山形県酒田市のデジタル変革推進 DXで「公益のまち酒田」を実現

山形県酒田市は2020年度から、デジタルトランスフォーメーション(DX)推進で様々な施策を進めている。2021年3月には「デジタル変革戦略」を策定し、住民サービス・行政・地域のDXを通じた「賑わいも暮らしやすさも共に創る公益のまち酒田」の実現を目指している。

酒田市の飛島から見た鳥海山。2016年9月に「鳥海山・飛島ジオパーク」として日本ジオパークに認定された

DX推進に向けて2020年に
CDOと専門部署を設置

山形県の北西部、庄内地方の北部に位置する酒田市は人口約9万5000人の都市で、近年は人口減少や高齢化が課題となっている。北前船日本遺産、鳥海山・飛島ジオパークの構成自治体で、自然が豊かで日本海の海の幸に恵まれているほか、日本有数の米どころでもあり、庄内米や地酒は全国的に知られている。

「市では2020年のコロナ禍で、国による国民1人当たり10万円の特別定額給付金の申請をオンラインでも受け付けました。その際、当時の市長が他にも市と市民がやり取りする手続きをオンライン化して変革を進めたいと発案したことで、市のDXの取り組みが始まりました」。

酒田市企画部企画調整課デジタル変革主幹兼デジタル変革戦略室長の池田郁雄氏は、こう説明する。一方、当時はDXに取り組む自治体がまだ少なく、「DXとは何を意味するのか」、「何を目指せば良いか」、「どうすれば進むのか」といった点で、市長や部長、関係課長らが話し合いながら手探りで骨格を作っていった。

池田 郁雄
酒田市企画部企画調整課デジタル変革主幹兼デジタル変革戦略室長

その際、最も重要と位置づけたのが、最高デジタル変革責任者(CDO)と専門部署、DXの推進体制で、2020年10月にはCDOと専門部署を設置した。CDOは現在、NTTデータグループの代表取締役社長兼CEOに就任している本間洋氏に委嘱した。委嘱は市のCDO等設置要綱に基づいて行い、無報酬で引き受けてもらえることになった。

「CDOと専門部署が必要になる理由としては、まずDX推進は役所の職員だけでは不可能なことが挙げられます。また、DXは全庁的な取り組みになるため、職員や市民に本気度を示すためにも、旗印となり、市役所と同じ思いで取り組んでいただける伴走者が必要でした」。

住民サービス・行政・地域の
DXを「提案する価値」に

専門部署としては、当時の情報企画課(現・企画調整課)の中に「デジタル変革戦略室」を設置した。現在、その専任職員は池田氏を含め、主査級2人、主任1人、主事1人で5人体制になっている。さらに庁内の各部から、兼務の職員計8人が来ている。

「自治体については、よく『スピード感がない』と指摘されます。これはDXでは致命傷になるため、市では市長からCDO、そしてCDO補佐官を経てデジタル変革戦略室へ、指示などがストレートに伝わる体制を作っています。また、デジタル変革戦略室の専任職員だけで各部署の課題や施策展開を十分に把握するのは難しいため、兼務職員が各部とデジタル変革戦略室をつなぐ役割を果たしています」。

DX推進に向けては、他にNTTデータやNTT東日本、東北公益文科大学と「デジタル変革推進に関する連携協定」を締結。事業の方向性や施策の進め方について、定期的に意見交換をしている。さらに2021年3月には、デジタル変革で市が「目指す未来」に向かって進むための「デジタル変革戦略」を策定した。

デジタル変革戦略では、実現したい未来として「賑わいも暮らしやすさも共に創る公益のまち酒田」を掲げた。また、「提案する価値」として、以下の3つのDXを挙げている。

第1に「住民サービスのDX」があり、手続きのオンライン化や市民マイページによる1 to 1コミュニケーション、住民からの情報提供受付による迅速な対応などが、これに含まれる。第2に「行政のDX」があり、そこでは業務負担の軽減を図るためにも、基本的にすべての情報を入り口から出口までデジタルで統一し、いつでもどこでも業務ができる環境の整備を目指している。

第3は「地域のDX」で、具体的な取り組みには「リビングラボ」がある。リビングラボは市や市民が抱える地域課題について、デジタルを活用して解決策を一緒に考え、生み出していくための活動だ。プロジェクトテーマとしては、スマートモビリティやドローンを活用した物流、スマート農林水産業など、様々なものを想定している。

「他に、地域のDXでは中小企業のDX支援も大きな課題ですが、市にはあまりノウハウがないため、酒田市産業振興まちづくりセンターと連携しています。そして企業を訪問して話を伺い、デジタルツールや活用法、地元のIT事業者を紹介するなどの活動をしています」。

市民マイページ「さかた
コンポ」も昨年4月に開始

2023年4月には、市民マイページとしてLINEを媒体とする「さかたコンポ」もスタートした。さかたコンポは必要な情報を必要な人に必要なタイミングで届けるためのツールで、現在、約1万9000人の登録者がいる。「さかたコンポでは市のホームページの情報をデータベースとし、地域や年齢、興味・関心などのセグメントに沿って抽出した情報を、必要と思われる人や関心がありそうな人たちにLINEを媒体として配信しています」。

酒田市から、必要な情報を必要な人に必要なタイミングで届けるためのツール「さかたコンポ」

一方、2020年末に開設した酒田市の公式LINEの登録者数は現在、約3万8000人になっている。市ではその機能の充実も図っており、昨年度は「まちレポート(破損報告)」がスタートした。

「まちレポートでは、公園の遊具が壊れていたり、街灯が切れているなど市民からの報告を受けています。市が情報を提供するだけでなく、市民の方々からも情報をいただける仕組みで、昨年は約60件のレポートが寄せられました。今後は、災害時のレポートへの活用も想定しています」。

市のDX推進では、他にも議会改革や市業務の効率化、水害で浸水が多いエリアへの浸水センサー設置、除雪車管理へのGPSロガー活用など様々な取り組みを進めている。また、今年度の主な取り組みには、「ユーザー中心かつ効率的なフロントヤード改革事業」がある。

「この事業では、ユーザー中心の考え方に立ってフロントヤードのサービスデザインを実践し、市民も喜び、職員にも優しい窓口の実現を目指します。さらにバックヤードの業務でも、プロセスマイニングなどを通じて定常的にモニタリングを行い、継続的に改善していく方針です」。