大成建設1万人の「AI民主化」と人財戦略 企業価値を高める「人の構想力」

事業構想大学院大学の「事業構想トップセミナー」に、大成建設人事部人財研修センター長の田中康夫氏が登壇。人財育成と組織風土改革を主眼とする中でのAX推進の取り組みを紹介した。後半には社会構想大学院大学教授、事業構想大学院大学客員教授の松江英夫氏との対談も行われた。

大成建設管理本部 人事部 人財研修センター長
田中康夫氏

AI×人財育成
AXで変わる「人」の役割

大成建設は、1873年創業、2023年に創業150周年を迎えた。2026年3月期の連結売上高は約2兆890億円、従業員は約1万8000名。グループ理念「人がいきいきとする環境を創造する」のもと、人事部人財研修センター長の田中氏をリーダーに、人財育成制度・研修の抜本的な改革を進めている。

この人財育成プロジェクトは同時に、AI活用プロジェクトでもある。我々を取り巻く環境に鑑みるとき、「人への投資」は「AIへの投資」と一体であるべきだからだ。

「『DX』はデジタルによる『効率化』を実現するもので、システム部門を中心に作った仕組みをトップダウンで全社へ広げるのが適していました。しかし、AIの登場は、人の役割そのものを変えつつあります。AIが情報を集め、分析・整理して最適解を提案する。それに対しゴールを決め、ゼロからアイデアを生み、人を動かし、熱量をもってやり抜くのは、人にしかできません。AIを前提に、『人』ならではの役割を全うし、活躍できる人財を育てなければならない。ですから我々は、人的資本経営の観点からAIと掛け合わせた人財育成を進めるのです」。

AI活用は、「AI民主化」を掲げ、現場の技術者を含めた社員一人ひとりがAIを使いこなすことを目指して推進する。

「AIの進化のスピードを捉えながら、AIから価値を生み出すためには『1人の専門家より1万人の実践』と判断しました。高度な専門性が必要な側面はOpenAIと連携しながら、顧客に近い現場の一人ひとりにAI活用の主役になってもらいます。全員が積極的に学び、改善し、知見や経験を共有してこそ、豊かなアイデアを生み出し、新たな価値に結実させることができます」。

こうした全社的な変革を「ミドルアウト」の体制を敷くことで推し進める。経営判断と現場の意見・アイデアをミドル層が橋渡しし、小さく始めて成功事例を積み重ねながら、「導入」「展開」「定着」の3つの壁を越えてきた。

小さなチームで出した成果を発信して公募で仲間を募り、また、他社の良い事例を取り込み、改善する。キックオフや国内各地の現場でのワークショップ等を重ねるうち、職種を超えた横のつながりが生まれた。

その上で、「AI民主化は、ゴールではなく、スタートラインです」と田中氏は強調する。AI時代に必要なのは、自ら問いを立て、未来に向けて価値を生み出すことができる人だ。そうした「構想力」は決して才能ではなく、教育とサポートによって育むことができる。構想力をもつ人財の育成こそが、眼目なのだ。

「自身の仕事の枠を超えて、幅広い知識や体験を通して『考える軸』、『感じる軸』をもってもらう。そのためにリベラルアーツ教育に力を入れます」。 同時に、事業構想大学院大学と「事業構想プロジェクト」を立ち上げ、新規事業開発の制度と人財育成を掛け合わせる。その先にあるのは、人的資本価値の最大化を支える「TAISEIアカデミー」の構想だ。

「研修センターの枠を超え、学びと挑戦の教育基盤を構築し、大成建設グループのみならず、建設業界全体の人的資本価値の最大化に貢献したいと思っています。AIをアシスト役にして、『人の想い』で未来を変える。そんな『地図に残る仕事。』を、一丸となって進めています」。

特別対談
大成建設 田中康夫氏×事業構想大学院大学 松江英夫教授

松江 「人」を基軸に、人事主導でAI活用を進める。独特のスキームですね。

田中 AIを前提とした社会を考えるとき、AIの導入が目的ではなく、AIを使いこなせる人を育て、様々な変化を受け入れられる組織風土をつくる必要があると考えました。AXを人的資本経営の問題とし、人財育成と組織風土の改革を全社的に進めるべきだという考えから出発しました。

松江 AXは業務効率化に寄与するDXとは性質が異なるという着眼にも非常に説得力があります。AIは効率化と高度化を同時に達成でき、事業の質や規模を一気に変える可能性をもっている。だからこそ、AIを使う「人」の育成はどうあるべきかをもう一度考え直さなければならないのですね。

田中 当社は現場の技術者が専門性を突き詰めて活躍してきましたが、一方で、視野が広がりにくい面もありました。リベラルアーツを中心とした幅広い素養や人格の涵養が、変化を受け入れ、今までにない新しい価値を考える土台になるはずです。

松江 実際にプロジェクトを推進するのは簡単ではないはずですが、ミドル層の頼もしい働きと合わせて、制度的な役職や肩書にかかわらず、一人一人が周囲の人間に影響を与えながら、大きな「うねり」にしていく。こうした「オーセンティック・リーダーシップ」もAI時代に求められていますね。

田中 ミドル層には目的を徹底的に考え抜きながら、経営層と現場をつなぐことが求められていると認識しています。同時に、社員一人一人が自身の持ち味で、各々のやりかたで周囲に働きかけ、前に進めています。人事評価も、そうしたプロセスも含めたものに見直しました。

松江 AIを全員で使うことで、横のつながり、特にAIが得意な若手と経験豊かなシニアの教え合いが生まれ、ミドルが経営と現場を繋ぐ。「年代の壁」と「組織の壁」の二つの壁を越え、抜本的な改革を確実に前に進めている。大成建設さんに学ぶところは大きいですね。