アサヒ飲料の人財育成と哲学 Z軸を立てて新たな価値を創造
アサヒ飲料は「100年のワクワクと笑顔を。」をスローガンに、飲料事業を通じて、健康、環境、地域共創の分野で新たな価値を創造し続けることを目指している。そこで必要となる、Z軸を立てる人財育成と哲学、組織づくりについて、代表取締役社長の米女太一氏に聞いた。
新しい価値の創造では
ワクワクのZ軸が必要
アサヒ飲料は世の中を楽しく明るくすることを存在意義と考え、「100年のワクワクと笑顔を。」というスローガンを掲げている。会社の事業に対し、社会から期待されるようになるためには、「新しい価値を創造し続けることが必要で、会社がそういう方向へしっかり向かっていることが、世の中と共有されることも大事だと思います」と米女氏は語る。
人は新しい価値を創造しようとする時、現状の延長で物事を考えることが多い。今あるものから色々なものを想起しようとするが、そのような考え方では、いつか停滞してしまう。このため、全く異なる角度から、ものを見ることが必要になる。
「経営のX軸、Y軸で考えると、Y軸が成長性や規模だとすれば、X軸は営業利益率などです。私たちは、そのX、Yの面積が大きい、小さいで物事を判断しがちですが、『ワクワクと笑顔』と言っているのに、そこにワクワクの軸が出てこないのはおかしいと思います。そのワクワクの軸が、Z軸です」。
米女氏は社長就任以前から、社内の議論が平面的なことが多いと感じており、このように考え始めたという。そして社長就任後は、経営の1つの考え方として、この考え方を皆と共有するようにしてきた。
「まずは社員がワクワクすることが一番ですが、お客様に『アサヒ飲料は次に、何をしてくれるのだろう』とワクワクしながら待っていただける。そういうことを、私たちはやっていく必要があると思います」。
また、米女氏は以前、人事担当役員を務めており、当時から会社や世の中に対して大きな貢献をするには、人の原動力が重要と感じていた。そして人が一番力を発揮する状態は、自分が持つポテンシャルを最大限に発揮できる状態で、その状態がウェルビーイングだと考えている。このため、皆が自然にポテンシャルを発揮できる状態にするのが、経営の仕事だと考えたという。
物事を全体で捉え、将来を
考えて新しい価値を生み出す
「ポテンシャルを発揮するためには、まず自分がどういう場面で、それを発揮できるのかを知る必要があります。そのためには、色々な会話をして、どんな仕事があるのか、その仕事の目的は何かということを知ります。つまり、『こういうことをやれば良い』というのが自分のポテンシャルと結びつくような会話をしていくことが、最初にあります」。
アサヒ飲料では社員が活躍できる場を提供するため、社内副業の制度をいち早く導入した。そして20代、30歳前後、40歳前後、40代後半という4層に分けてMBA(経営学修士)の要素も含めた教育を行い、 社員が自分の考えを経営に述べる研修も実施している。
副業や研修には社員が自ら手を挙げて取り組み、副業で経験した仕事が好きで、その部署で受け入れられれば、そこへ異動することもある。当初は「副業すると、今の仕事がおろそかになるのではないか」という懸念もあったが、この制度が始まると、ほとんどの人がそれを受け入れてくれるようになった。今では全体的な効果を見ると、良い結果が出ると認識している人が多いという。
また、米女氏は「新しい価値を生み、しなやかで強く生きていくためには、物事を広く全体で捉え、将来について考えることが必要です」と指摘する。このような考え方ができる人財を育てていくため、研修は何かを覚えるものではなく、何かをプレゼンテーションする形に切り替えている。
このような研修は数年前から始め、これまでに数百人の卒業生が出ている。それらの人たちが各所、 各部門で活躍する姿を見て、その発想の仕方が少しずつ、周りに伝わっていくことも目指している。
さらに、全体を座標軸で分け、俯瞰して考えることも必要だ。縦軸では経営側の方針と一人ひとりの業務がどのようなストーリーでつながっているかを考える。横軸ではバリューチェーン全体を見て、自分の立ち位置が全体の中で求められている役割を考える。
「縦と横がつながっていれば、会社はうまく行きます。そこがつながっているという前提で、一人ひとりが自分自身の構想を持ち、仕事をするのが一番良い状態です」。
個々人が自律的に潜在力を発揮し、
将来に期待できる社会に
アサヒ飲料では、新しい価値を発見する時の軸を、健康、環境、地域共創という3つに据えている。しかし、「何よりも大事なのは、お客様目線、そして社会目線です」と米女氏はみる。そこでは顧客や社会に何が求められているのかを、本気で考えることが重要になる。
「色々な勉強をすると、ともすれば、学んだことをそのまま当てはめると良い成果が出る可能性があると思いがちです。しかし、それは思考を速めることにはつながっても、深さにつながる訳ではありません。ある理論を適用していくためにはカスタマイズが必要で、カスタマイズするためには現実をよく理解することが大切です」。
地域共創に向けては、地域の人々と触れることが大事だ。環境問題について考える時は現実を把握し、本当はどこが一番良くないのかというポイントを知ることが求められる。その上で、「それを解決するためにZ軸のようなものが出てくれば、実際に解決されていきます」と米女氏は言う。
例えば、アサヒ飲料では2018年から業界に先駆けてラベルレスボトルを展開し、プラスチックごみの削減に取り組んできた。ラベルレスボトルはその後、他社製品でも続々に取り入れられ、1つのトレンドとなった。
「私たちがラベルレスの商品を出した時は、環境だけでなく、ラベルをいちいち剥がして分別することのお客様への負担にも注目しました。そこでは、その負担をなくすということに気づくことも大事だったと思います」。
アサヒ飲料では今後、社員一人ひとりが縦と横の役割の中で自分を認識し、何が良いかを考え、自律的に構想できるよう、人財育成の取り組みを続けていく。米女氏は「一人ひとりが同じ方向を向いて違うやり方をするのが、一番強い組織だと思います」と言い、そのような力を付けて組織全体をまとめていくことを目指す。
さらに、何が良いことかを皆が共有しながら、それぞれの人が自律的にポテンシャルを発揮できる。そのような、笑顔でワクワクする社会の実現に向けて、今後も事業を展開していく。
- 米女 太一 (よねめ・たいち)
- アサヒ飲料 代表取締役社長