自治体AIガバナンス実態調査2026
月刊事業構想 編集部は、事業構想大学院大学と共同で「自治体AIガバナンス実態調査2026」を実施した。本調査は、全国152自治体(都道府県・政令指定都市・中核市・特別区)を対象に、行政のDX推進、AI活用、ガバナンス、セキュリティの4領域を一体的に問うたものである。回答は95自治体から得られ、記入内容の要件を満たした93自治体(n=93)を分析対象とした。自治体のAI導入は個別部署での活用が先行しがちだが、本調査では推進体制・利活用・統制・情報保護を切り分けずに横断して尋ねることで、「使う」段階から「統べる」段階への移行実態を把握することをねらいとした。
調査名 :自治体AIガバナンス実態調査 2026
期 間 :2026年3月~5月
対 象 :全国152自治体(都道府県・政令指定都市・中核市・特別区)
回 答 :95自治体が回答(内訳:都道府県 34件、政令指定都市 11件、中核市 36件、特別区 14件 分析対象 n=93)
領 域 :DX推進/AI活用/ガバナンス/セキュリティ を一体調査
実 施 :月刊事業構想 編集部・事業構想大学院大学
1 ガバナンス体制は整い、導入も広がる
制度面の整備は着実に進み、「AIリスク対策明記済」「セキュリティ方針策定済」がともに98.9%、「AIガイドライン策定済」96.8%、「AI・DX戦略策定済」94.6%と、9割超が枠組みを整えた。一方で課題の上位は「職員リテラシー不足」67.0%、「専門人材不足」65.9%。方針は整っても、それを使いこなす人が追いつかない——ルール整備先行と人材育成の遅れという構図が浮かび上がる。

2 課題は人材と予算の確保
自治体がAI活用の課題として挙げた上位は「職員リテラシー不足」67.0%、「専門人材不足」65.9%で、いずれも人に関する要因が突出した。「予算確保困難」60.4%が続くが、資金より人材・スキルの壁が高いことがうかがえる。技術やセキュリティ懸念(47.3%)以上に、使いこなす体制づくりが導入の分かれ目となっている。

3 セキュリティ体制は8割整備、専門人材が不足
セキュリティ対策は「研修を定期実施」85.6%、「対応チーム設置」81.1%と、内部で取り組める施策は8割超が実施済み。一方で「外部SOC契約」は33.3%、「セキュリティ専門人材の在籍」に至っては13.3%にとどまる。研修や体制づくりは広がる半面、高度な監視や専門知見は外部・人材の両面で手薄で、いざという時に守り切れるかが問われる。

自治体AIガバナンス実態調査 2026
各自由記述回答を元に、編集部にて作成。
福井県
MicrosoftのCopilot Chatを全庁導入し、文書作成や校正、情報検索に活用。職員がkintoneで700件を超える業務アプリを内製し、RPAで定型業務を自動化する。女性職員による「デジタル女子部」が初心者向け研修やコミュニティでデジタルスキル向上を後押しする。
鳥取県
AI音声認識で議事録作成の時間を約5分の1に削減。AI-OCRで紙の申請書類を自動読み取りし、チャットボットで定型的な問い合わせ対応を自動化、RPAで会計処理を効率化する。出力結果の確認義務化、機密情報の入力禁止、著作権侵害を招く指示の禁止をルールに明記する。
青森県
生成AI利用のガイドラインを整備。第三者の著作物や機密性の高い情報、業務に無関係な個別情報の入力を禁止する。生成物には不正確な内容や権利侵害が含まれうると職員に周知し、質問内容や生成データはログとして保存。利用時のルールを定めて運用する。
豊田市
RAGを備えた生成AIに許認可の条例や法令を学習させ、関連規定や過去の判例を効率的に回答できるようにして問い合わせ業務を効率化。条件を満たさないサービスへの機密情報入力を禁止し、画像・動画生成は著作権の整理がつくまで利用を停止するなどリスクに配慮する。
八王子市
AI-OCRとRPAを併用し、紙の申請書の内容を自動で定型入力。各課にデジタル推進リーダーを置き、推進担当がRPA活用を伴走支援する。機密情報の入力禁止と既存著作物に類似しないかの確認を明記。標準化で整えた基盤を住民サービス向上に生かすモデル創出を国に求める。
姫路市
原稿作成やコード生成、要約・校正などに活用し、1か月で約3,000時間を削減。LGWAN系とインターネット系の双方で全庁員が生成AIを使える環境を整え、各AIの特徴に応じた使い分けの基準を作成・共有する。情報資産の分類や生成結果の検証をルール化して運用する。
尼崎市
生成AIを情報収集や論点整理に活用し、kintoneやRPAで年間1万5,000時間を効率化。DX・AI計画をKPIで全庁推進し、部課長の人事目標にDX目標を義務化する。DX推進リーダーには年170時間の工数を割り当てるなど、組織的なプロセス改革に取り組む。
さいたま市
税部門を中心にRPAを導入し定型作業を自動化。職員がkintoneで市内の空き家を管理するデータベースを自作した。利用できる生成AIの明示、著作権侵害への留意、個人情報など機密情報の入力禁止をルールに定めて運用する。
前橋市
AI-OCRで帳票を電子化し、RPAで自動入力処理を実施する。生成AIの利用では、個人情報や非公開情報の入力禁止、業務以外での利用禁止、事実確認の徹底、自らの責任のもとで使用することなど6項目をルールに定めて運用する。
松江市
生成AIの活用で文書作成の時間を短縮。kintoneで観光入込客数の集計アプリや公園点検アプリを作成し、RPAで支払い処理の定型入力を自動化する。機密情報の入力禁止と出力結果の人的確認をルールに定めて運用する。
江東区
AI-OCRを活用し、学校施設使用申請の集計業務で年間2時間(50%減)、地球温暖化防止設備の助成金支出業務で年間90時間(64%減)を削減。個人情報の入力禁止と出力結果の人的確認を義務づけてリスクに対応する。
部局横断のデータ活用
時間削減から政策の質へ
個別業務の効率化の一段先で、全庁のデータ基盤づくりへ進む自治体が現れた。政令市BはSaaS型の庁内データ分析基盤を整え、保有データを抽象化して安全に利活用し、公共施設の最適配置や保育需要の分析といった行政課題に充てる。中核市Eはクラウドに格納したデータへBIツールと生成AIを重ね、部局横断で活用する環境を整備した。政令市Aは市民サービス・GIS・内部情報をつなぐ統合基盤を構築し、活用をこれからの課題と位置づける。時間削減という入口の成果を、政策判断の質を高める基盤へつなぐ動きである。
人材育成の制度設計
内製文化は仕組みから生まれる
道具の導入で終えず、作り手を育てる仕組みに踏み込む自治体がある。政令市Bは「デジタル変革人材」を年齢・職位・職種を問わない完全公募制で育成し、デジタルより変革を重視すると明言する。中核市Eは事務分掌と別にチームを編成する20%ルールで内製を加速し、人材発掘を兼ねる。中核市Hは各部局に推進リーダーを置き、職員がkintoneでアプリを自作する文化を育てる。中核市GはDX推進室が各課を伴走型で支える。登用・時間・支援と形は異なるが、育成を仕組みとして持つ点で共通している。
定量的な業務削減
年32,400時間削減の実像
RPA・AI-OCR・AI議事録・生成AIの効果を、時間の実数で示す自治体が現れている。政令市Aは生成AIを300人の職員が使い、業務時間を約6%(年間32,400時間)削減した。中核市FはRPAで1,323時間、AI-OCRで2,138時間、AI議事録で1,598時間と、施策別に実績を示す。中核市GはRPAで約120業務を自動化し、政令市Cは1週間あたり約2.8時間を短縮、中核市Eは議事録作成の時間を6割減らした。単位や分母は自治体ごとに異なり、効果をどう測るかにも各庁の姿勢が表れている。
自治体 AI利活用の展望 編集部の論点
1 人材育成
研修の充実から
制度の設計へ
最大の課題は職員のリテラシー不足(67.0%)と専門人材の不足(65.9%)。生成AIの全庁導入は91.4%に達し、課題は道具から人へ移った。尼崎市は推進リーダーに年170時間の工数、2年間の異動凍結、部課長の人事目標への組み込みで応える。研修を入口に、時間・評価・異動の制度で育成を支える設計が次の一手になる。
2 ガイドライン
動かし続ける自治体が
前へ進む
AIガイドラインは96.8%が策定済み、リスク対策の明記も98.9%。形の整備は行き渡り、共通の土台になった。分岐点は、ルールを動かし続けられるかにある。姫路市はAIごとの使い分け基準を職員に示し、豊田市は画像・動画生成に明確な線を引いた。ガイドラインは完成品ではなく、改定と研修で育てる起点である。
3 効率化
生まれた時間を
住民の価値へ
AI関連予算は62.2%が前年度から増加し、ローコードの職員自作も71.7%に及ぶ。削減効果が実数で語られる一方、生まれた時間をどの住民サービスへ振り向けたかを語る例はまだ見えない。次に問われるのは出口である。庁内の効率化で完結させず、住民が体感できる価値へ再投資する設計が次の到達点になる。