自治体DX推進に向けて 「デジタル敗戦」を糧に自ら見直しを

社会のデジタル化が進む中で行政の対応が遅れてきたのはなぜか。いまこそ表面的なデジタル改革ではなく、行政の仕事のやり方を根本的に変えるべきだと、自治体DXの有識者、庄司 昌彦氏が語る。

庄司 昌彦 武蔵大学 社会学部 教授、総務省「地方自治体の
デジタルトランスフォーメーション推進に係る検討会」座長

「デジタル敗戦」から学ぶべきこと

約1年前、2020年12月に総務省から発表された「自治体DX推進計画」は、全国の自治体が情報システムの標準化、行政手続のオンライン化などについて計画的に取り組むための5年超の中期的な計画だ。計画の検討会に座長として関わった武蔵大学 社会学部 メディア社会学科の庄司 昌彦教授は、現在の世界的なデジタル化の流れに日本が乗り遅れている現状から講演をスタートした。

「日本は『デジタル敗戦』という言葉で表される通り、2001年には『e-japan重点計画』、2013年には『世界最先端IT国家創造宣言』を出し、世界最高水準のIT利活用社会の実現を目指してきましたが、いずれも目的は達成できず、失敗を繰り返しています。この影響は行政だけではなく、民間ビジネスも含めて日本の国際競争力の低下にも関係しているのではないかと私は考えております」と庄司氏は指摘した。

行政がデジタル化を検討する際は、表面的な改革ではなく、「行政における仕事の仕方の改革(アナログの改革)から取り組んでほしい」と庄司氏は語る。住民向けに行政手続きのオンライン化を進め選択肢を増やすのは良いが、行政内部のアナログな事務作業を残しているようでは、現場の全体作業量は増えるばかりという事態になりかねない。改革をするには自分たちで内部の事務のあり方から考え、金・人・ルール・情報/文書の取り扱いを横断的に基盤からフルデジタルに変えるべきだという。

従来の仕事の仕方を疑う

ではそういった改革にはどのようなIT人材が必要になるのか。

求められる要素は2つで、1つは最新技術や他自治体の事例に踊らされず、自分たちの目の前の現実に向き合う力だ。必要なのはアナログの改革であり、従来の仕事の仕方を客観的に見て、そもそもの仕事のやり方の課題を発見し指摘することが必要だ。

もう1つはデジタルを活用した仕事の仕方を設計する力だ。新しいやり方を導入する際に、人に負荷をかけず、拡張性があり、リスクに強い方法を見つけることが重要で、政府の動向や技術動向などの情報を収集し、取捨選択できる人が求められる。

総務省から発表された「自治体DX推進計画」は、重要取組事項として、自治体の情報システム課の標準化・共通化、行政手続のオンライン化などを掲げているが、それぞれの具体的な手順をまとめた「自治体DX推進手順書【第1.0】」が2021年7月7日に総務省Webページで公開されている。その中のDX推進の4ステップは全自治体職員がチェックするべき内容だ。

ステップ0は「DXの認識共有・機運醸成」で、DXの実現に向けた首長や幹部職員による強いコミットメントが求められる。ステップ1は「全体方針の決定」で、DX推進のビジョンと工程表で「全体方針」を決定し、広く共有するフェーズ、ステップ2は「推進体制の整備」で、横断的なDX推進担当部門の設置とともに、各部門と緊密に連携する体制を構築するフェーズ、ステップ3は個別のDXの取り組みとともに、PDCAサイクルによる進捗管理を継続していく。

最後に庄司氏は、これからの自治体職員に求められる意識としては、国が求めることを受け身でこなすのではなく、「仕事の仕方」を自ら見直すことだと話した。そして、デジタル改革を通じて地域社会全体のアナログ改革を進めてほしいと締めくくった。