デジタルの力を地方創生に活かすための4省庁の施策と今後の展望
2024年10月15日~18日、デジタルイノベーションの総合展「CEATEC」が千葉県の幕張メッセで開催された。開幕日のパネルディスカッションでは「『デジタル田園都市国家構想』による国民生活の豊かさの向上」をテーマに内閣官房をはじめ、各省庁が取り組んできた施策を紹介。今後の展望について議論を交わした。
地方創生の新たな形として「デジタル田園都市国家構想」が示されてから3年、「全国どこでも誰もが便利で快適に暮らせる社会」を目指し、様々な施策が実施されてきた。パネルディスカッションでは冒頭、内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局長の海老原諭氏が「地方創生の取組を開始して10年、先進的事例が誕生する一方で地域間格差が課題となっている。先進的地域をより引き上げることと併せ、全国のボトムの底上げが重要だと考えている」と挨拶。また、石破内閣が発足し、デジ田構想を引き継ぐ「新しい地方経済・生活環境創生本部」も発足したが、「デジタルの力なしに地方創生はできない」と語った。
デジ田構想に向けた各省庁の施策
次に、デジタル庁、総務省、経済産業省、国土交通省の4省庁が、デジタル田園都市国家構想の実現に向けて進めてきたそれぞれの施策を紹介した。
デジタル庁では「誰一人取り残されない、人に優しいデジタル化を。」をミッションに掲げ、マイナンバーカードを軸とした施策を進めてきた。行政手続のオンライン窓口となるマイナポータルもその1つで、マイナンバーカードを使ってアプリをダウンロードすることで、自己情報の閲覧や認証機能の使用のほか、引っ越し、パスポート申請、国民年金などの様々な行政手続ができる。また、マイナンバーカードはICチップの空き領域を民間事業者でも利用可能であることを強調した。「マイナンバーカードを活用した多様な民間のサービスが地域で生まれることを期待している。現在、全国で約1,000のサービスが実装されており、例えば富山県朝日町ではマイナンバーカードでの買い物やライドシェアが可能だ」(デジタル庁国民向けサービスグループ次長/審議官 三浦明氏)
総務省では、地域創生へ向け「地域おこし協力隊」、「地域活性化企業人」などの施策を実施。地域おこし協力隊は現在隊員が7,200名で、令和8年度までに1万人を目指す。地域活性化企業人は現在800人弱が活動し、約半数が観光やDX関係に携わっている。DX関連では地方団体と一緒に窓口などフロントヤードの改革を推進しており、DXの基盤となるデジタルインフラの整備状況は、光ファイバーが2023年3月末で世帯カバー率99.8%、5Gは2024年3月末で人口カバー率98.1%に達した。また、非常時の通信手段の整備にも注力している。「今後は日本発の非地上系ネットワークとして期待されるHAPSへの研究開発支援のほか、2030年代を目標にBeyond 5Gの実現へ向け、イノベーションの加速に取り組んでいく」(総務省 大臣官房統括審議官 恩田馨氏)
経済産業省は、企業活動を通じた3つの地域活性化支援施策を紹介した。1つ目はデジタルを活用したマッチングなどによる地方への投資環境の整備、2つ目は地域で重要な役割を担う中堅企業への成長支援、3つ目が大阪・関西万博だ。「万博においては、世界中からくる来賓や観光客を、デジタルの力を使って全国の地域へ誘引したい」(経済産業省 経済産業政策局地域経済産業政策統括調整官 宮本岩男氏)
国土交通省では、地域公共交通のリ・デザイン、コンパクトなまちづくり、観光DX、国土強靱化、物流・インフラDX、二地域居住、地域生活圏、国土利用・管理DXなどの取組を進めている。二地域居住については、国会で「二地域居住促進法」が成立。地域生活圏の形成については、官民連携で事業連携、地域連携を図りながら進めるための議論が始まっている。「地域公共交通のリ・デザインではデジタルを活用しつつ、地域の多様な関係者との連携と協働を通じ、地域交通の利便性・生産性・持続可能性を高めていきたい」(国土交通省大臣官房審議官 天野正治氏)
地方創生に不可避の公民連携
「公民連携」がテーマの討論では、「様々なサービスのルールメイキングに活かすため、民間とともに議論の場を創ることに取り組んでいる」とデジタル庁の三浦氏。最新のデジタル技術を政策に活かすには官民連携が不可避で、現在はテーマごとのチームから成る協議会を作り、活動を進めているという。
自身が6カ所の地方公共団体へ出向した経験を持つ総務省の恩田氏は、「地域活性化には公民連携が不可欠。民間と連携し、地域を回していけるコーディネーター的人材が求められている」と語る。一方、経済産業省の宮本氏は「公民連携を進めるにあたり、公民連携を想定していない行政の規制が阻害要因になることがある。このあたりの改善も必要ではないか」と意見を述べた。国土交通省の天野氏は、「国土交通省の取組は全て公民連携が基本」と述べた上で、二地域居住推進における北海道の事例を紹介。また、「買い物、医療、福祉などのデータを連携し、暮らしを豊かにする地域生活圏の考え方について、国土審議会での議論がスタートしたところ」と述べた。
デジタル化を加速させる取組
「加速化・進化させる取組」をテーマにした討論では、「デジタル化社会はデジタルの良さを体感するフェーズに入った。新規の開発も重要だが、今あるものをしっかり使いこなし、デジタルの良さを体感できる誰一人取り残されない社会を作りたい」とデジタル庁の三浦氏。一方、地方団体においてDXの取組が重要性を増すなか、総務省の恩田氏は人材確保に懸念を示す。「デジタル庁と協力し、県レベルで一定のデジタル人材を確保しながら、地方団体の取組を支援していきたい」(恩田氏)
経済産業省では万博に向け、デジタルを活用した地方への人の誘引に注力する。「NFTを使ったスタンプラリーなど、生活の中で良さを体感できる施策を考え、トライアルを進めている」(宮本氏)。また、国土交通省の天野氏は「人の循環を高めることと公民連携、分野連携、地域連携で資源を有効に使うことが重要。その手段としてデジタル活用を徹底していく」と述べた。
テーマ討論を終え、モデレータを務めた内閣官房デジタル田園都市国家構想実現会議事務局審議官の岩間浩氏は、「デジ田甲子園なども通じ、各自治体や企業の先駆的な取組、好事例を横展開する取組を一体的に行い、地方の経済、住民サービス、暮らしを良くしていきたい」と語った。また、同じくモデレータの事業構想大学院大学学長の田中里沙氏は、地域全体の未来のビジョンを共有し、協業することの大切さを指摘するとともに、「地域の知的財産とデジ田甲子園でのチャレンジといった個々の暗黙知をAIで形式知化することで、地域に新しい文化が生まれることを期待する」と語った。