スマートシティで発展 データ利活用による地域サービスを充実

「スマートシティさいたまモデル」の構築に取り組むさいたま市では、データ利活用の「インフラ」となる都市OSを他自治体とも共用し、共創による社会課題解決を図るという。その取り組みについて、清水勇人・さいたま市長に聞いた。

清水 勇人(さいたま市長)

東京都心部の北側に位置するさいたま市は今年、誕生20周年を迎えた。新幹線6路線をはじめとする鉄道路線が結節し、東日本各地と首都圏を結ぶ、人・もの・情報の交流拠点となっている。市の人口は毎年約1万人のペースで増加しており、現在は133万人を超える。また、2020年の全国自治体「幸福度ランキング」で、政令指定都市では1位になるなど、様々な調査で住民満足度の高さが示されている。

スマートシティの取り組みは持続可能な発展への鍵

その一方で、市は課題も抱えている。現在、65歳以上の人口が全体の21%以上を占める超高齢化に直面しており、扶助費は2014年度から8年間で40%近く増加した。また、市の人口は2030年頃をピークに減少局面に転じる見通しで、経済規模の縮小や財政の硬直化が懸念される。

「私たちは人口減少局面を迎えるまでの10年を『運命の10年』と捉え、新たな時代を見据えて前進するための重要な期間と考えています。そこでは、民間企業や大学などと行政がそれぞれの強みを持ち寄り、持続可能な発展につながる仕組みを構築する必要があります。そのための鍵はスマートシティだと考え、取り組みを進めてきました」。

清水氏は、こう語る。市ではまず、2009年に電気自動車などの次世代自動車普及に向けた「E-KIZUNA Project」を開始した。また、2011年の東日本大震災では市民生活や企業活動に多大な影響が生じ、災害時のエネルギーセキュリティ確保の重要性が再認識された。そこで「次世代自動車・スマートエネルギー特区」(2012〜2019年)として国の指定を受け、ハイパーエネルギーステーション、スマートホーム・コミュニティ、低炭素型パーソナルモビリティ普及という3つの重点プロジェクトに取り組んできた。

様々なプレイヤーの連携が重要

さらに2015年からは、健康やモビリティ、エネルギー、コミュニティなど市民生活を構成する様々な分野で、人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)、データを利活用した分野横断型の「スマートシティさいたまモデル」構築に向けた施策を進めてきた。例えば、モビリティ分野では、環境負荷が少ない自転車やスクーター、超小型モビリティという3車種の複合型シェアリング事業である「マルチモビリティ・シェアリング」の実証を行っている。

一方、ヘルスケア分野では総務省の事業採択を受け、「ミソノ・データ・ミライ」プロジェクトの実証を進めてきた。プロジェクトでは、市南東部の美園地区を生活行動圏とする100人のモニターからヘルスケアや購買に関するデータを収集。それらをプラットフォームに保管して組み合わせ、分析し、食事改善の提案など市民生活の質向上を図るサービス構築を目指している。他にも、地元農家によるマルシェイベント開催や地域情報の発信などで、人と人とのつながりを育み、コミュニティを育てる取り組みも実証している。

ヘルスケア分野で新たな地域サービスの開発・検証を行う実証実験「ミソノ・データ・ミライ」プロジェクト

これらの取り組みでは、自治体や民間企業、地域住民や大学など、公民+学の様々なプレーヤーによる連携が重要になる。このため、2015年にはそのハブとなる、まちづくり拠点施設「アーバンデザインセンターみその(UDCMi)」を開設した。また、公民+学連携でソフト分野の取り組みを行う「美園タウンマネジメント協会」や、ハード分野の取り組みを担う「みその都市デザイン協議会」も設立した。

10月には美園コミュニティセンター交流ひろばで地元密着型マルシェイベントが開催された

「自治体の課題は、財政やレジリエント、デジタル化や脱炭素化など多岐にわたり、内容も高度化、複雑化しています。課題解決に向けては、民間企業や大学などの活力、技術、知見を活用し、自治体の業務や市民サービスを効率化していくことが重要です」と清水氏は言う。

自治体間の都市OS共用でwin-winの関係を実現

「スマートシティさいたまモデル」におけるデータの利活用では、データを質的・量的に充実させる必要がある。そこで様々な分野のデータを収集・保管するデータ利活用の「インフラ」となるのが、都市OS「共通プラットフォームさいたま版」だ。市では、2017年度に国の補助事業などを活用し、これを整備してきた。

このプラットフォームでは、特定のデバイスやメーカーに依存することなく、まちのデータ収集や管理活用が行える。その主な特長は、第1に、サービスの提供事業者と住民の双方が情報の権限管理を行える「VCRM機構」を備えていることだ。

そして第2に、他の自治体や民間企業が構築したプラットフォームとも容易に連携し、共用できることである。

自治体間での都市OS共用には、大きく3つのメリットが存在する。1つ目に、コスト面のメリットが挙げられる。共用を通じて新たに基盤を構築する必要がなくなるほか、維持管理やセキュリティ面のアップデートなど、ランニングコストも抑えられる。

2つ目は、市民・自治体が安心して利用できる点。さいたま市では、これまでの実証で蓄積したデータの収集や利活用に関する規約やノウハウも、都市OSとあわせてシェアする方針だ。これによって、データ利活用を初めて行う自治体も安心して効果的に実証事業を始めることができる。

3つ目は、さいたま市が構築したサービスは、都市OSとセットで他の自治体も共用できる点。市では現在、「共通プラットフォームさいたま版」を活用した様々なサービス構築に向けて実証を進めている。今後、これらのサービスを社会実装していく際は、連携先の他自治体に横展開することもできる。逆に、連携先の自治体で実証実験を行ったサービスを、さいたま市など他の自治体に拡大することも可能だ。

「少子高齢化や生産年齢人口の減少、財政の硬直化、脱炭素といった課題は、我が国共通の社会課題です。課題解決に向けては、『共創』の視点が必要だと思います。今後は多くの自治体との共創で市民生活の質向上や行政負担の軽減に取り組み、自治体同士がwin-winになれる関係を築ければ良いです。そのための連携のツールとして、『共通プラットフォームさいたま版』をシェアしていきたいです」と清水氏は目標を語った。