生成AIは職員の「スキル」 使いこなす力が自治体の競争力を分ける
政策判断から課題解決まで、生成AIは自治体の業務のあらゆる場面で使われ始めた。「それを使いこなすスキルの差が、やがて自治体間の格差を生む」と、事業構想大学院大学客員教授の狩野英司氏は説く。
事業構想大学院大学 客員教授 狩野英司氏
政策判断にもAIが使われ始めた
生成AIは、いまや自治体職員の作業を助けるだけの道具ではない。狩野氏が示すのは政策判断での活用だ。昨年の夏には、ある国の首相が政策判断をChatGPTに相談していると報じられ、情報漏洩やハルシネーションへの懸念から炎上した。だが実際には、組織の意思決定を担うリーダーほどAIを使うという。
「トップが使う理由は3つあります。自分にはない視点や知識を得られること、何度でも壁打ちができること、そして立場やしがらみを気にせず相談できることです。特に3つ目が重要で、トップの立場になると、おいそれと他人に相談できませんし、相談自体が相手に影響を与えます。だからこそ、AIが役に立つのです」
あるグローバル企業の調査では、経営幹部の74%が「同僚や友人よりAIを信頼する」と答えたという。さらに、44%のリーダーが「自分が下そうとした決定を否定されてもなおAIを信頼する」と答えた。実務レベルの利用にとどまらず、政策・戦略の立案から課題解決、業務管理まで、あらゆるレベルでAIは活用の余地があると狩野氏は指摘する。
AIを使いこなす力が格差を生む
では、生成AIは業務のどの部分で最も効果的か。狩野氏が挙げるのは、課題解決の起点となる「アイデア出し」だ。生成AIを職場で十分に使えない自治体は多いが、アイデア出しなら個人のスマホでも試せ、その制約を受けにくい。情報漏洩リスクも小さく、大きな方向性を決める場面において知見が得られるため、メリットが大きいのだ。
「人は考えを発散させ切ることが苦手です。そこを生成AIが補い、選択肢を洗い出した上で絞り込むことで考えを尖らせることができます。課題そのものの発見から、利用者が抱える痛みの深掘り、解決策の洗い出し、振り返りまで、知的作業の全般に効きます。また、アイデアを一通り出させるだけでなく、人が出した案をチェックさせたり、漠然とした考えを言語化させたりと、使い方は多岐にわたります」
その実証も進める。総務省の協力を得て整備を進めている課題解決の型(フレームワーク)と生成AIを組み合わせ、国の地方出先機関と5回のワークショップを重ねたところ、短期間で体系的な施策を整理できたという。
「考え方の型とAIは相性がよく、こうした知的作業でこそ生成AIの真価が発揮されます。デジタル技術の役割は従来、業務の生産性向上、利用者サービスの向上、地域課題解決の3つでした。そこに加わったのが、それらを底上げする『職員の能力強化』です」
議事録の作成のような作業の多くは消滅し、人の役割は成果を確認し、判断し、実行することへと移る。そして差を生むのは、その使いこなし方だ。「生成AIは、入れるか入れないかではなく、明らかに『スキル』です」と狩野氏は言い切る。AIを使えば、コンサルタントで作業スピードが25%、専門職ライターで作業時間が40%変わるというデータもある。使いこなすスキルが生産性を大きく左右し、生成AIを前提に仕事を組み立て直せば、職員が生み出す成果そのものが増える。これこそが職員にとっての生成AIの本質的価値だと、狩野氏は見ている。
問題は、そのスキルの差がやがて職員間の生産性の差、自治体間の業務・サービス水準の格差、さらには「選ばれる自治体か否か」に直結していくことだ。その差は今は見えにくいが、数年のうちに顕著になるだろう。
「AI以前のデジタル化の段階で、自治体間にはすでに大きな差があります。それは今後、さらに加速していくでしょう。だからこそ、行政は生成AIに正面から向き合っていく必要があります」