「価値」のパラダイムシフトに着目を 『デジタル増価革命』

コロナ禍は経済や市民生活を大きく変化させたが、中でも、社会のデジタル化を急速に進めたことは注目に値する。デジタル技術やDXの重要性が叫ばれて久しいが、その本質は掴みづらい。私達の社会は今後デジタルによってどう変わっていくのか。

本書は今到来しつつあるデジタル資本主義社会の姿について、日本を代表するシンクタンクである野村総合研究所(NRI)未来創発センターの研究員が中心となって執筆したものだが、特に「価値」にフォーカスして解説を行っている点がポイントだ。

産業資本主義(モノ中心経済)からデジタル資本主義(デジタルサービス中心経済)への移行によって「価値」にも変化が起こっている。モノ経済では新品ほど価値が高く、使用時間とともに価値が劣化するのに対して、デジタル経済は新品時の価値が最も低く、経験や学習、改善を通して価値が高まっていく。つまり減価償却ではなく「増価蓄積」がこれからの社会の価値の仕組みである。

デジタルは少しずつ「増価蓄積社会」を生み出しつつあり、コロナ禍における生活様式のオンライン化やD2Cビジネスの普及、AIの躍進などが増価蓄積社会をより顕在化させたと本書は指摘する。Webサービスだけでなくリアルなモノや街、インフラにも増価蓄積という概念は当てはまる。例えばテスラに代表されるコネクテッドカーは、ソフトウェアアップデートでブレーキやサスペンションの性能や航続距離が改善されている。スマート家電やスマートハウスにも同様のことが言えるだろう。

その上で本書では、来るべきデジタル社会に向けて事業者や個人がどう備えればよいかを解説している。

具体的には、冒頭でデジタルが生み出す増価蓄積社会のイメージについて従来社会との対比で解説し、続いてデジタルによる7つの増価メカニズム(ネットワーク効果、マッチング効果、学習効果、ユーザー参画効果など)について解説している。さらに、GA FAなどの巨大企業やD2Cビジネスで成功した新興企業の具体的な増価事例や戦略を紹介している。続いてデジタルで増価する都市=スマートシティの展望や、人間の生活へのデジタル技術の影響などを解説。最終章では、増価蓄積社会の複数のシナリオ提示と、あるべきデジタル社会をどうデザインすべきかを述べている。

増価蓄積社会においては、企業の競争ポイントも大きく変化する。モノ中心経済では上市される前段階での製品企画や性能向上の研究開発が大切であるが、デジタル経済は上市後に蓄積されるデータや新技術を活用したサービスの追加・ブラッシュアップや、他社サービスとの接続による提供価値の増大がカギになる。価値という側面からデジタル社会の姿を描いた本書は、多くの経営者やビジネスパーソンに新たな視点と着想を与えるだろう。

 

デジタル増価革命

  1. 此本 臣吾 監修、 森 健 編著
  2. 本体1,800円+税
  3. 東洋経済新報社
  4. 2022年6月

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