全国の自治体で導入が進むRPA 豊中市の事例と課題
自治体職員の業務効率化のために欠かせないRPAを含めたDX化。さまざまな業務を自動化する便利なツールではあるが、導入を進めるには従来のやり方を大きく変える必要があるなど確実にハードルも存在する。豊中市は導入にあたり3つのポイントを意識することでスムーズに推進することに成功したという。
導入の位置づけが重要
市長の本気度の共有で前進
大阪府豊中市はRPAを含めたデジタル活用、DXを推進している。同市都市経営部デジタル戦略課課長の伊藤洋輔氏は、まずは全国におけるRPAの導入状況を示した。
「総務省が出した令和5年の資料によると、都道府県は94%、政令指定都市は100%、市区町村は36%と約4割の団体で導入が進んでいる状況です。全体を総括しますと、導入予定・検討中を含めれば7割弱がRPA導入に向けて取り組みを進めている状況です」
同資料には自治体におけるRPA導入に向けた3つの課題も記載されている。それはRPAの導入検討よりも優先対応すべき課題がある、RPAの技術を理解することが難しい、そして担当課の理解が得られないことだ。これらの課題があるなかで、豊中市は3つのポイントを意識して導入を進めたという。
1つ目は導入にあたっての位置づけ・機運醸成で、「ここが最も大事だった」と伊藤氏は振り返る。豊中市は、市の運営全体の取り決めをまとめた「経営戦略方針(2019年)」のもと、デジタル技術の活用とともにRPAへの取り組みをポイントの1つと位置付けてきた。
「その後、GISや電子申請、セキュリティなどのICT化を進めてきましたが、スピード感や本気度がそこそこという状況でした。そのなかでコロナ禍になり、デジタル技術の有用性が改めて再認識される機会になりました」
自治体にも新たな生活様式のもとデジタル化を求める流れが生まれ、豊中市長は2020年8月に「デジタルガバメント宣言」を発表した。コロナ禍の危機的な状況をデジタルの力で変革していく宣言であり、その具体策として「デジタルガバメント戦略」が策定された。その中にもRPA導入をより一層推進するという記載が盛り込まれ、明確に位置付けをしている。
ペーパーレス化を推進
内部の機運醸成も実施
「デジタルガバメント宣言」以降、ペーパーレス化は急速に進んだ。それまでは「幹部や議会に対しては紙でなければ失礼ではないかと考えていた」(伊藤氏)という状況があったが、市長や副市長、議会なども率先してデジタルを活用してペーパーレス化を推進。さらに、市長や副市長、全部長が定例で集まる会議ではデジタル化の進捗率を共有した。
「市議会もデジタル化を推進し、iPadを全議員に配布しました。議案やプレ資料の情報提供はLINE WORKSを活用し、議案等の事前説明は説明動画を提供、さらに議案書も紙議案を廃止し、タブレット端末で配信するように変更しています。その結果、今やペーパーレスでないと逆に怒られてしまうぐらい、紙での報告はほとんどなくなってきました」
デジタル化にあわせて内部の機運を高めていくことも意識し、さまざまな改革を実施した。
「無線化、フリーアドレス、電子決済を進めました。電子決済率は当初10%程度でしたが、現在は73%になり、さらに拡大しているので90%程度になっていると思います。また、市長や副市長が参加する経営戦略会議や庁内のあらゆる場面でペーパーレス、ウェブ会議を実施しています。RPAに関しては申請データのシステム連携などで活用しており、デジタル戦略課職員がサポート、伴走するという体制を整えています」
RPA部隊としてサポート
見えてきた課題
2つ目のポイントは「成果等の共有」だ。市長に対してデジタル戦略課職員が導入の成果を説明し、導入課職員による体験談や現場の声を共有するとともに、RPAを実際に動かす実演も取り入れた。
「実演ではRPAやAI、OCRを使ったデータ作成作業の自動化の取り組みなどを実施したところ、市長からは『非常に便利。自動化で業務時間が短縮される』という評価がありました。説明会の中ではRPA導入のメリット、選定基準なども合わせて話しています。説明会の様子を収めた動画や資料等は、庁内の職員が見ることができるポータルサイトで共有をしています」
3つ目のポイントは「サポート・支援」。デジタル戦略課職員によるRPAの作成支援を行い、デジタル戦略課がRPA運用ルール等もまとめて提示している。
「デジタル戦略課がRPA部隊として、RPA業務選定、業務ヒアリングを行いシナリオ作成、さらには進捗管理や導入効果の管理、契約、運用管理などを担います。難度が高いものに関しては業者に補助をしてもらう体制です。つまり、担当課はRPAの業務検討とシナリオ実行だけを行えばよいという状況になっています」
ルール等の作成に関してもRPA部隊がドキュメントに運用方針や実施手順、機器・ソフトウェア一覧、利用申請書などを整備して、庁内のポータルサイトで共有しているという。
伊藤氏はサポート・支援を実施してきたなかで、RPAに限らずDX推進をするうえで共通の課題が見えたと話す。
「柔軟かつスピード感を持った対応をするためにはもちろん職員のスキルが必要になります。それをどうやって育てるか。基本はやはりOJTで、主担、副担性を引きながら業務をやりながら覚えていくことです。研修も大事ですが、実際に触ってみて作業してみることが非常に大事だと感じています。ただ、職員には人事異動があり、現状は一部のスキルの高い職員に依存してしまう状態があり、持続可能性の担保は課題となっています。そのため、補助をするパートナー事業者は必須になってくると考えています」