論理的な伝達能力の「学び直し」で 行政と対等に渡り合えるように

近年、地域活性の課題はより複雑化し、解決のためには多様なステークホルダーとのコミュニケーションスキルの向上が求められている。こうした分野で専門性を磨くには、どのような学びが最適解になるのか。社会構想大学院大学・コミュニケーションデザイン研究科の修了生と、牧瀬 稔特任教授が語り合った。

(左から)社会構想大学院大学 牧瀬 稔 特任教授、修了生 上島 義盛氏

「情」に頼らない論理的な議論を

牧瀬 上島さんは現職の区議会議員でいらっしゃいますが、2021年3月に3期生として社会構想大学院大学(当時は社会情報大学院大学)を修了されました。まずは、入学を決めた理由について聞かせてください。

上島 私の場合、普段接する方々が、行政とのかかわりが必要な方や業界団体など「政治カテゴリー」の方が多いです。とても狭い範囲の中で仕事をしていると気づいたとき、地方自治における政策の実効性をいかに高めていくかを考えると、過去の延長線上に無い企業・団体との連携や新たな技術の導入など、より高い視座や広い取り組みが必要になると考えました。その実現のためには、地域の課題解決につながるコミュニケーション活動の実務を学べるのに加え、様々な業種・経歴の方と交流ができる実務系の大学院は良いな、と感じました。

もうひとつの理由として、政治の現場は「情」に訴えかける場面がとても多いため、そこへ偏りすぎていることへの反省がありました。物事を論理的に構築し、立場の異なる方々との未来を見据えた建設的な議論により、納得感を持って伝わるようにする。その方法の探究を通じて、政治の現場をより良いものにしていく必要があると考えていた私にとって、ここはぴったりの場所だと思ったんです。

図1 コミュニケーションデザイン研究科での「学び直し」で身につくこと

 

苦手意識が払拭できた

牧瀬 実務が多忙な中での学び直しは、多くの方が不安に感じる点です。どうやって両立されたのでしょうか?

上島 結局、「やらなきゃいけない」という意志さえあれば、時間の融通はなんとかなると思います。立場上、やると決めた以上は修了しないと恥ずかしいという思いもありました。分からないことがあっても、一生懸命に聞けば、先生もそれに答えてくれる。そうなると、あとは「やるか、やらないか」だけ、ということになりますよね。

牧瀬 印象に残っている受講科目や、 授業内容があれば教えてください。

上島 AIについて学んだ授業です。それまでは、先端技術に対して漠然とした苦手意識を持っていました。それが、学んでいくうちに「あ、これは結局、人がつくっているものだな」と腹落ちしました。加えて、「AIが人間に取って代わるような未来が実現するには、法律をはじめとする社会的な制度などの変更も必要であり、すぐに実現するものではない」。そう気づいてから、テクノロジーに関する最新ニュースを見ても「慌てなくていい」と思うようになりました。分からない世界への拒否反応が、スッと抜けた感じがあったのをよく覚えています。

牧瀬 一口に“公共領域” と言っても、AIをはじめ、そこには様々な要素が含まれていますね。本学の場合は、「公共は、理論と実践、最先端技術から多層的なコミュニティなど、あらゆる領域につながっている」という考えのもと、実学であることに重きを置いています。そこが、大きな特徴といえます。

現場視察がターニングポイント

牧瀬 本研究科では、修士論文にあたる「研究成果報告書」が重要です。上島さんは「議会コミュニケーションに焦点を当てた議会改革のあり方に関する考察」というテーマで書かれましたが、苦労された点は?

上島 私の場合、自分の中で多くの課題意識を抱えていたため、どこに焦点を絞るのか? また、絞り込んだ焦点をどのような言葉で表現すべきか? そうしたプロセスに難しさを覚えました。

牧瀬 確かに初期のテーマはやや漠然としていましたね。その後、現場に視察に行かれて話を聞いたことで、絞り込まれました。そこが“課題意識” が生まれたひとつのターニングポイントだと思います。

上島 そうですね。牧瀬先生にヒアリング先を紹介いただきながら、横須賀市など私にとって「議会が目指すべきモデル」だと思える先進的な取り組みを行う自治体へ出向き、苦労話や実際の効果など、かなり突っ込んだ話をうかがいました。それによって、論点にすべきテーマをどこにすべきかが見えてきた気がします。

行政にアドバイスできるまでに

牧瀬 研究成果報告書を書き上げた経験をどのような形で議員活動に活かされているのでしょうか?

上島 これまでは政策の方向性が示された際、区民の視点や自分が培ってきた経験則で判断していました。それが、大学院で学んでからは「より良くするためには、こんな視点が重要だよね」「発信する際にここに気をつけよう」など、様々なかかわり方で行政と話ができるようになりました。それによって行政と対等に渡り合えるようになりましたし、様々な視点からアドバイスもできるようになりました。

また、議会で問題が生じた時に、自身の構想と照らし合わせて解決策の提案を行えるようになりました。自然と問題を解決するためのソリューションを提案できる「自分なりのやり方」ができましたね。

牧瀬 学生同士の横のつながりは、どのように構築されていましたか?

上島 この大学院に入って一番良かったなと思うのは、議論も含めて、他業種の現場で活躍されている方々と交流できたことですね。通常、私たちが行くところは議員や行政の方が多い場所だったので新鮮でした。また、「梟友会」という修了生組織もあり、そこを通じて異なる期の修了生とも連絡を取り合うようになりました。今後、先輩後輩といった縦のつながりもできてくると、ここでの人脈は本当に頼りになるし、財産になると思いますね。政治の世界のように内部だけでシステムが出来上がってしまっていると、よそへ行く必要がなくなってしまうんです。ところが、そこから抜け出さないでいると、次の時代には通用しなくなるのは明白です。

牧瀬 本学に入学された方には、既存の枠にとらわれないカリキュラムと実践的な授業を通じて、新しいものを生み出してほしいですね。

 

牧瀬 稔(まきせ・みのる)
社会構想大学院大学 特任教授

上島 義盛(かみしま・よしもり)
修了生

 

社会構想大学院大学 コミュニケーションデザイン研究科
個別相談受付中

 

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