空間プロデュースで「歓びと感動」を届ける 複合化する施設の可能性を追求

ディスプレイ業界のリーディングカンパニー、乃村工藝社は、空間創造で人々に「歓びと感動」を届ける事業を展開。社員一人ひとりのクリエイティビティを醸成し、空間のあらゆる可能性を切り拓くことを目指す。近年は複合施設に関する事業が増加し、自治体との連携も強化している。

奥本 清孝 乃村工藝社 代表取締役 社長執行役員

商業施設、企業広報・販促、
文化施設事業がけん引する成長

乃村工藝社は、空間創造における調査・企画・コンサルティングやデザイン・設計、制作・施工、そして運営・管理の事業を展開している。そのルーツは1892年(明治25)に、創業者の乃村泰資が四国・高松の芝居小屋「歓楽座」に大道具方として入座したことに始まる。

「高松の舞台の道具方から始まり、両国国技館における菊人形の催しや農業博覧会など、人々が余暇施設や娯楽に目覚めた大正時代から、それらに携わってきました。戦後は百貨店の装飾や全日本自動車ショウの展示も請け負いましたが、一番大きく成長したのは1970年の大阪万博の時です。万博では日本館やアメリカ館、太陽の塔の装飾、お祭り広場など18のパビリオンを担当しました」。

乃村工藝社代表取締役で社長執行役員の奥本清孝氏は、その歴史を振り返る。高度経済成長期には百貨店などの商業施設事業のほか、企業のショールームやPR館のような企業広報・販促事業が成長した。さらに博物館や美術館などの文化施設事業も推進し、これらの事業成長がけん引して現在に至っている。

「バブル崩壊やリーマンショック、東日本大震災、コロナ禍など困難な時期もありました。しかし、私たちは世にないものを作り出そうという挑戦の歴史と経験を強みに、空間創造のあらゆる可能性を追求し、信頼と実績を積み重ねてきました」。

大規模・複合化する事業が増加、
自治体との連携も強化

乃村工藝社は2019年に過去最高益を更新したが、その後はコロナ禍で集客イベントなどが中止、延期になり、厳しい状況が続いた。現在は受注に活況が戻ったが、業容は変化しているという。

「最近はお客様からの、新規事業や集客に関する相談が増えています。また、コロナ禍前は専門店や百貨店、イベント、広報、販売促進のような事業が成長していましたが、現在は、オフィスや複合商業施設、ホテルやテーマパークなどの余暇施設市場が拡大しています。働き方やブランディングなど 企業の課題を空間で解決するニーズも高まっていると感じます」。

複合施設の事業には、例えば、2023年3月に誕生した「北海道ボールパークFビレッジ」や、そのメインとなるスタジアム「エスコンフィールド北海道」がある。乃村工藝社は「誰も経験したことのないボールパークをつくる」を目標に、客室からフィールドが一望できる「tower eleven hotel」、世界初の球場内温泉「tower eleven onsen & sauna」などの空間づくりを手掛けた。

北海道日本ハムファイターズの新球場、エスコンフィールド北海道。
「誰も経験したことのない新しい観戦体験」を目指し様々な施設を球場内に設けた

「エスコンフィールド北海道は球場ですが、野球の試合がない時も色々な形で楽しめる施設です。現在はこの施設のように、私たちの経験値や知識、専門性を活かし、お客様にアイデアや企画を提供する事業が多くなっています」。

また、自治体との連携による事業も強化している。公民連携で進められ、昨年5月にグランドオープンした北海道小清水町の小清水町防災拠点型複合庁舎「ワタシノ」の事業には、連携企業の1つとして参画した。

小清水町防災拠点型複合庁舎 「ワタシノ」のオープン式典には1000人が集まった。
開所から間もなく一周年、様々な人が集う場になっている

「過疎化や高齢化の問題がある中、町では町民の居場所や防災拠点づくりが課題となっていました。このような中、私たちはクリエイティブパートナーとしてサポートし、賑わい空間の基本計画や、庁舎全体の空間デザインを、町やNPO、関連企業と共に行いました。誕生した複合庁舎にはフィットネススタジオや子ども向けボルダリング、カフェなどがあり、町民の方々が普段から集うことができます。加えて電気が止まっても稼働できる大型コインランドリーや温泉熱を活用した床暖房設備も備えたフェーズフリーな防災拠点にもなっています」。

他にも「(仮称)静岡市海洋・地球総合ミュージアム整備運営事業」では、乃村工藝社は初めてPFI(Private Finance Initiative)事業の代表企業として参画、展示制作や運営業務を担うことになった。この事業では水族館機能と博物館機能を併せ持つ総合ミュージアムを建設し、2027年の開業を目指している。

さらに、事業における環境負荷の軽減に向けては、空間を通した素材の循環を目指し、社外の知恵も取り込もうとしている。サステナブル・スタートアップと連携し、廃材を活かしたデザイン性の高い建材づくりなどに挑戦中だ。

クリエイティビティを醸成し
企業価値の向上を目指す

乃村工藝社は1970年の大阪万博で多数のパビリオンの企画・設計・施工を担当し、その後も沖縄海洋博やつくば万博、大阪・花博や愛・地球博などに携わってきた。そして2025年に開催される大阪・関西万博にも、大きな期待を寄せている。

「万博には時代に合わせたテーマがあり、大阪・関西万博では『いのち輝く未来社会のデザイン』がテーマです。乃村工藝社のクリエイターたちの企画力や技術力を結集させて展示を作り、開催の成功に寄与・貢献できればと思います。さらに万博で発揮した能力を、企業や地域で空間づくりをするお客様にも提供していきたいです」。

一方、2023~2025年の中期経営方針では、「一人ひとりの『クリエイティビティ』を起点に空間のあらゆる可能性を切り拓く」というビジョンを掲げている。そして、人財育成や研究開発を通じて社員が持つ強みや能力を醸成させ、既存事業の高度化や新規事業創出などによる企業価値につなげる。

「社員一人ひとりの個の力を起点に、事業の将来をしっかり描いていきたいです。そして空間創造によって、人々に『歓びと感動』を届け続ける企業でありたい」。

また、新規事業をすべての社員で興し企業価値を向上させるため、社内では表彰制度に加え、受賞者による発表や、社員が直接話を聞ける場を設け、コミュニケーション促進やナレッジの共有を強化している。さらに、2021年に本社隣のビル内に増床したオフィスでは、コミュニケーションを誘発する機能を持つ新しいワークプレイスの形を模索する、様々な試行を実施している。

「今後も持続的に、会社や社員が成長していくことを目指します。そして幸せな気持ちになれる空間をしっかりデザインして作り、会社もお客様も社会もハッピーになる三方良しを実現していきます」。

 

奥本 清孝(おくもと・きよたか)
株式会社乃村工藝社 代表取締役 社長執行役員