住民福祉の増進へ向けた都政のAI活用と、連携・共同化戦略
全庁でAI活用を推進している東京都。効率化を超えて住民福祉の増進を目指すその理念と、生成AIプラットフォームの現場実装について、宮坂学副知事とGovTech東京の橋本淳一氏が語った。
東京都 副知事 宮坂学氏
AIは文字発明以来の革新
少子高齢化により、自治体で働く人は今後どんどん減少する。「残業や休みを増やすことができないならば、テクノロジーでそれに打ち勝つしかない」と東京都副知事の宮坂学氏は語る。
「日本はもともと電算の導入も、オフィスオートメーションも世界トップクラスに早かった。それなのに90年代のインターネット、2010年代のスマホ・クラウドの登場という波を二度取り逃しました。今度こそ見逃さないよう、全庁を挙げて取り組んでいます」
宮坂氏はAIを「クラウドやスマホの延長ではなく、文字の発明以来のイノベーション」と位置付ける。
「行政においては住民福祉の増進を実現する『魔法の道具』になり得ます。目指すのは、行政サービスを届ける力を10倍、100倍にすることです」
この理念を全国へ広げる鍵が「連携・共同化」だ。デジタル化には、参加自治体が増えるほど1自治体あたりの費用が下がる「規模の経済」と、利用者が増えるほど価値が高まる「ネットワークの経済」がある。
「共同化には、複数の自治体が話し合う『協働化(コラボレーション)』、互いのシステムのデータが行き来できるよう互換性を持たせる『標準化』、1つのものをみんなで使う『共通化』の3段階があります。標準化と共通化は適材適所で使い分ければよく、まずは自治体同士が予算や取り組みを語り合う対話から始めることが重要です。他の自治体がどんなAIを使い、どんな課題を抱えているかをまず聞きたい」
その対話や情報共有を支えるのは、オープンな姿勢と内製化だ。
「都はAI戦略やガイドラインも内製しています。できるだけ成果物をオープンにし、全国や世界の自治体とも共有したい。公務員は世界のどこでも地元住民のために働く点で思いは同じであり、試行錯誤も成果も共有し合えるはずです。都立学校256校、教職員・児童・生徒約16万人が使う生成AI環境でも、教員が作った教材をデジタル公共財として学校間で共有する取り組みが始まっています」
ノーコードで職員自らアプリ作成
GovTech東京の橋本淳一氏は、東京都のAI実装例として、都庁の職員6万人を対象とした生成AIプラットフォーム「A1(えいいち)」を紹介。
GovTech東京 AIイノベーショングループ長 橋本淳一氏
「A1は、ノーコードで職員自身がアプリを作れる点が特徴です。日々の業務の暗黙知を形式知にし、組織で共有できます。実際に区市町村からの派遣職員が、問い合わせ対応や庁内手続きの相談アプリを、AIに尋ねながら約1カ月で作り上げました」(橋本氏)
ただ、ツールだけでは現場に根付かない。橋本氏は延べ57自治体を伴走支援した経験から、成果が出る条件に「情熱・道具・仲間・時間」を挙げる。
「特に足りないのが時間で、私たちの実践では1カ月で約46時間を投じました。1~2時間の研修では難しいので、他の自治体ではもう少し長い期間が要るかもしれません。やり方を教えるのではなく、壁打ち相手となってくれる伴走者も欠かせません。またアプリは作って終わりではなく、日々業務の中で使い改善しながら成果を出していくことが非常に大事です」(橋本氏)