2030年の構想 北九州市が考える「ローカルガバメントクラウド」

全国自治体のガバメントクラウドへの移行が進むなか、北九州市はその先のデジタル基盤を考えている。その名は「ローカルガバメントクラウド」。地域特性を活かした自治体共同利用型の次世代自治体デジタル共通基盤の仕組みや、共同運営・共同利用における自治体のメリットについて解説した。

高尾 芳彦(北九州市デジタル市役所推進室DX推進課
技術総括係長)

変革期を迎える自治体の環境

北九州市デジタル市役所推進室DX推進課 技術総括係長の髙尾芳彦氏が登壇し、アフターガバメントクラウドとして、次世代自治体デジタル共通基盤「ローカルガバメントクラウド構想」について説明した。

「現在、ガバメントクラウドとプライベートクラウドを接続してハイブリッドクラウド運用を行うための基盤整備を担当しています。本日は基幹業務システムの標準化移行が落ち着くであろう2030年頃のデジタルプラットフォームの世界をイメージし、私的に温めている構想をお話しします」

国や自治体が利用する情報システム環境は、クラウド技術やネットワークアーキテクチャの発達により大きな変革期を迎えつつある。国では基幹業務システムの統一・標準化やガバメントクラウドの整備が進められおり、国・地方の新たなネットワークについての検討も進みつつある。

「私達は今後ますます複雑化する情報システム環境に対して、システム運用を担当する職員のスキルを確保しながら、どのような対応が必要であるかを考えてきました。そこで2030年頃の自治体情報システムの運用モデルをイメージしつつ、これまでの経験から導き出した次世代自治体デジタル共通基盤の構想を提案します」

図 ローカルガバメントクラウド概念図

2030年の実現を見据えたアフターガバメント構想の根幹となる、共同利用型の次世代自治体デジタル共通基盤「ローカルガバメントクラウド」

 

ローカルガバメントクラウド
デジタル社会の実現を目指す

北九州市は、業務システムが共通利用する機能を装備した仮想化サーバ基盤「システム共通基盤」をプライベートクラウドとして位置づけ、約90の情報システムを稼働させ、全体最適を行うことでコスト削減を図っている。

「システム共通基盤は、3Tier構成による複雑な機器構成となっており、機器更新タイミングごとに機器の選定から設計、運用方式の検討を経て構築を行い、安定稼働させるまでにはそれぞれの機能に関する高度な知識と技術が必要のため、専門的職員の人材育成が重要な課題になっています」

今年度は新たに「クラウド共通基盤」を整備することに注力している。現在運用しているシステム共通基盤に加えて、ガバメントクラウドとの接続や標準準拠システム及び密接関連システムを搭載する環境として、新たにパブリッククラウド上に独自のクラウド共通基盤を整備中だ。クラウドメリットを活かした運用方式とオンプレミス環境との円滑なデータ連携を実現するための機能を構築し、マルチクラウド・マルチベンダによるハイブリッドクラウド運用を実現する。

「解決すべき課題がいくつかあります。共通基盤の運用保守にかかる経費、新たに追加となる通信料やクラウド利用料などを考慮したコスト削減。また、システム所有からシステム利用への転換を図りながら、共通化・自動化によるシステム運用作業の軽減、システム運用職員のスキルの維持、職員全体の業務軽減など、さまざまな課題が挙げられます」

これらの課題を解決すべく導き出したものが「ローカルガバメントクラウド」だ。スマートシティの実現に向けて地域特性を生かした共同利用型の次世代自治体デジタル共通基盤であり、それらをLGWANに変わる新たな自治体間ネットワーク「LGCN」(Local Government Cloud Network)で結ぶことで、各地域のLGCノードが通信の主体となり、中間サーバ等は不要となる。また、ガバメントクラウドや民間サービスと連携するための分散アーキテクチャを構成する要素となる。

「将来的には、データ主権や運用管轄権を確保した国内クラウドをソブリンクラウドとして利用し、G2CやG2Gサービスを提供。外資系のハイパースケーラーCSP上ではB2Gを主体としたサービスを利用します。LGCは各自治体から選抜された情報システム部門のプロフェッショナルメンバーとシステムベンダーとの共同運用により、安全で円滑なシステム運用と広域連合会的な共同運営方式によってコスト削減を実現します」

自治体側は、従来のシステム調達を必要とせず、サービス利用契約を締結することで、情報システム環境の提供、アプリケーション利用権を獲得することで、システム調達業務の簡素化、調達期間の短縮を図る。

「LGC組織体では若いデジタル人材を育成し、さらに地域雇用を確保することで圏域からのデジタル人材流出を防ぎ、圏域単位で高いデジタル技術力を確保します。官民が連携して新しい住民ニーズを把握し、デジタルサービスメッシュを活用したサービス提供を行います。スマートシティ実現のため、アプリケーションは統一されたUIを確保し、住民が率先して利用するような安全かつ簡易なサービスを提供し、デジタル社会の実現を目指します」

自治体の職員は
真の行政サービスに注力できる

LGCの構成イメージは次の通りだ。

「マルチクラウドサービスはデータ主権とセキュリティを確保したソブリンクラウドでパーソナルデータを管理し、それぞれのクラウド特性を活かしたフロントサービスとなるアプリケーションを搭載し、マイクロサービスアーキテクチャを活用して利便性を高めます。モダン化されたアプリにより利用者に使いやすいUIを提供します」

LGCの 運営は産学官の共同体で行う予定だ。自治体のみでなく、システムベンダーやコンサルティング会社も参加し、インフラ基盤運用からシステム開発、デジタル人材研修なども実施する。機能面では、ACL機能やID管理、認証基盤、セキュリティ基盤を装備し、各業務システム間連携はデータ連携基盤で結び、デジタルサービスメッシュによりさまざまなフロントサービスを展開。各セクションのメンバーは、それぞれがスペシャリストとして行動し、厚い信頼関係を保ちながら目的の達成を目指す。

「LGC運営を共同で行い、地域でデジタル技術の介入が行われることで雇用も創出され、デジタルスペシャリストが育ちます。その結果、自治体職員は不慣れなシステム運用から解き放たれ、真の行政マンとして行政サービスの提供に注力できます。さらに複数システムの共同利用化が進むことでコストダウンも実現します。LGC構想はデジタル技術の力を集結すること。これまで地域で貢献してきた専門技術者の雇用を確保しながら、新たなデジタル人材を集結させることでローカルガバメントクラウドを継続的に維持する力を確保していく。次に地域住民のQOLの向上を目指すこと。デジタルサービスメッシュにより、住民はスマホなどのエンドポイントデバイスでxTechサービスを受けられるようになる。最後に新たな行動要請(BCtA)。産学官が連携・協働することで持続可能なスマートシティを実現するためのシステムモデルを考え、 高度なデジタル技術を適用しながら実現に向けて行動することが必要です」