行政×DXを考える視点 デジタル時代に、行政をどう変えていくのか?

総務省在籍時から省内で率先してオフィス改革や効率化に取り組んできた箕浦氏。「リモート活用による地方創生」に活動を広げ、退官後は「働き方」の変革をサポートしている。その経験と活動をもとに、デジタル時代に行政をどう変えていくのか?というテーマで講演した。

箕浦 龍一 一般社団法人官民共創未来コンソーシアム理事、
元総務省大臣官房サイバーセキュリティ情報化審議官

ICT革命に乗り遅れた日本

一般社団法人官民共創未来コンソーシアム理事の箕浦龍一氏は、今回のウェビナーでまず、1992年に1位だった日本の国際競争力がそれ以降順位を下げ、2018年には25位に低迷している現状を指摘した。

「この間、世界で急速にICT革命が進む中で、日本はその技術を使うだけで、デジタルを前提にしたトランスフォーメーションを進めることができなかったのです」と述べ、ICT革命に乗り遅れたことがその要因であるとした。

また、DXの提唱者であるエリック・ストルターマン氏の定義を引用した上で「DXとはデジタル化でもデジタル活用でもない。技術が進歩することで景色や世界観、もしくは生活を支えている根底の文明が変化すること」と述べた。

日本におけるDXを妨げる要因の1つとして箕浦氏は「経路依存」を挙げる。経路依存とは、過去の経緯や歴史によって決められた仕組みや出来事にしばられる現象のことを指す。「ICTの飛躍的な進歩は、従来我々や先人たちが辿ってきたさまざまな経路自体を意味のないものにしている」とし、そこに縛られない自由な発想をするには「固定観念や思い込み、慣習、前例、忖度を取り除いて考えることが重要だ」と語った。

そして、新しい発想のための一例として、「検査や監査について、デジタル技術を活用して、その本来の目的をより効果的に達成するためには、どのように考えてアプローチすべきだと思いますか?」という問いを提示。「そもそも検査や監査は何のために行うかというと、人為による不正や間違いが起こらないようにするため。だとすれば、そもそも人為で不正やまちがいが行われないような業務フローを実現すれば検査や監査が不要になると考えるのがDXのアプローチです」と述べた。

マネジメント対象を
人から成果へ

箕浦氏は続いてコロナ禍で変化した働き方について話題を移し、感染症が終息しても、オフィスを離れて仕事をするテレワークの動きは後戻りしないと述べ、その理由を2つ挙げた。1つ目は「働き方」のDXが進んでいること。「物理的な場所に制約を受けることなくどこにいても同じデータを扱うことができ、会社にいるのと同じように仕事できることにより新しいつながり方が生まれ、地域にとっても新しい可能性を生み出している」とした。2つ目は、優秀な人材の確保、囲い込みができなくなっていること。「優秀な専門人材をリモートでシェアして活用することが、テレワークの実現により可能になります」とメリットに触れた。

在宅勤務やテレワークの一般化で、物理的な距離に関係なく専門人材を活用できるようになってきた。ただし、組織側の改革が必要になる

一方で、リモートワーク化で日本型組織の弊害が明らかになったとも言う。経済産業省の調査では、労働者の8割、企業の9割が「在宅勤務で生産性が下がる」と答えていることについて、「日本には、休まず遅れず会社に行く皆勤賞文化の幻想がいまだに残っている」と指摘。「仕事は行くものではなくするもの。マネジメントの対象を人から成果へ寄せていくことが日本の組織におけるマネジメントの宿題といえます」と述べた。

日本型組織の働き方における
4つの課題

箕浦氏は、乗り越えるべき日本型組織の働き方の課題として「組織文化改革」「人材育成改革」「ボーダーレス化」「意思決定の迅速化」の4つを挙げた。「優秀な人材ほど、自身の『社会への提供価値』を強く意識するようになっています。従来に比べ組織への帰属意識は希薄になっている。また、働くことに対する報酬への価値観も多様化し、快適な住環境や家族と過ごす幸せな時間を求めるようになっている」。

このような変化をとらえた「組織文化改革」の必要性を箕浦氏は説いた。また、「若い世代には指示待ち人材が多く、マネジメント層はリーダーシップを体系的に学んでいない。これでは人材が育たない」とし、人材育成改革を訴えた。さらに「変化の時代に組織単位で価値創造するのは難しく、組織の枠を超えてプロジェクトベースで仕事をせざるを得なくなっている」と指摘し、「デフレーミング」「越境」という言葉に代表される「ボーダーレス化」の視点の重要性を説いた。そして、「日本の組織(特に公務)では、顧客に向き合い、顧客に対する価値を提供する部分ではなく、内部の調整プロセス(内向きな仕事)に多くの時間と労力を費やしている」ことを問題視。「仕事の本質は、決めることであり、意思決定を的確、迅速に行うことが重要」と述べた。

今こそリ・デザインを

これらの課題をふまえ、最後に組織を再構築するためのアプロ―チについて「経営マインド、マネジメント力の向上」という方向性を示した。今後、取組むべきは「組織のミッションに遡った棚卸し」と「幹部、管理職、ワーカー各級のマインドセット研修」という。前者については「何を目指したいのか、どう目的を達成したいのか、そのためにどのような人材が必要で、どう行動してもらいたいかを明確にし、その上で研修をして人を育てるとともに、それがやりやすいようにミッションに貢献しないタスクを棚卸して減らすべき」と述べた。また、後者については、「先人たちが棚卸せずにきたために組織が変わらずにいる」ことからマインドセット研修の必要があるという。

組織を再構築するためには、組織・チームの「働き方」の最も本質的な課題である 「伝統的な組織文化」と「人財の育成・開発」における2つの壁を取り除かねばならないと指摘。そのために必要な取組みとして「多様な働き方を受容しうる人事、制度、慣行の徹底的な見直し」と「経営幹部から管理職、一般社員まで含めた徹底的かつ反復、継続したマインドチェンジ(自律型人材の創生)」の2つのアプローチの重要性を力説した。

社会が激変しつつある今、既存の仕組みと現実との乖離が拡大しており、組織が目指すべき目標を再確認、再定義する局面に差し掛かっていることを改めて強調した箕浦氏。これからのキーワードとして挙げたのは「リ・デザイン(再設計)」だ。

「今存在する仕組みや常識を前提に考えるのではなく、デザイン(設計)し直すこと。デザイン力とは、すなわち、公務員が長年積み上げきた企画立案力と同じなので、今こそ皆さんの真価を発揮してほしい」とICT革命への乗り遅れを取り戻すための奮起を促した。