レンテック大敬 岡崎市から始まる東海地方初の建福連携事業
建設業界では業務の自動化や省人化、外国人実習生の登用、女性の活躍推進などに取り組んでいるが、人手不足の解決には依然として課題が残る。そうした中で、建設機械等のレンタル事業を営むレンテック大敬では福祉業界との協業を掲げ、愛知県岡崎市にて建福連携として就労移行支援事業所を立ち上げた。
社会のインフラを支える
建設業界が直面する数々の課題
国土交通省が発表する2024年度の建設関連投資は前年度比2.7%増の73兆200億円となる見通しだ。投資対象は新築だけでなく、老朽化した道路や橋、下水管などのインフラ整備、災害対策工事などもあり、仕事量は右肩上がりの状態が続く。一方で、人材は不足かつ高齢化が顕著で、さらなる担い手不足が懸念される。ある民間企業の調査では、2030年には建設技術者が3.2万人不足、建設技能工は23.2万人不足と予測している。
愛知県豊橋市のレンテック大敬は、1972年に建設機械の修理・販売業として創業。1979年に始まったレンタル事業を拡大しながら成長を続け、創業52年を迎える。現在は第七次中期経営計画のただ中にあり、スローガン「Start innovation for Partner」のもと、イノベーションに取り組む。
イノベーション推進部事業開発室の室長である丹羽潤一郎氏は、入社以来、建設機械や産業車両のレンタルおよび関連業務に従事してきた経験を生かし、建機のレンタルに付随するサービスや商品開発等に取り組んでいる。これまでそういった業務は各部署が個別に行ってきたが、「昨今は働き方改革にも取り組んでおり、従来の属人的なやり方ではなく、組織化やシステム化を含めて対応していくために専任部署を置き、情報と業務を集約する」ことになったという。
その丹羽氏が参加したのが、岡崎市と地元民間企業、事業構想大学院大学の産官学連携で発足した「どうする岡崎・どうなる岡崎プロジェクト研究」だ。岡崎市は「公民連携による成長戦略の推進」を基本指針の一つに掲げ、行政だけでは解決できない地域課題に対して、公民共創の観点での自由な発想や実行力による解決を目指していた。そこに三河版「三方良し」の実現を目指すレンテック大敬からの企業版ふるさと納税の寄附を活用し、地域課題解決に資する事業を構築するとともに、価値創造を担う人材を育成する研究会を立ち上げた。
事業構想研究会に参加し
新しい事業アイデアを模索
2023年6月から2024年2月まで約9カ月間にわたるプロジェクト研究は、インプットとして岡崎市が抱える課題の本質を捉え、研究員との意見交換やフィールドリサーチなどを通して、地域課題解決に資する事業構想案の仮説検証を繰り返しながら、それぞれが事業構想計画を練り上げるという段取りで進められた。
丹羽氏は岡崎市出身で岡崎の営業所に勤務した経験もあるが「地域にどんな課題があるのか、あまり考えたことがなかった」ことに気づかされたという。また、プロジェクト研究には「岡崎をよくしよう」という思いを持ったメンバーが集結しており、熱い議論を交わす日々は「大学のサークル活動のようだった」と振り返る。
「初めは当社の既存事業と相性が良い事業を検討しましたが、なかなか構想化することができなかったので、メンバーの会社をいくつか訪問させていただきました。その1つが一般社団法人One Lifeの事業所で、様々な障がいを抱える方が自立のために職業訓練を受けている様子を目にし、人材不足に悩む建設業界と結びつかないかと思うようになりました」
仕事内容の仕分けと再構築
丹羽氏は人材不足の建設会社と就業を支援する福祉事業所のマッチングをイメージしたが、One Lifeとの連携のもと調べてみると、どの事業所も建設業界を就職先として視野に入れていなかった。また、岡崎市の土木会社20社へのアンケート調査では、19社が人手不足だと感じているものの、障がい者雇用に対しては多くの企業が「危険」「手間がかかる」と考えていることがわかった。
「建設業界と福祉のマッチングを事業化している人がいないということは、それだけ難しいということだと思います。しかし、ある土木会社の社長さんは『最先端機器を導入したので、扱える人材がほしい』とおっしゃっていましたし、造園業の社長さんは『造園には草刈りなどの軽作業が伴うが、人手不足』だと困っておられました。建設業界にも危険ではない仕事はたくさんありますから、どの職務を対象にするかという切り出し次第で、可能性は十分にあると感じました」
例えば、昨今は遠隔操作が可能な建機が増えているが、そういった操作は業界歴の長いベテランよりもゲームなどに慣れ親しんだ若年層の方が習熟しやすく、移動が困難な障がい者にも活躍の場が開ける可能性がある。また、造園業の軽作業はルーティンワークに近く、同じ作業を続ける根気強さという特性を持った障がい者に適しているかもしれない。
また、障がい者雇用には企業側の受け入れ態勢の整備も欠かせず、「処遇と配慮」のバランスが重要になることから、レンテック大敬では自社で障がい者雇用を再開した。過去には障がい特性への理解不足などから雇用がうまくいかなかった経験があったため、「今回はOne Lifeさんに事前研修を実施してもらい、社員の意識改革に取り組んでいます」。
2024年夏、レンテック大敬とOne Lifeは東海地方初の建設業界×福祉による就労移行支援事業所「Dサポート」を岡崎市に開設した。運営はOne Lifeが担い、レンテック大敬は就職先となる企業を開拓していく。丹羽氏がプロジェクト研究に参加してから1年と数カ月、ついに新しい事業が船出した。
「今回のプロジェクト研究を通して新しいことに挑戦でき、関係者の皆様には感謝しています。今後はOne Lifeの皆様に引き続きご支援をいただきながら事業を推進するとともに、地域になくてはならない企業を目指し、経営基本方針『お客様とともに チャレンジwithパートナー』の実現を目指してまいります」