森林・林業DXによる地域創生カーボンニュートラルの実現

「諸塚村森林・林業DX推進協議会」は今年3月までに共同実証事業を実施。森林情報の見える化やクラウドを活用した木材取引、J-クレジット創出などについて実証した。今後は社会実装を進めていく。

藤掛 一郎 宮崎大学農学部教授

伐採後の再造林が
進みにくい日本の森林

「日本の森林は、特に戦前や戦時中に伐採が進んで荒廃しましたが、1960年頃からはスギやヒノキなどが沢山植えられました。2000年代には樹齢が40年を超え、また伐採できるようになっています。一時は20%を切った木材自給率は40%程度に回復しましたが、伐採後の再造林が進みにくいのが大きな課題です」。

「諸塚村森林・林業DX推進協議会」に参加する宮崎大学農学部森林緑地環境科学科教授の藤掛一郎氏は国内の森林の課題について、こう語る。戦後は木材価格が下落したほか、近年は農山村に住んで森林を管理できる人が減少した。このような中、森林所有者が森林伐採後、再造林して林業を続けるのは難しくなっている。

「林業が盛んな宮崎県でも、再造林率を高めなければ資源基盤が崩れてしまうという危機感があります。日本は国土の3分の2が森林に覆われており、他の資源は乏しくても他国がうらやむような森林資源があります。また、森林は環境保全の観点でも、豪雨による被害防止のためにも重要です」。

森林情報のデジタル化による
現地調査の省力化などを実証

このような中、宮崎県森林組合連合会と宮崎県諸塚村、西日本電信電話(NTT西日本)宮崎支店、地域創生Coデザイン研究所では、地元の森林組合や宮崎大学などの参画の下、2021年4月に「諸塚村森林・林業DX推進協議会」を設立。諸塚村で共同実証事業を行った上で、デジタル林業の社会実装を進めている。

実証事業は2023年3月まで、①森林情報のデジタル化、②森林情報の見える化・共有、③クラウドを活用した所有林/木材取引(需給マッチング)、④民有林の集約化によるJ-クレジット創出、という4項目について行った。

①では人工衛星とドローンを組み合わせた独自の方法で森林情報をデジタル化し、森林の現地調査において飛躍的な省力化(約40分の1)が可能になるとわかった。②では、取得した森林デジタル情報を人工知能(AI)で解析し、伐採・造林などの森林施業や資産評価に役立つ情報として森林クラウドで見える化を実施。地域の関係者に、林業経営や再造林の意欲向上につながる相互コミュニケーションの場を提供することができた。

「今回開発した所有者向けアプリでは、参考値ですが、所有者は自分の山の資産を見える化できます。国内では『林業は儲からない』という固定観念がありますが、ある程度の利回りは得られます。それを見える化すれば、所有者に林業経営に関心を持ってもらえると思います」。

③では、森林組合向けに森林クラウドを活用した取引体験会を実施。所有者探索や立木評価の省力化などで効果がみられた。さらに木材取引では、素材生産者と製材所で森林クラウドを活用した取引を実施。素材生産者は基準にした市場価格より高く売れ、製材所は予約で安定的に材木を確保できることなどを検証できた。

④ではICTを活用して「民有林の集約化」を行い、温室効果ガスの排出削減量や吸収量をクレジットとして国が認証するJ-クレジットのプロジェクト登録を申請。今年3月に登録が承認された。市場の需要に応えられる規模のクレジット発行や、クレジット取引活性化による個人所有の民有林の付加価値向上が可能になるとわかった。

「森林情報のデジタル化」と「森林情報の見える化」、「クラウドを活用した所有林取引」では実証事業のノウハウを活用し、宮崎県の一部地域で社会実装を進めている。「NTT西日本グループなどと、林業の盛んな宮崎で開発した技術を全国に広め、林業の活性化を実現したいです」と藤掛氏は語った。