次の時代を動かす「富」、ウェルビーイングを考察する
デジタル化による社会構造や規範の変化を“文明の転換”と捉えて新たな文明における経済や経営のあり方を考える本連載。最終回となる今回は、未来社会で我々が追求する最終目標とは何かを考察する。それこそが、次代のビジネスで提供すべき価値となるはずだ。
1年にわたる連載も最終回となった。情報技術の発達とそれがもたらすトレーサビリティの増大が(匿名の相手も含む)マスマーケットに対して「所有権を販売する」ビジネスモデルが主体だった経済を、特定された相手にアクセス権を付与するビジネスモデルを主体とするビジネスモデルに転換させていくという主題を語ってきた。そして(少し大げさかもしれないが)それが文明の転換ともいえる原理的な変化であるととらえて、「サイバー文明」の登場と位置付けてきた。「文明」を① 富を生み出す技術、② 蓄積を目指す富、③ 統治機構の3面において共通した特徴を持つ社会の集合体と考えた場合に、全ての面において、サイバー文明は近代工業文明と異なっているからだ(表)。最終回では若干の振り返りをしたうえで、サイバー文明における「幸せ」(昨今の流行の言葉で表現するならば「ウェルビーイング」)の姿について考えてみたい。
表 「文明」を特徴づける3側面
データ活用が変える
ビジネスモデル
サイバー文明を支える技術がデジタル技術であることはほとんどの方が賛同してくださるだろう。本シリーズの中ではデジタル技術の中でも特にトレーサビリティ(追跡可能性)を高める、ネットワーク技術、クラウド、センシング、AIなどに焦点をあてた。トレーサビリティが、ビジネスを第二次産業革命以来の所有権を販売するモデルから、便益へのアクセス権(利用権)をライセンスするモデルに転換させることを可能にし、経済社会の仕組みを根幹から変える原動力だからだ。トレーサビリティのもたらす高度な管理の可能性を通じて、「優先アクセス権」「劣後アクセス権」などを設けることが可能となって資産利用効率が高まり、高度なサービスを安価に提供できるようになることも解説した。
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