神戸を「食と農」のテック産業で盛り上げたい

JR神戸駅とJR元町駅をつなぐ高架下の商店街、通称「モトコー」。再整備が進むこの地に、食と農に特化したプラットフォームが生まれようとしている。プロジェクトを主導する株式会社078代表取締役社長の西山志保里氏が目指すは「神戸市の新たな産業として食と農を世界に発信」することだ。

株式会社078 代表取締役社長の西山志保里氏
(大阪校11期生/2023年度修了)

同じ志の仲間が集う場を作りたい
新神戸駅で踏み出した最初の一歩

30年前に発生した阪神・淡路大震災。西山志保里氏は震災の前年に神戸へ転入し、震災で被災、翌年には実家が全焼と、ショッキングな出来事が続いた。いずれも直接的な被害はなかったものの「当時は専業主婦だったので、自分だけ安定した生活で良いのかと自問し、自分にもできることをしようと、いのちの電話相談室などのボランティア活動に参加して人々の悩みや辛さを訊いていた」という。

西山氏は2003年からフリーランスとして電話カウンセリングの在宅ワークを開始し、事業や経営の相談を受けるようになる。以前から株式投資を通して社会の動きや経済の流れを見つめてきた経験もあり、創業支援や事業開発などへ活躍の場を広げていく。

「神戸を元気にしたいと思って活動していましたが、ビジョンが大きくなるほど、自分にない強みを持ったメンバーが必要になりました。でも、当時の私には人材を雇用するほどの覚悟も実力もなく、それならば志を同じくする仲間が集まる場を作ろうと、コワーキングスペースを運営することにしました。日本には同様の施設が16カ所ほどしかなかった時代で、その意味ではパイオニアだったと思います」

2013年に神戸の市外局番を社名にした株式会社078を設立。翌年2月、JR新神戸駅直結の施設内にコワーキングスペースを開業した。この場所を選んだのは新幹線が停車する神戸の玄関口ながら、市街地から離れているために駅周辺が活性化していなかったからだ。「場ができれば人も知識も情報も集まって地域活性につながる」と西山氏は考え、創業支援をコンセプトに様々なワークショップやイベントを開催し、人々の集う環境を整えた。

神戸の市外局番078は施設名にもなっている

一方で、兵庫県や神戸市の認定・認証制度を活用して信頼度を高め、2019年には「神戸市仕事と子育ての両立支援拠点整備事業」に採択されて「保育園併設コワーキング」という半官半民のビジネスモデルを構築。直近では「ひょうご・こうべ女性活躍推進認定フレッシュミモザ企業」の認証を受けている。

事業構想大学院2年目に
食と農で新規事業を構想

2021年、それまで順調だった新神戸のコワーキングスペースは、コロナ禍のあおりでスペース縮小を余儀なくされた。先行きが見えない不安を誰もが抱えていたこの時期に、西山氏は「学びの友こそが最強の仲間、切磋琢磨できる同志と出会いたい」と学び直しを決意し、2022年4月に事業構想大学院大学(MPD)へ入学する。

「1年目は新しい保育園の開園準備などで忙しく、何かを始める余裕がなかったので、2年目は食と農をテーマに新しい事業を考えることにしました。私は元歯科衛生士なのでモノを噛んで食べる大切さをよく知っていますし、保育園の運営を通して子どもと食について考える機会も増えました。何より創業支援などで飲食に関連する相談事を多く受けており、一次産業や二次産業も含めて構造的な課題があると感じていたのです」

コワーキングスペース「plug078 元町店」

保育園併設のコワーキングスペースを展開

保育園運営の経験によって食への関心が高まった

そんな折、西山氏のもとにJR西日本から神戸元町高架下(通称、モトコー)に関する相談が寄せられる。モトコーは神戸駅と元町駅の間の高架下にある1km強の商業エリアのことで、2018年から再整備プロジェクトが進み、耐震工事等が完了した区画からテナントの入居が始まっていた。しかし、思うようにテナントが集まらず、創業支援に力を入れる神戸市の意向もあって、インキュベーション施設の計画が浮上したのだという。

しかし、市内には類似施設が複数ある上に、対象の区画は中心街から遠く、集客に苦戦するのは目に見えていた。そこで、西山氏はコンセプトで差別化する必要性を訴え、6次産業化の関係者が一堂に会する「ガストロスタジオ」を提案。JR西日本の関係者らと会議を重ねつつ、食と農をテーマにした構想を磨いていった。その結果、株式会社078はJR西日本だけでなく、自治体との官民連携のコンソーシアムを組むことを視野に、ガストロスタジオを運営することを決めた。

モトコーで開業予定のガストロスタジオ「食と農078」

モトコーから発信したい
神戸が誇る食と農の力強さ

「食と農078」と命名された施設には、誰でも利用できるコワーキングスペースのほかに、食品加工場やプロ仕様のシェアキッチンなど有料会員向け設備を置く予定だ。入会対象は生産者、加工業者、飲食店・小売店に加えて、食と農に必要な資材や生産設備等を手がける企業などで、彼らがここで地元食材を使った新商品やコラボ商品の開発、ブランディングなどを行うことを想定している。併設のレンタル店舗では販売も可能だ。

企画の目玉は神戸北野ホテルの山口浩シェフによる地元食材を使ったレシピ開発で、会員参加の料理のデモンストレーションなどを実施し、様々な形でトップシェフの味を楽しめるようにする。神戸には神戸牛などブランド力ある食材が揃っている上に繊細な加工技術も備わっており、「ただの食ではなく、神戸のおいしい食を世界に発信する」ことを目指す。

港町・神戸は重工業、ファッション、医療へと、主力産業を拡げてきた歴史があり、「次は食産業」だと西山氏は言う。「将来的には神戸に食の大学院を設立し、飲食に携わる人々の地位向上を図りたい」とビジョンは壮大だ。その強い思いに引き寄せられるかのように、株式会社078にはMPD修了生の鏡晋吾氏が取締役として参画するほか、別の修了生も入社を希望している。西山氏自身も同期の会社の役員を務めており、まさに学びの友が最強の仲間となった。彼らと共に、西山氏は「食と農078」の2025年内開業を目指して走り続ける。

 

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