菅原工務所 地元企業を巻き込んで市街地活性化を図る

日本全国で問題になっている空き家。昨今は住民不在が長期化したために、所有者と連絡がつかなくなる事態も起きている。菅原工務所の菅原脩太氏のもとに相談が持ち込まれた空き家も、複雑な課題を抱えていた。どうすれば空き家を再生し、地域活性化につなげることができるのか。菅原氏に構想を訊いた。

菅原工務所 代表取締役社長 菅原脩太
(庄内事業構想プロジェクト研究 修了生)

空き家が抱える諸問題を
いかにして解消すべきか

家屋は住民がいなくなると加速度的に劣化し、台風や地震などで倒壊する恐れがある。また、衛生上の問題や治安上の不安なども付きまとい、地域社会に様々な影響が及ぶ。近年は古民家に魅力を見出し、空き家を改修して飲食店や宿泊施設などに再生したいと考える人もいるが、物件によっては所有者が高齢で賃貸や売買の手続きができなかったり、親族から相続した所有者が遠方在住で連絡が取れなかったり、再生の道のりは平たんではない。

山形県酒田市で建設業を営む菅原工務所に相談が持ち込まれた、とある更地渡し条件で2階建ての空き家が現存する物件も複雑な事情を抱えていた。菅原脩太氏は2020年当時をこう振り返る。

「隣地との境界線が不明確だったため、この土地に新築するには境界確定という作業が必要でした。ところが隣地の所有者が不明でなかなか作業が進まず、確定のための費用負担の問題もあり、結局は物件購入をあきらめることになりました。その際に似たような課題を抱える物件がたくさんあることがわかり、このままでは中心市街地が廃墟街になってしまうという危機感を抱き、『空き家』という社会問題に取り組もうと考えました」

2023年3月、菅原氏は事業を承継して代表取締役社長に就任。5月から、事業構想大学院大学が酒田市、住友商事と共同で立ち上げた「庄内事業構想プロジェクト研究」に参加し、空き家問題をテーマに事業を構想するべく、フィールドリサーチを開始した。

プラットフォームはNPOが運営
地域を巻き込んで輪を広げたい

空き家を利活用するには物件の所有者と利用者の双方が合意する必要がある。その仲介を担うのは不動産業であることから、菅原氏は複数の不動産会社にアポイントを申し入れ、空き家事情について聞いて回った。

「空き家は不動産会社や行政が把握している以上に多数存在しますが、それら情報のほとんどは市場に出回りません。所有者の方がそもそも売りに出していないケースが多いからです。理由は、相続問題が解決していないとか、ボロボロの物件で売れないだろうと諦めているとか、固定資産に紐づく諸手続きが面倒で放置しているなど様々です。こうした課題の解決あるいは解決を支援すれば、空き家問題の解消につなげられるのではと考えました」

一方、利用者のニーズも多様だった。「新築の予算は出せないが、中古でも一軒家に住みたい」「古民家カフェを開業したい」「ペット可の宿泊施設を作りたい」など、ターゲットの絞り込みや用途の分類は一筋縄ではいかない上に、そもそも空き家情報が出回らないため「思うような物件が見つからない」「どの程度の改修が必要なのかが分からず計画が立てづらい」といった課題もあった。

そこで菅原氏は所有者と利用者の接点を創出するマッチングプラットフォーム事業を構想。さらに所有者と利用者だけでなく、不動産業者や工事業者、家財等の整理やDIYの支援業者など、空き家の利活用に必要なステークホルダーが「空き家情報総合プラットフォームサイト」で交流できる仕組みとすることで、社会課題である空き家の抑制につなげようと考えた。

「プラットフォームサイトの運営は、NPO法人こ家プロジェクトにて行うこととしました。『こ家』とは古い、小さい、個性的という空き家の『こ』を活かすという意味です」

NPOを立ち上げたのは、地域に点在する空き家問題の解決にはいろいろな地元民間企業の協力が必要だからだ。一部企業に利益が集中する仕組みはハレーションを招き、協力者が減ってプラットフォームが機能しなくなる。持続的な仕組みとするために「運営は利益を配分しない組織体であるNPOが担い、利益はすべて必要経費に回す仕組み」を選んだ。

菅原工務所もプラットフォームに参画する企業の1つに位置付けられる。NPOの代表理事は設立者である菅原氏が務めるが、自社事業と完全に切り離すことで公平性を確保する。「こうした活動が喜ばれれば、私の名を知る人が増えるでしょうし、それが回り回って自社に還流すれば、それで十分」だと考えている。

最初の一軒を自社物件に
ここから新しい物語が始まる

構想の起点となった例の物件は約4年が過ぎた2024年時点でも買い手が現れなかったことから、菅原工務所が現況渡しそのままの状態で購入。菅原氏自身が2階建ての物件を使って、空き家の利活用に挑戦することとした。

「地域活性につなげる取組として、フリーマーケットを企画しました。さらに、我々大人よりも若い世代に考えてもらう方が面白いアイデアが出ると考え、6月にワークショップを開催。高校生から様々なアイデアをもらいました」

高校生からは思いもよらないアイデアが飛び出した

拠点となる物件。残存家財を整理して1階部分をフリーマーケット会場とした

2024年6月に地元高校生を対象にワークショップを開催

その1つが、多世代が交流するフリースペースの開設だ。高校生は放課後、自習室や図書館などを利用するが、物件の一部を勉強部屋として開放してほしいとの要望が出た。地域の大人や子どもも出入りすれば、ある程度の賑わいが生まれるが、「静かすぎない方が集中できる」という。また、コスプレの撮影会場にしたいとの案も出た。畳の部屋は和風の衣装と相性が良いとのことで「自分たちだけでは思いもよらなかったアイデア」だと菅原氏は頬を緩める。

今後は、1階をNPOの事務所に使い、2階を様々な用途に使えるフリースペースとして貸し出して利用料を得る計画だ。ここを拠点に空き家の利活用推進ノウハウを蓄積し、地域活性に貢献するとともに、ゆくゆくは空き家問題を抱える他の地域にフランチャイズ展開したいと考えている。菅原氏は「問題の解決は難しくても、抑制はできると思っています。それには所有者だけでなく、利用者の意識改革も必要ですから、情報発信にも力を入れていきたいと考えてます。空き家でも手を入れれば素晴らしい空間になるし、民泊やカフェなど収益物件化も可能ですから、空き家に対する認識を少しずつ変えていってほしい」と締めくくった。