中海テレビ放送の成長戦略と未来への構想 地域をつなぎ選ばれる街へ

鳥取県米子市の中海テレビ放送は、「地域をつなぐ 未来へつなげる」をミッションステートメントに掲げ、地域活性化に貢献する様々な事業を展開している。2022年には、公共・民間・市民社会をつなぎ持続可能な地域をつくるための地域シンクタンク「Chukaiトライセクター・ラボ」も設立した。

加藤 典裕(中海テレビ放送 代表取締役社長)

情報格差解消などを目的に
放送事業からスタート

会社設立の背景には第一に、他地域との情報格差を埋めたいという想いがあった。その頃、鳥取県では視聴できるテレビ・チャンネルが限られており、若年世代が県外へ出る要因の1つにもなっていた。民放のニュースでも地域の情報は少なく、地元で必要とされる情報を地域に届ける役割も担った。インターネットの実現はまだ遠い未来の話だったが、将来の高度情報化社会への対応も視野に入れていた。

会社の設立では、同様の志を持つ地元の経済人や、賛同する170の株主が出資した。2000年にはインターネット事業の開始に伴い、加入者が急増。その後は公設民営方式によって、全国に先駆けエリア拡大が難しかった周辺地域にもネットワークを拡げた。自治体町長や担当者と共に各地域で数百回を超える地区説明会を実施することで、理解を得ながら多くの世帯にサービスを提供できるようになったことは、これまで以上に公益性や地域への貢献を意識するターニングポイントとなった。

エネルギーの地産地消で
新たな地域経済基盤を創出

さらに2015年には「ローカルエナジー」を設立し、エネルギー事業にも参入した。ローカルエナジーは、電力の小売・卸売や電源・熱源開発、コンサルティングを行う官民出資の自治体新電力会社としてスタートした。中海テレビ放送代表取締役社長でローカルエナジー代表取締役の加藤典裕氏は、「地域の持続的な発展に向けては地産地消が大切。エネルギーの購入による県外への資金流出を止めることを目指しました。また、環境保全のためには化石燃料に頼らないエネルギーが必要です。このような中、放送や通信に加えてエネルギーも供給するようになり、真にまちづくりの会社になったと官民や市民の方々にご理解いただけたと思います」と説明する。

ローカルエナジーの理念は、「エネルギーの地産地消による新たな地域経済基盤の創出」だ。事業を通じてまちのエネルギーをデザインし、地域内資金循環を実現することで地域に貢献していく。供給するエネルギーは、地域の廃棄物を活用したバイオマスや太陽光、地熱、水力、風力のような地域の特性・気候を活かしたエネルギー源で生み出されている。

2016年には米子市の公共施設向けに電力供給を開始し、その後は試行錯誤を繰り返しながら成長を続けてきた。また、それらの取り組みが評価され、2022年には米子市と境港市が環境省の「脱炭素先行地域」に認定された。(同社は共同提案者)

持続可能な地域づくりを目指す中海テレビ放送の事業領域は、近年さらに拡大している。2021年には米子市で、文化発信基地「Chukaiコムコムスクエア」の運営を開始。多様なカルチャー講座のほか、健康寿命を伸ばすためのフレイル予防教室などを開き、多くの地域住民に利用されている。

コムスクで開催しているカルチャー講座と、ローカルエナジー視察の様子

「私たちは地域密着を掲げてやってきて、この強みではどこにも負けないと思います。今後、日本を良くしていくためには、全国の地方が元気になることが大切です。鳥取県は人口最小県です。私たちが頑張っているのを見れば、他県の方々も勇気が出るのではないでしょうか。私たちは、全国の地方の見本になれるようなサービスを提供していきたいです」。

中海テレビ放送は2020年には、「持続可能な開発目標(SDGs)」達成に向けた取り組みを推進するため、国連が世界の報道機関などに参加を呼びかけている「SDGメディア・コンパクト」にも加盟。地域におけるSDGsの啓発やSDGsが掲げる17のゴール達成に向けた様々な活動を展開している。

未来を担う「考動人材」
を地域で育成

公共・民間・市民社会をつないで持続可能な地域をつくることを目的に、2022年には地域シンクタンク「Chukaiトライセクター・ラボ」も設立した。ラボの活動は、①地域を客観的に捉えて地域課題を発見し、解決に向けた施策を立案、②地域の課題解決や新たな市場の創出に向けた協調・共創プラットフォームとなり、多様なステークホルダーとの共同研究を実施、③地域・社会の課題をジブンゴトとして捉え、自ら考えて動く「考動人材」を育成、というものだ。

さらに、地域の未来を担う人材を育成するため、2022年度にはローカルエナジーが事務局となり、事業構想大学院大学事業構想研究所と「山陰未来創造プロジェクト研究」も開始した。初年度は米子市近辺を中心とする地元企業から集まった14人が研究員となり、山陰の持続可能な未来創造に向けた新規事業の構想を目指している。

事業構想大の事業構想研究所と、地域の人材育成のための「山陰未来創造プロジェクト研究」を実施

「山陰は控えめな人たちが多いと感じますが、それでは地域が生き残っていけません。ですから、山陰未来創造プロジェクト研究を通じた人材育成に期待しています。地域の人たちが一緒に学び、主体的に議論する場があれば、0を1にして新しいものを生み出したり、既存のものをバージョンアップして地域の価値を向上させることにもつながるはずです」。

一方、社内では近年、「企業は人なり」の思想に基づき、全スタッフが心身ともに健康であることを第一に、「健康経営」の実践に取り組んでいる。また、今後はバーチャルな世界がより重要になる中、「先進的なテクノロジーに精通し、かつリアルな社会でも活躍できる人材が求められます」と加藤氏は言う。

「社員にはリアルとバーチャルの間に立って、つなぎ役ができるようになって欲しいです。また、新しい事業を考えるのはそれぞれの社員なので、私は良い環境を作り、そういう能力を持つ人を応援していきたいです」。

社内だけでなく地域でも新しい事業を構想する人たちを応援し、「新しい事業をやるなら、米子がいい」と選ばれるようなまちづくりを進めていく。

 

加藤 典裕(かとう・のりひろ)
中海テレビ放送代表取締役社長、ローカルエナジー代表取締役