論理的な伝達能力の「学び直し」 複数のプレゼンを勝ち取るまでに

「フリーランスの広報」としての活躍を目指す人材にとって、高度な専門性と実践力は必要不可欠。社会構想大学院大学・コミュニケーションデザイン研究科で教鞭を執る北島 純教授と修了生が、 フリーランスの広報実務で活かせる、大学での学びを語り合いました。

(左から)社会構想大学院大学 第4期 修了生 北川さや香氏、北島 純教授。

自ら情報をつかむ力

北島 北川さんは現在、フリーランスとして、出版社などで雑誌・書籍の広報業務を主にSNSを活用して実施されています。まずはこの大学に入った動機をお聞かせください。

北川 入学前、それまで勤めていた出版社を退職して独立することを決めて いました。そうすると、それまで社内で得られていた情報を、社外からキャッチすることになります。その状況で PRに取り組むには、まずは「情報に強くならなくてはいけない」と感じていました。もっと自分から情報をつかみにいく能力を高めたい。そう考えた時に、広報やコミュニケーションを専門的に学べる、この大学院へ行きたいと考えたんです。

北島 現在は、情報を収集・分析・評価する能力がビジネスそのものに直結する時代です。その点から見ても、素晴らしい決断でしたね。ただ、仕事との両立は大変だったと思います。何かコツがあったのでしょうか?

北川 職場の同僚には、前もって「大学院に通うから、出張や終日の撮影は相談ベースで」とは伝えていました。ただ、授業が始まった途端にコロナ禍となり、リモートワークやオンライン授業が取り入れられるようになったことで、時間の融通が利くように。事前に懸念していたような仕事に支障をきたすことは、あまりなかったですし、その逆もありませんでした。

北島 特に印象に残っていることはありますか?

北川 ディスカッションのテーマはバラエティに富んでいて、かつ身近に感じられるものが多かったですね。例えば「情報・文化・コミュニケーション」の授業では「AI技術で再生される美空ひばり」をきっかけに、亡くなった方に関する情報を再生する技術は、今後どのように受け止められ、発展させていくべきなのか? といった事柄を考えました。また、「グローバル・コミュニケーション」で取り組んだディベートでは、「LGBTQへの理解を企業の姿勢として発信することについて」を、推進派と反対派に分かれて論戦しました。私自身そこで学んだ手法をその後、業務でのプレゼンで活かして複数の案件を勝ち取ることができたので、本当に得るものが大きかったです。

北島 コロナ禍でオンライン授業がメインだったと思いますが、学生同士のつながりはできましたか?

北川 呼びかけた際のアクションの早さは、社会人ならではと感じました。 “ここで何かを得たい” と思っている者同士だからこそ「ゼミ後に勉強会をしませんか? 」「論文を読みませんか? 」といった学生同士の雰囲気が生まれたのだと思います。私も “斜に構えずにどんどん入っていこう” と自然に思えたのは、予想外の副産物でした。

図1 コミュニケーションデザイン研究科での「学び直し」で身につくこと

 

自分にしかつくれないテーマ

北島 修士論文にあたる「研究成果報告書」では、「私たちはなぜ『顔』を求めるのか? ─感情に覆われる情報社会のSNS広報と雑誌制作の現場から─」を書かれました。どんな点に苦労されましたか?

北川 これまで少なからず「ものを書く」業務に就いていましたし、自著の出版経験もあるので書くことに対してはそれなりの自信があったのですが、 論文には「起承転結」という慣れ親し んだ作法が通用しないことを知ってビ ックリしました。ただ、先生やゼミの 皆さんが私のテーマを面白いと言って くれたことがとても励みになりました。「面白い」という感覚には、「新しい」 という発見と「分かる」という共感が 含まれていると感じているので。また、論文を書いている間は仕上がりの前に自分と向き合える貴重な時間になりました。

北島 完成した論文を見ていかがでしたか?

北川 自分ができる最善を尽くせたので、至らない部分も含めて満足していますね。論文は、テーマの策定とその研究方法が一番重要だと徹底的に教えていただいた結果、自分にしかつくれないテーマができました。

北島 「顔」というキーワードを基に、現代人の働き方やソーシャルメディア と読者との関係を鮮やかに描き出した、素晴らしい研究成果だったと思います。こちらの研究成果や大学院での学びは、どのように仕事へと活かされているの でしょうか?

北川 フリーランスになってからは、大学院で得た学びを企画などの形で意欲的に出せていますし、実際にプロジェクトの成功にも貢献できました。編集部でも、周りから「北川さんの働き方を見て、学び直しのイメージが湧いた」と言ってもらえるので、その意味でも仕事上の成果を残せたことは大きかったですね。出版界は低迷が続いていて、何をどこから手をつければいいか分からなくなっている人も多いんです。そんな方々に対して「こんな授業を受けたよ」などと外部の目線を持ち込むことで、周囲に刺激を与えられたことも大事な成果のひとつに感じています。

不安を感じている人におすすめ

北島 最後に、この大学院に向いているのは、どんな人だと思いますか?

北川 「今の社会に不安を感じている人」だと思います。“この不安がどこからきているのか? ” ということを、学問によって分解して理解できたことの価値は本当に大きかったですね。常々、「知性」とは “抽象的な概念を要素に分解できること” なんだろうなと。私自身、入学前はその部分が足りないことで聞こえてくるあらゆるニュースに対しても不安を覚えていましたが、この2 年間でだいぶ冷静になれたと感じています。情報を学びや知識でフィルタリングすることで、分解して要素に分ける。そうすれば要素ごとに考えればいいだけです。業界や組織、またご自身の状況を不安に感じている方は、きっと学問が助けてくれます。その一歩を、ぜひ踏み出してください。

 

北島 純(きたじま・じゅん) 
社会構想大学院大学 教授

北川 さや香(きたがわ・さやか)
修了生

 

社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科
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