金沢市の行政DX 5GなどのICT技術の利用が活発化

5Gサービス提供開始から1年半余りが経過し、自治体や産業界での活用事例も増えつつある。コミュニティと地場産業の活性化に取り組む金沢市長の山野之義氏とドコモの坪谷寿一氏が、それぞれ事例の紹介とともに、DX、5Gを実装するうえでの課題などについて議論をした。

金沢市長の山野之義氏は今回のウェビナーで「デジタル戦略都市・金沢の実現に向けて~金沢市のDXへの取組から」のテーマで講演した。同市では2021年3月に「誰ひとり取り残さないデジタル戦略都市・金沢」の基本理念を掲げ、迅速な意思決定を可能にすべく市長を本部長とするデジタル戦略推進本部を設置し施策の実践に取り組んでいる。

山野 之義 金沢市長

ICTが地域コミュティを活性化

市役所の窓口業務のデジタル化については、子宮頸がんワクチンの定期予防接種の申請、入札参加資格申請など231の手続きについて電子申請サービスを可能にし「法律等で対応が難しいもの以外はすべて実現している」という。「職員の資質向上により生産性を高め、ひいては市民生活の向上に努める」という考えから、各部局からの推薦で約20人の職員をデジタル行政推進リーダーとして育成する研修にも取組み、今後5年で100人の育成を目指す。

金沢市ではデジタル行政推進リーダーの養成を進めている

市が2021年8月に開設した「金沢未来のまち創造館」は、2018年10月に策定された金沢産業創出ビジョンを体現する価値創造拠点施設として位置づける。キーワードは集積の厚みがある食と工芸を柱とした「文化のまち」と、子どもとAIを組み合わせた「未来のまち」。食の価値創造事業では、伝統料理の調理法のデータ化、職人技法のアーカイブ化にも取り組む。子どもの独創力育成事業では、創作・工作スタジオを活用し個々の興味を引き出しながら独創的なアイデアを育んでいる。

「金沢未来のまち創造館」は、元・小学校の建物を増改築した施設だ

また、町会加入率が7割を切った現状をふまえ、ICTを活用した地域コミュニティの活性化として、若年層の町会活動の参加や町会運営の効率化を図る目的で「結(ゆい)ネット」を開設。連絡網や地域行事の参加確認などがネット上でできるようになっている。2021年8月に運用を開始した野町町会連合会では、通信機器を内蔵したIoT電球(みまもり電球)を結ネットと連動させることで、高齢者を地域で見守る環境を構築している。山野氏は「デジタルを活用しながら生産性を高め、ひいては行政サービスを高めていくという目的がぶれることなく今後もDXへの取組みを進めていきたい」と述べた。

5Gなどを活用した
地域での協創を拡大

続いてドコモ執行役員5G・IoTビジネス部長の坪谷寿一氏が「自治体DXの推進に向けたドコモの取組み」のテーマで講演。5Gサービス提供開始から1年半余りが経過した現状について「5Gが全国に行き渡るにはまだ数年を要するが、それに連動するようにAI、デバイス、アプリケーションの技術開発が並行して進んでいるところがポイントだ」と述べた。同社では現在までに全国で約300件の5G協創案件を手掛けている。

坪谷 寿一 株式会社NTTドコモ執行役員5G・IoTビジネス部長

ITによる運営オペレーションの高度化では、奈良県におけるAI電話サービスを使った実証実験を紹介。高齢者に対し毎日指定した時間に自然な自動音声で質問をし、話す習慣をつけてもらうことで認知症予防の効果が期待できる。応答がない場合には事前に登録した連絡先に連絡することで見守り機能も果たす。

地域産業の再生・高度化では、自治体や地域産業との連携強化による社会実装の事例として、遠隔で美術の授業を受けられるようにした5Gアートスクール、高精細のVRを使った仮想体験による文化振興、農地での重機の操作を遠隔で実施したケースを紹介した。

さらに、効率的なバスの運行を実現するため、「この時間にこの場所に行きたい」という要望を受けて柔軟な動線で運行するAI運行バスについては、これまで24都道府県45エリアで約45万人が利用した実績を持っている。他にも統合型MaaSの取組みとして、神奈川県の三浦半島観光MaaS協議会が主体になって、京急電鉄と連携し、三浦半島への観光客を横須賀に呼び込む実証実験では、京急の旅行パッケージ商品「みさきまぐろきっぷ」のデジタルチケットや、鉄道とシェアサイクル、カーシェアを組み合わせたMaaSアプリにより観光客の行動変容を促すことができたという。

坪谷氏は5GなどのICT技術を活用して地域の課題解決に取り組む際に重要な要素として「スマホやウェブなどの既存資産の活用」「SaaSの積極的な活用」「部局横断と広域連携」の3つを挙げた。そして「これらによって投資の選択と集中を行い、大きなコストをかけずにできるITを実践してほしい」と呼びかけた。

DX推進に欠かせない
リーダーシップ

最後に、講演を終えた山野氏、坪谷氏に事業構想大学院教授の渡邊信彦氏を交えたトークセッションを行った。渡邊氏は、まず金沢市では市長の山野氏がリーダーシップを発揮してDXに取り組んでいる重要性に触れた。

山野氏は「市長自らデジタル戦略推進本部の本部長としてすべての会議に出席し発言することで職員、市民に本気度が伝わります。推進本部の議論では具体的個別的なテーマになるほど発想が縦割りになりがち。しかし推進本部に対し助言、提案を行う有識者らで構成された金沢市DX会議を設けることで俯瞰的、普遍的な方向性を決めることができるようになりました。私が推進本部だけでなくDX会議にも必ず参加することも強いメッセージになっている」と述べた。

渡邊氏は、「そうしたリーダーシップによって集積したデータを生かしていく際には、コンパクトで明確なフィロソフィーを持った自治体で実証し、現実化していくことが重要で、それがリテラシー向上につながっていく」と指摘した。

また、坪谷氏はDXを推進する自治体担当者に対し「中枢の方が前に出て部局横断で対話ができることが重要。縦割りのサイロに陥ることなく、大きな視点で民間事業者の話を聞いていただきたい。連携を図る地域のIT事業者、通信会社の提案についても、どこか1社に偏るのではなく、幅広く耳を傾けていただくことが、最終的に良い結果を生むのではないか」とアドバイスし、セッションを終えた。

 

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