中小企業に求められるBS・CF経営 AI 活用にもキャッシュレス化が必須
インフレ時代を勝ち抜く中小企業の成長には、キャッシュレス決済で得られるデータの活用と経営者の意識改革が欠かせない。3年目を迎えた研究会の3回目となる会合では、政治・行政・企業それぞれの立場から、AXを通じた経営生産性の向上と地域経済の活性化に向けた具体策が話し合われた。
中小企業がデータ活用し
経営生産性高める視点を
開会にあたり、デジタル大臣政務官の川崎ひでと氏があいさつに立ち「中小事業者はキャッシュレス決済というと、手数料の負担にまず目が行く。しかし、そこから得られるデータを有効活用して、手数料を払っただけの価値を得る状況を作らないといけない」と述べた。
川崎 ひでと
衆議院議員 デジタル大臣政務官
研究会ではまず衆議院議員の福田達夫氏が「政策の大転換と経営生産性の向上」のテーマで特別講演。長年、ビッグデータを活用した中小企業政策の立案に携わってきたことをふまえ、取組事例を紹介した。コロナ禍における感染者数予測にもとづいた早期の政策反映や、法人の情報を行政機関が参照できるデータ基盤(ベース・レジストリ)を構築し、事業者への迅速な給付を実現したケースなどだ。
福田 達夫
衆議院議員
また、このほど取りまとめた自由民主党の「中小企業・小規模事業者政策調査会」の提言書においては、経営者に対して意識改革を促した。デフレが30年続き投資が停滞、経済成長の循環が途切れた状況を打破するため、「労働生産性」ではなく、経営者が社会の変化に合わせ事業モデルを組み替える力を意味する「経営生産性」という言葉を打ち出したのだ。これからのインフレ時代への転換を見据え、リスクを取ってチャレンジする企業を増やすため、決済データなどのビッグデータを小規模事業者の経営力向上に還元できるインフラ整備の必要性を強調した。
規模、ステージに応じ
「稼ぐ力」の強化を支援
次に、経済産業省中小企業庁経営支援部長の山崎琢矢氏が「変化の時代における中小企業のAI/AX推進」のテーマで行政施策を説明した。日本における長年の投資不足を解消し、賃上げと投資の好循環を復活させることが中小企業支援政策の最優先課題となっている。ただ、支援に当たっては、規模、成長ステージに応じた「稼ぐ力」の強化施策が必要であるとし、今はまず売上10億〜100億円企業の100億円達成を後押しする「100億円メカニズム」の施策を推進中だ。そして、それに続く「10億円メカニズム」、「1億円メカニズム」の具体化を進めていることを明らかにした。
山崎 琢矢
経済産業省 中小企業庁 経営支援部長
そして、経営者の意思決定が速く、現場が近い中小企業こそAI、AXのポテンシャルが高いとし、「例えば1億円未満の小規模事業者に対しては、経営戦略立案、バックオフィス効率化につながる『AIエージェント(代理人)』の活用を想定して施策立案を進めています」と紹介。併せて、「よろず支援拠点や商工会議所などの公的支援機関の経営指導員による支援を強化し、小規模事業者の経営リテラシー向上に伴走する体制を構築していきます」と話した。
BS、CF経営への転換を
データで後押し
最後に、QUICK データソリューション事業本部 データ分析グループ 兼 ナレッジコンテンツ本部 シニアマネジャーの北村慎也氏が「AI経営ツールによる企業戦略の高度化」のテーマで講演。同社では、「アート(直感・発想)」に頼ることの多い事業ポートフォリオ戦略の「サイエンス化」を行うべく、上場企業の有価証券報告書10年分をAIに学習させ、15万件の打ち手を112の戦術に体系化した。これを活用して、「企業の財務体質(型)に応じた最適な戦術を推奨し、経営者がステークホルダーや金融機関、従業員と未来の戦略をディスカッションするための背中を押していきたい」と述べた。
北村 慎也
QUICK データソリューション事業本部データ分析グループ 兼 ナレッジコンテンツ本部シニアマネジャー
その背景にあるのは、日本企業の多くが、前年踏襲型の「昨対比経営」やPL(損益計算書)のみに偏重したコスト管理型経営手法をとっているという現実だ。経営者が美徳としがちな「無借金経営」や「現場主義」は、事業ポートフォリオ戦略とそれに依拠した投資配分をする本来の「経営」とは異なる。「これからのインフレ時代を勝ち抜くには、PL経営から、BS(貸借対照表)、CF(キャッシュフロー)を重視する経営への転換が必要で、そこにAI経営ツールが役立つはず」と北村氏は訴えた。
ハードルは導入メリットの難解さ
現場に寄り添った支援策を
続いて、これらの発表に基づく議論が行われた。一般社団法人キャッシュレス推進協議会 事務局長 常務理事の福田好郎氏は「小規模事業者の多くは、キャッシュレス化によってデータの利活用ができるようになることは理解していても、行動に移せない。データ利活用のメリットを語るだけでなく、それを具体的にどのように導入し、AIを活用したらいいのかといったアクションを支える、現場に寄り添った具体策が必要」と要望した。
これについて福田達夫氏は「中小企業政策調査会の提言書では『時代は変わった』と書き切って、経営者の覚悟を問うた。ただ、覚悟を持って成長につなげるには、地域でお金がどのように動き、お客さんの行動変容につながっているのかを把握し、シミュレーションできるようにする必要がある。それが分かるようになれば、コストを払ってでもキャッシュレス決済を導入してデータを活用しよう、という人が増えてくるのではないか。国としてもそこにチャレンジする経営者を支援していきたい」と述べた。
山崎氏も「小規模事業者に対する基礎的な経営リテラシー向上、さらに一段上の高度な経営力の向上にAI、AXは直結するので、そこをしっかり支援していきたい」と述べる一方、「AI、AXの利点が分かりやすいのに比べ、キャッシュレス化は手数料などが先に立ち、稼ぐ力に直結するイメージが湧きにくい」とも指摘した。
また、福田好郎氏は「キャッシュレス決済事業者が多すぎることにより情報が断片化され、地域の消費動向を可視化するにはすべてが揃わないとわからないという現実がある。決済情報のインフラはまさにベース・レジストリであり、社会公共財としてとらえてほしい」と、様々なステークホルダーが協力し合う必要性を説いた。
この論点に対し福田達夫氏は、ステーブルコインが価値の交換、信用の供与という経済活動のインフラであるにもかかわらず、国の関与がないところで広がっていることに言及。「キャッシュレス化が単なる便利な決済システムの導入にとどまらず、小規模事業者の地域生活を支える富のインフラになるというロジックができてくれば、社会公共財としての議論をする機運が政治的にも盛り上がってくる」と語った。