職業能力開発と社会参加を支える社会教育 その専門性と展望
職業能力開発と
社会参加を支える社会教育
社会教育が担う役割は、家庭教育の補完にとどまらない。教育基本法第三条で示される生涯学習の理念には、職業能力の開発・向上や社会福祉の向上など、多方面で学びが展開されるべきことが掲げられている。これを受けて公民館や社会教育施設では、ワークショップや講座、セミナーなどを随時企画し、学び手の多様なニーズを吸収する試みが行われている。
特に職業能力開発に関するプログラムは、地域の産業界との連携を図りながら進められることが多く、キャリアチェンジや再就職をめざす社会人にとって貴重な機会となるだろう。そこには、学齢期までの学校教育や家庭教育だけでは十分にカバーしきれない現場の技能習得や社会適応力の向上といった新たな視点が含まれている。社会教育士や社会教育主事が地域のニーズを適切に把握し、さまざまな主体と協働体制を築くことで、各種学習機会がより効果的に実施されるのである。
また、高齢者や障害のある方々に対する社会参加支援も、社会教育が果たす重要な機能のひとつである。教育基本法が目指す「生涯にわたる学習社会」では、年齢や身体的条件にかかわらず学ぶ機会を保障することが不可欠だ。公民館活動や地域サークル、さらにはオンライン学習環境など、学びを得る方法が拡充されてきた現在、多様な背景をもつ参加者が安心して利用できるインクルーシブなプログラムづくりが期待される。
社会教育のフォーマル・ノンフォーマル
・インフォーマルな学習活動
「社会教育は(1)フォーマル教育(定型教育)、(2)ノンフォーマル教育(不定形教育)、(3)インフォーマル教育(非定型教育)を指すものと考えられる」と示されている。ここで、フォーマル教育とは学習指導要領などによって体系化された学校教育の形態を意味し、社会教育においても資格取得のための講座や、一定のカリキュラムにもとづく学習プログラムが該当する場合がある。ノンフォーマル教育は比較的組織化されているものの、必ずしも国家資格や公的なカリキュラムに準拠しない地域講座や研修などが当てはまるだろう。インフォーマル教育は、日常の生活や余暇活動、地域行事への参加などを通して非意図的に学ばれるものである。
社会教育士・社会教育主事は、こうしたフォーマルからインフォーマルまでの多様な学びを意図的に組み合わせ、地域住民一人ひとりの成長を後押しする仕組みを構築していくことが期待されている。「図書館や博物館に日常的に通ううちに知的好奇心が高まる」「地域ボランティア活動に参加しながら、コミュニケーション能力やリーダーシップを養う」といったインフォーマルな学びの価値を認め、それをうまくノンフォーマルな研修プログラムやフォーマルな講座につなげることで、住民の学習成果を“適切に生かす”社会をつくる基盤が整備されていくのである。
社会教育士・社会教育主事が
担う専門性と展望
以上のように、社会教育は学齢期から成人に至るまで途切れない学習機会を保障し、個人が自己実現や社会参加の中で学び続けられる環境を提供する大きな柱である。そして、その専門的推進役となる社会教育士や社会教育主事には、以下の観点が求められる。
1.総合的なコーディネート力
家庭教育・学校教育・社会教育それぞれの特性を理解し、地域住民や団体、行政機関、企業などと連携しながら、多元的な学習支援体制をデザインする力が重視される。
2.地域資源の発掘と活用
「社会の要請にこたえる」という姿勢は社会教育の根幹をなす要素です。社会教育士や社会教育主事は、潜在的な地域資源や人材を掘り起こし、それを社会教育プログラムに活かすことで住民の学習意欲を高める役割を担う。
次号に続く