管理型マネジメントを脱却、自発的な社員を育てる新サービス

「組織の硬直化」は生産性向上やイノベーション創出を阻む問題のひとつだ。社員一人ひとりが多様な能力を発揮できる土壌づくりを目的としたサービスをローンチしたTobe-Ruの戸澤氏は、自発的にキャリアを組み立てる人を増やすことで、社会全体の活性化を目指す。

戸澤 良親(Tobe-Ru 代表取締役)

組織の活性をなくす
ピラミッド型管理を打破

大手コンサルティング会社で15年にわたり、コンサルタントとして医療分野や中小企業を対象に組織開発支援に携わってきた戸澤氏。多くの企業と接する中で、人材採用と離職防止に経営者の関心が集中していると感じてきたという。

「組織や人材の課題として『よい人が採れない』という入り口の課題や『離職が多い、定着させたい』という出口の課題に焦点を当てる企業が大半です。しかし、社内にいる人材の才能やポテンシャルを活かせていない企業が多く、いま社内で頑張っている社員の育成や、人が育つ企業文化の醸成にもっと目を向けるべきなのでは、という思いがありました」

また、戸澤氏が支援してきた中小企業では、理念・ビジョンなどはあるものの、目の前の売上や成果が優先され、これらはかたちだけになりがちな状況もみえた。

多くの場合、実際の対応は管理職に任せられるが、大半の管理職はマネジメントを『社員を管理する』ことだとイメージしているという。しかし、管理型の考えで社員に接すると、たいていの場合、社員は萎縮し、ポテンシャルや才能は失われる。

こうした管理型マネジメントが行われる背景について戸澤氏は「経営者や管理職が、社員を信頼していない」ことが根底にある、と指摘する。また、管理職の意識が部下の管理に向けば向くほど管理職自身も成長せず、社員全体がその枠内でしか活躍できないという悪循環が生じる恐れもある(図)。

図 管理型マネジメント(左)とプロデュース型マネジメント(右)の違い

出典:戸澤氏講演資料より

「マネジメントですべきことは『管理』ではありません。採用難、企業成長率の鈍化、リモートワークや働き方改革が主流になった今、管理型マネジメントは逆効果に働きます。管理職の本来の役割は、個々の社員のよい点を見出し、その能力をプロデュースすること。経営者・管理職・一般社員というピラミッド型の組織構造から抜け出し、役職の上下に関係なく意見を出し合い、能力を発揮できる、フラットな組織の構築をサポートするようなサービスができないかと考えました」

自発的な社員を育成する『Hirame-Ku』

こうした課題意識から開発されたのが『Hirame-Ku』。業務改善や新規事業の提案、ちょっとした情報交換まで、社員が自由にアイデア・ひらめきを募集・投稿でき、全社員がそのアイデアに対し反応やフィードバックを返すことができるプラットフォームだ。

人材開発サービス『Hirame-ku』はアイデアのアウトプットや他者への反応・フィードバックをスコア化することで、主体的に業務に取り組み、自身のキャリアを組み立てる人材育成を支援する

社内コミュニケーションツールやビジネスチャットツールは他にもあるが、『Hirame-Ku』の特徴は社員が匿名で投稿できる点。対面の会議などでは周囲に遠慮して声を上げられない社員や、そもそも会議などに参加できないパート社員も安心してアイデアを発信できる。コミュニケーションではなく、社員の自発性を育てるツールだ。

「創造的でイノベーティブな組織では、心理的安全性が確保されています。『Hirame-Ku』では、誰でもアイデアの募集・投稿とアイデアへのリアクションができますが、匿名制は心理的安全性を高める仕掛けの1つです」

そしてもう1つのサービスコンセプトが「社員が楽しみながら存在価値を発揮する」こと。こうしたツールは往々にして利用者が固定化し、活性が失われてしまいがちだが、本サービスではアイデアのアウトプットやリアクションがスコアとして数値化される。スコアはポイントとして蓄積され、ギフト券や外部サービスのポイントなどに変換できる。ポイント付与率は管理者側で設定できるため、アイデア募集を強化したい、他者の提案に反応してほしいなど、目的に応じた運用が可能だ。社員の会社へのエンゲージメントが高まって自発的なアウトプットが増え、自己キャリア形成を広げることが最終的なゴールだが、エンゲージメント向上や内発的モチベーションアップには時間がかかる。ポイント制は長期的な活用を促す仕組みとなっている。

キャリア開発サービスへの展望

現在、『Hirame-Ku』はトライアルも含めて10数社に導入され、400名以上の社員ユーザーが利用。一般の中小企業はもちろん、ベンチャー企業や保育園などでも利用されているという。

「社員の皆さんのアイデアを可視化することはもちろんですが、業務外の雑談を投稿するコミュニケーションツールとしても使用されています。私としては想定外の使用法でしたが、新型コロナの影響で在宅勤務が増えた中で、社員同士のつながりを保ちたいというニーズがあったようです」

導入企業の利用状況もふまえ、今後はアイデアのアウトプットを通して社員一人ひとりの自発性・主体性を高め、キャリア開発を支援できるよう、機能の強化・追加を図っていく予定だ。

「個々の社員の自発性を高めることで組織全体の能力向上につながるサービスにしたいと考えています。能力はあるのに、『目標もやりたいこともない』『何となくやっているだけ』と答える社員さんも多くいます。2:6:2の法則とも言われますが、6にあたる社員がもっと活きる組織にすることが重要です」

戸澤氏の構想の原点にあるのは、コンサルタントとして企業組織とそこで働く社員と接する中で醸成されてきた「一人ひとりの人の価値を高めたい」という思いにある。

事業構想大学院大学在学時は、ヘルスケアと人材関連領域を絡めた福利厚生事業を構想していたというが、修了後、コンサルティング会社から独立して具体的な事業計画を進めるなかで、現在のサービス形態に行き着いた。

「離職を止めようとして2:6:2の下の2のみにアプローチしていると、実際貢献している上の2、中央の6の社員を放っておくことになります。下位の社員の底上げだけでは、企業成長はもちろん、会社としてのカルチャーや独自性も育ちません。終身雇用が崩れつつあるいま、社員が離れてしまうことも前提に、アウトプットや成長の意欲が高い社員には有意義な仕事を与えられる環境をつくることが経営層には必要ですし、このサービスを通じてそれを訴えていけたらと考えています」

自発的な社員を育てるサービスを通して企業の風土を変える戸澤氏の挑戦は、日本社会をより活発で創造性の高い、イノベーティブな土壌に再構築することにもつながるだろう。

 

戸澤 良親(とざわ・よしちか)
Tobe-Ru 代表取締役