省庁・自治体DXのその先へ AIが拓く行政の未来
公共・行政におけるAI政策と実装を牽引するデジタル庁参与の浅沼尚氏が登壇。DX・AXの道筋について、現場の合意形成、国と地方の連携、エージェント型行政に向けた仕組みの再設計という論点を示した。
デジタル庁参与/GovTech東京エグゼクティブアドバイザー 浅沼尚氏
現場の納得感を醸成し「仕組み」
を再設計
浅沼氏は日本の行政が直面する課題の多さ、重さへの認識に立ち、「技術と仕組みで支える行政」の再構築が必要だと強調。その上で、今の状況を行政DX・AXの「最大チャンス」と捉える視点を示す。
「人口減少や福祉ニーズの複雑化など、課題を並べると悲観的になりがちですが、この状況は、AIやデジタルの変革効果(レバレッジ)が最も大きいということでもあります。世界に先駆けて次世代行政モデルを作るという気概で進めています」。
AXとは、AIを既存業務に「足す」ことではない。AI前提で制度・業務・システム・組織が一体的に設計され、動く状態をいう。そのためには、AXから逆算して、デジタルとAIの導入、業務フローや体制の整備などを適切なステップで進めることが重要だ。
整理すると、四つの段階がある。第一にデジタル活用(オンライン化)、第二にDX(制度・業務一体見直し)、第三にAI活用(支援ツールとして試行)、そして第四にAX(再設計)だ。
「一足飛びでは難しいですが、構えることなく、まずはAIを使ってみて、自組織の業務に何が向き、何が難しいかを掴んでもらいたいと思います。
また、その過程で、AIやデジタルツールを使う職員、責任者、関係部署など、現場の納得感づくりにも力を入れる必要があります。デジタル庁の人事業務改革でも、システム構築よりも関係者の合意形成に多くの時間を要しました」。
組織の枠を超えた連携がカギ
さらに浅沼氏は、行政AXに向けて、今、力を入れるべきは「連携」だと強調する。共通基盤の整備と知見の共有によって、自治体の負担軽減と行政全体の効率化につながる。
政府では、職員が安全に生成AIを使える基盤「ガバメントAI(源内)」を整備し、府省庁の政府職員約18万人への展開を目標に進めている。ネットワークやクラウドの共通基盤の上にAIサービスを載せる構成によって、各省が基盤から作る必要がなくなり、開発したAIアプリを相互に共有・再利用できる。
「政府内での実践を踏まえて、自治体にAI実装を丸投げするのではなく、政府が広域自治体とも連携して伴走します。源内の一部オープンソース公開、調達時に参照できる成果や知見の共有等、広域自治体と連携して、基礎自治体までしっかり支援します」。
エージェント型行政の実現に向けて
浅沼氏は、自律的に目的を遂行するエージェント型AIがもたらす大きな変革にも言及した。
「『申請を待つ行政』から『状況に応じて必要な支援を先回りして届ける行政』への転換が想定されます。住民自身が複雑な制度を探し、複数の窓口を回って必要な支援にたどり着くことには限界があります。しかし、エージェントであれば、本人の同意や法令に基づいて状況を把握し、利用可能な制度や手続の組み合わせを見つけ、関係機関をつなぐことができるでしょう」。
公共や行政においてエージェント型AIの導入を見据えるとき、どこまでをAIに委ね、どこで人が確認・判断・説明するかという委任構造を設計し直すことも不可欠だ。そこでは、職員の果たす役割も大きくなるという。
「最終判断や例外対応、説明責任、合意形成といった役割は人が担い、職員の専門性と判断力はむしろ重要になります。AIによって業務負担が軽減されたぶん、職員が人と向き合う時間を取り戻す。そうした『人にやさしい行政』を目指します」。