利便性と安全性の両立 人が支える自治体DXの要諦
利便性と安全性の両立を掲げ、DXを推進するさいたま市。オンライン申請や生成AIの活用が進むなか、情報統括監の鈴木宏保氏は、持続可能なデジタル行政の鍵は人材と知識、データの継承にあると語った。
さいたま市 情報統括監 鈴木宏保氏
人口減少と職員不足が迫るなか、自治体のデジタル化は新たな段階を迎えている。さいたま市情報統括監の鈴木宏保氏は、月刊事業構想主催のセミナーに登壇し、持続可能なデジタル行政のあり方を語った。人口約136万人を抱える同市は、2001年の合併以降、四次にわたる情報化計画の改定を重ね、現在は「デジタル八策」を掲げて2030年度に向けた「DX戦略」の策定を進める。鈴木氏は1991年の入庁以来、住民記録システムや2000年問題、マイナンバー制度など、市のデジタル化の現場を歩んできた実務家だ。

効果を増し、リスクを低減させ
設計段階から統制を組み込む
同市はオンライン申請の対象約5700手続きのうち、法令上困難な約1割を除きすべてをオンライン化した。鈴木氏は次の段階として、オンラインでの手続きの利用を増やしたいと考えている。現在のところオンライン申請の利用率は約3割にとどまることから、2026年度からは存在の周知やデザイン見直しなどが進行中だ。
市役所では生成AIも活用しているが、利用可能なツールは2種に限定した。そして8つのルールと入力禁止情報を定め、慎重に運用する。
「AIは、役割を明確にするだけで回答の解像度が変わる。前提条件をいかに入力するかがコツ」と鈴木氏は実務の勘所を明かす。AI導入の効果として、利便性向上や業務効率化がある半面、情報漏えいや著作権侵害、過度の依存による職員のスキル低下といったリスクも伴う。だからこそ「技術対策とルール、人材育成をPDCAで回し、最後は人が判断する運用が重要です」と説く。
セキュリティ面ではこの他、三層分離の「β′モデル」や、サイバー攻撃や災害の発生時にもシステムを継続して利用するためのICT-BCP、内部・外部双方の監査を組み合わせ、複数の防御層で守りを固めている。
最後は人が判断する
知識とデータの継承こそが要
生成AIのリスク対策も、突き詰めれば「正しい情報かどうかを判断できる職員の育成」に行き着くという。「AIだから正しい、というのではなく、隣の同僚に聞くくらいの感覚で使うべき」と鈴木氏。DXで結果を出すには、トランスフォーメーションを主導する人材、とりわけ管理職の意識変革が鍵を握る。職員のITパスポート取得の推進など、知識の裾野を広げる工夫も重ねる。
人事異動の多い自治体の組織においては、本当に必要なのは「知(識)・財(データ)の継承」だと鈴木氏は強調する。「DX業務の継承は前例踏襲では不十分。経緯や本質を理解した上で、時代に合わせて変革しながら持続可能にしていかなくてはなりません」。市のシステム構築には約3年、稼働期間は約10年に及ぶ。将来の職員に評価され、前より良くなったと言われる仕事をしたい、と鈴木氏はいう。また自治体の業務プロセスは、経緯を知らない現在の担当には煩雑で無駄に見えても、それは先人が考えた結果であり、裏には理由があるケースが多い。このため、「いきなり止めるのではなく、なぜそうなっているのかを知ったうえで変えていくことが重要です」と鈴木氏は指摘した。