ちょうど私の会社でも事業拡大のためのM&Aを進めている最中だったので、そこをテーマに取り上げていただいたのはありがたかったですね。
また「情報・文化・コミュニケーション」の授業で取り上げられた「あいちトリエンナーレと表現の自由」に関するディスカッションが印象に残っています。普段はなかなかひとりでは考えられないテーマを議論する中で、思ってもみなかった意見を他者が持っていると気づけたことはすごく面白かったですね。
図1 コミュニケーションデザイン研究科での「学び直し」で身につくこと
図2 コミュニケーションデザイン研究科の学び
業界全体に貢献したい
柴山 修士論文にあたる本学の「研究成果報告書」ですが、植松さんの論考は「介護業界のイメージ向上」に関するものでした。書き進めていく上での苦労や、良かった点を教えて下さい。
植松 論文の執筆を通じて、同業他社の方に話を聞きに行ったり、同様の取り組みを行っている方から個別に話を聞いたり。「論文を書く」という目的がなければ、通常業務ではなかなかできないことばかりだったので、大きな経験になったと思います。
柴山 植松さんは先頭を切って走るタイプだったので、私も常に「いかにラクをさせないか」を意識していました。それにちゃんとついてきてくれたので、とても立派な院生さんだったと思います。研究内容はお仕事にどう活かされていますか?
植松 私の研究成果報告書は実務中心の内容でした。介護業界は少子高齢化でどんどん高齢者が増える一方、担い手不足が深刻化しています。ここでの学びを通じて、自分の会社だけではなく業界全体に貢献したいと考えるようになりました。
また、研究成果報告書を通じての一番の成果は、自分が「取り組むべきこと」がクリアになったことだと思います。今はそうした施策の一つひとつを実行に移している段階ですね。
広報を切り口に社会を学ぶ
柴山 オンライン中心の授業になりましたが、同期や先輩後輩とのつながりはつくれましたか?
植松 入学直後に1学年上の皆さんがガイダンスを開いてくれて、とてもありがたかったですね。オンライン飲み会みたいなこともありましたし、授業やゼミで同期の方と色々話しながら、仲良くなっていきました。修了後で言えば、私は比較的同期と会う機会が多い方だと思います。ゼミのOB・OG会に参加する機会もありますし、そこで修了後もつながりを保っているのが嬉しいですね。
柴山 最後に、この研究科に向いている人は、どんな方だと思いますか?
植松 実務で広報業務を担っている方はもちろん、何らかの仕事でコミュニケーションについて考えなければいけない人は、すごく学びが多いと思います。後は、本気で勉強したいと思っている人。それなりの覚悟を持っていないと大変だとは思いますが、そこさえクリアできれば充実した2年間が送れると思います。
広報を切り口にして、社会のこと、経営のこと、組織のことを学ぶ。そういうことに興味を持っている方にとって、とても価値がある大学院だと思います。
- 柴山 慎一(しばやま・しんいち)
- 社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科 教授
- 植松 麻紀子(うえまつ・まきこ)
- 修了生
社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科
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